見えざる者の手 5
一旦ジュリと合流すると未だに傷の手当てを続けており、その部屋の奥では新しいお弁当を開けて次々へと口の中へと入って行くエアロードの姿があり、それをみながら一般客は物珍しさにマジマジとみていた。
正直かなり人の目を引いているのでなんとかしたいのだが、海は両手を挙げて降参ポーズを取りながら苦笑いを俺達に向けてくるので恐らく既に海が実行済みなのだろう。
俺が怒鳴りつけて向っていっても良いのだが、人が多い中そんなことをすればどうなるかなんて俺にでも分かってしまうのだから困りもの。
しかし、エアロードとジュリの治療で人の目を引いていることもあり正直この混雑具合で新しい敵が襲ってきた場合海で守り切れると思わない。
海は俺と同じで眺めの獲物で戦う為、人が密集した場所での戦いは正直海には難しいところがあり、ジュリや役に立たないエアロードを守り抜くことは難しいと言わざる終えない。
となると誰かが此所に残る必要があるが、そうなるとそれが出来るのはレクターぐらいだろうと思って俺はレクターを黙って見つめて意思を見せるが、レクターは首を横に傾げるだけ。
「海だけで守り切れるか心配だからお前が此所に残れ」
「ええ!? 不要だと!? もういらないと!?」
「失礼な事を言うな!! 皆が見ているだろ!! ただ単にこれだけの群衆の中で皆を護ったり敵と戦ったりしていると海だけが心配だってだけだ!」
「ブー! エアロードがちゃんとしていればいいだけじゃん! 俺を巻き込むなよ!」
「じゃあお前が説得しろ。それが出来るまで追いかけてくるなよ!」
そう言って俺はエルメスさんとブライトと共に歩き出し、レクターは後ろから俺の姿を睨みながらブーイングを続けていた。
無論そんなレクターを全部無視して進んで行き、第一車両まで歩いて移動していたのだが、その第一車両の真ん中辺りの席から違和感をハッキリと感じた。
俺達への明確な敵意と同時に隠しているのだろう殺気がドアの隙間から漏れ出しており、まるでそこだけ魔窟とかしているんじゃ無いかと思われるほど。
俺とエルメスさんは慎重になりながらドアに手を掛けてゆっくりと開いていく、すると細い体付きで青白い肌をしている迷彩色の服を着ている男。
その男を見たとき俺はボウガンに似た気配を感じ取り、男はそっと立ち上がって優男のような顔つきを俺の方へと向けるのだが、同時に覗かせる八重歯が彼を吸血鬼という存在に見せつけている。
彼は右腕を俺達の方へと伸ばし、俺とエルメスさんは何時でも戦闘状態に慣れるようにと神経を尖らせると、俺達の目の前にいた男は突然自分の腕を切り離した。
あまりにも突然の行動故に俺は驚いてしまうが、エルメスさんはその状況でも敵と切り離された腕から目を離さない。
すると切り離された腕が変貌していくと部屋のドアをギリギリ通れるぐらいの大きさの巨大な異形の化け物と変わり果てる。
四本足の蜘蛛みたいな体をしている化け物、四本足の蜘蛛なんて聞いたことが無いがそれでもその両足は鎌のように鋭い刃のようなモノに変貌していた。
男はそんな異形の化け物の後ろに隠れており、化け物は右前足を使って俺達に向ってなぎ払ってくるのだが、俺とエルメスさんはバックステップで回避。
俺はなぎ払った所で駆けだしていき襲い掛かっていくと、化け物は俺からの攻撃を左前足で防ぎつつ前足の間から突然現れた虫の頭部のような部分が襲い掛かってきた。
俺は口を開いて襲ってくる化け物を仰け反って回避し、エルメスさんは両手をパンという音と共に拍手しつつ右手を横薙ぎに振る。
すると化け物首が吹っ飛んでいく、俺はそのまま化け物を縦に切り裂くのだが、部屋にいたはずの男は居なくなっており、その代わりに部屋の窓が大きく開かれたままになっていた。
「部屋の外ですかね?」
「だろうね。部屋に隠れるスペースがあれば別だが…」
「ですがエコーロケーションではこの部屋にいたはずなんです…本当にいつの間にかいなくなっていて…」
「なら何か隠れる手段があるのかもしれないね。例えば…影に隠れるとか…」
俺は消え在る化け物の影、椅子の下などへと意識を向けていくと、上の網棚の影から鋭い爪を伸ばして俺の喉元目掛けて襲い掛かってくる敵へと逆に斬りかかる。
エルメスさんは見えない『何か』で敵からの攻撃を受け止めつつ、俺は一歩下がった所で敵の姿がよく見えるようになり、敵の喉元目掛けて斬りかかるが、その時敵は口を大きく開けて真っ黒い何かを吐き出した。
それがヤバい攻撃だとハッキリと分かった俺とエルメスさんは急いで出て行く、すると部屋の壁が衝撃で吹っ飛んでいき、周囲の部屋を纏めて瓦礫に変える。
瓦礫に変えていく瞬間俺のエコーロケーションに反応したこの車両にいる人達、運転席は分厚い鉄の壁がある為大丈夫だが、それ以外の部屋にいる人達は危険でしか無い。
『飛永舞脚!』
俺はダッシュで部屋に入っていき一人一人の客を確実に後方車両へと避難させていき、衝撃波が列車の壁を吹き飛ばしたときには俺とエルメスさんだけだった。
部屋の中心でまるで何でも無いように佇んでいる男、第一車両は真ん中を中心に何もかもを吹っ飛ばしているのだが、それでも走る上ではまだ問題なく行えている。
反対側の壁は半分ほど吹っ飛んでいて、案の定運転席は無事なようだが、運転している運転手は心配そうな顔をして何度もこちらを確認していた。
あんな攻撃を何度も何度も放たれては列車が持たないし、下手をすれば駅に突っ込んでいく際に脱線なのは間違いない。
「駅までそんなに時間は無いと思いますけど…」
「ああ。そろそろ速度が落ちる頃だろうが、ここで奇妙な事をされたらそのまま駅に突入するときに派手に脱線だね。お互いに立ち位置には気をつけよう。特に運転席だ」
俺は後ろにいる乗客に後部車両に逃げるようにと告げ、悲鳴を上げながら逃げていくのを見て結果から見て逃げてくれたのだから良しとした。
男は俺達の方へと向ってゆっくりと顔だけを向け、俺はそんな男に向って駆けだしていくと男は俺の右側頭部目掛けて鋭い回し蹴りを決める。
俺はそれをしゃがんで回避し、同時にエルメスさんは敵に向って見えない刃を放つ。
男はその攻撃を敢えて避けないで受け止めると、貫通した見えない刃は頭や胴体に穴を開けるのだがその穴は一秒もかからずあっという間に治ってしまう。
「雰囲気でなんとなく思ってはいたが、やはり…吸血鬼か。だがボウガン居ないと言う話だったが。京都で確認されたタイプか?」
「彼らは私たちのようなタイプを『魔導兵』と呼んでいたが…」
「では魔導兵君。君はどうしてこの列車に?」
「君達を襲えという任務だ。どうしてなのかは分からない。理解しようとも思わない。私自身が求める結果さえ在れば良い」
「と言う事は君は自ら望んでそんな存在になったと? たしか聞いた話だが君達魔導兵は不死皇帝が改造して出来ると聞いたことがあるが」
「その通りだ。こんな世界私個人はどうでも良い。私の願いが叶えばどうなろうと構わない。あくまでも君達を襲えと言われただけで勝てと言われた訳じゃ無い…私はこの辺で去らせてもらう」
そう言って彼は右の掌に謎の黒い塊を作り出してそれを空中へと放り投げると、俺はそれを急いで緑星剣で列車の外へと弾くと、それを列車の外直ぐで破裂しそうになるが、それをエルメスさんは見えない障壁で威力を防いでくれる。
その一瞬の隙で男は列車から飛び降りてそのまま行方が分からなく成ってしまった。




