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見えざる者の手 3

 無撃の中で覚えた三ノ型である『永延舞』は永延の部分が無限と掛かっているのだと分かったが、問題の俺とブライトに見せた記憶が結局の所で『異能殺しの剣』であるのかどうかはまだ推測の域を脱することが出来ない。

 今ここで議論することではないと思いグッと堪えるとして、問題は俺達の車両を挟む形で現れたことは偶然なのか、それとも偶然ではないのかという事であり、敵は近くにいると想定するべきか、それとも想定しないべきか。

 狼の死体を操る方法なんて別に難しくもないし、やろうと思えば遠隔でも行うことが出来るのだが、問題はこの列車の速度に合わせて俺達を襲うことが出来るのかどうかである。

 と言うか出来ないわけじゃないが、そっちは流石に難易度が上昇してしまうし、やるとなると常に俺達の居場所を把握しておく必要がある。

 俺達が此所の車両にいること自体調べることは簡単だと思うが、正直駅の辺りでつきまとわれていると流石に分かってしまう。

 こう言っては何だが、駅では流石に付き纏われてはいなかったように思う。


「どうです? エルメスさんは付き纏われていたと思いますか?」

「どうだろうな…私は全く心当たりが無かったが、しかし列車に乗ってからみられているという感覚はある。しかし、どこからみられているのか分からないというのが正直だね」

「そうですか。それ自体は俺もなんとなくで感じていましたが…エルメスさんが感じて居たのなら間違いなさそうですね」


 俺も列車が動き出してからずっと感じて居た視線だが、正直エルメスさんと同じくどこから来ているのかまるで分からないので困っていた。

 テッキリ俺の勘違いかと思っていたが、同じ魔導持ちのエルメスさんは分かっているというので間違いが無い。

 視線の先を探すべきか、それともこの列車を探し出すべきなのかと悩んでいると、部屋の中で大人しくしていた師匠が窓の方に体を向けて俺達に顔だけを向け、同時に上に向って指を指す。

 それが何を意味しているのかふと考えて、俺は窓の外に顔を覗かせて師匠の言うとおり上を見てみるとそこには人の目が大きくこちらを見ながら列車と併走していた。

 あまりにもホラー展開故に俺は心臓が飛び出るような想いをしてしまい、一瞬だけだが悲鳴が出かけてしまったが、同時に俺は視線の正体が分かってしまった。

 あんな目で見られていたらそりゃあ視線感じるわ。


「うわぁ!? キモ!!」

「レクターは本当に…まあ分からないでも無いけどな。何なんだろうな…俺達をみていると言うことか? ならあの術を発動させている人間がこの自体を引き起こしていると考えても良いと言うことか…」

「かもしれないね。しかし、視線をあんな形で展開している術者か。多分だけどこの列車にいるね」

「どうしてそう思うんですか?」

「ジュリ君。君はこれだけの術式を遠ざかりながら、もしくは急激に接近しながら常に同じ場所を永遠に見続ける事が出来ると思うかい? それも死体を操りながらだ。術者がこの列車に乗って一緒に移動していれば術もそれに合わせて移動するのなら納得は出来るだろ?」

「そうですね。ならこの列車の中にいると仮定してここと前後の車両にはいないでしょうね。騒ぎを起こす車両にいたら下手をすれば戦闘に巻き込まれてバレる可能性がありますし」

「だね。無論それを想定して敢えてというパターンもあるが、この場合外しても良いだろう。この列車の構成を知る必要があるね」


 ジュリがタブレットを使ってこの列車を車両編成を俺達に教えてくれた。


「この列車は八両編成です。一番前が運転席と一等席の客室、次に食堂が続きそこから三両目から五両目までが普通車両です。六車両が一般向けの食堂、七号車が安上がりの車両で、八両目は貨物車両だそうです」

「パターンを考えようか。ここは四両目。前後の普通車両は無いと考えるとして、まずは後ろの方へと向って調べてみよう」

「て言うかソラがエコーロケーションで調べれば良いんじゃない?」

「不審な動きをしているなら直ぐに分かるが、この状況でおかしな動きをしている人間はいないさ。いたらちゃんと説明している」


 俺のエコーロケーションでもおかしな動きをして居る人間はいなかったし、今この瞬間も列車全域を監視しているのだ。

 エルメスさんが車掌さんに事件が起きたことを悟られないように一般客はなるべく部屋にいるようにと指示を出し、同時に怪我人はジュリが、海はそんなジュリを護るような形になった。

 俺とレクターとエルメスさんとブライトでとりあえず後方車両チャックから始めることにした。

 念の為にとザッとではあるが、普通車両も調べておこうという話になり、普通車両を調べながら後ろへと移動して行く中で俺はエルメスさんに先ほどの剣の記憶を聞いてみた。


「先ほど言っていた剣の記憶でしたか? それってどんな剣にも在るモノなんですか?」

「いいや。どうだろう。私が聞いた話だと強い想いや概念上の剣には宿りやすいと聞いたな。性質が似通っている人間に剣が持って居る記憶を見せるのだと。まあその場合相性が良い剣は鼓動が聞こえると聞いたけど」

「鼓動? それって心臓の音みたいな奴? ソラはそんな声が聞こえるわけ?」

「いや…聞こえないけど? 耳を澄ませてみても全く聞こえない」

「ハハ。流石に私は言い伝えだと思うが、そもそもこの距離で聞こえたら怖いだろうに…」

「確かに…どれだけ地獄耳なんだという話だろ」

「でもさ。それを言い出したらソラとブライトが何でその記憶が見えたわけ? それって今探している剣が見せた可能性が高いんでしょ?」

「正確にはそれに共鳴して見せた『不死殺しの剣』だろう。剣を振るっていたのはあくまでもジェイドだし、正確にはジェイドの記憶だったしな」

「ならそのジェイドという人物。今異能殺しの剣の場所にいるかもしれないね。だから兄弟剣が共鳴してジェイドの記憶を君達に見せた」


 ならどうして俺はともかくブライトもと思って居たが、よく考えると聖竜であるブライトにも同じように『異能殺し』としての才能を持っているし、当時から記憶の一部を継承し続けてきたブライトなら見えるのも当然なのかもしれない。


「ブライトは無撃について知っているのか?」

「う~ん…全部で五つの型があると言うことと、なんか記憶の中に『未完の技』だという記憶しか無いな」


 ブライトの発言に食いついたのはエルメスさんで、「未完とは?」と聞くので更に考え込むような顔をする。

 何を考え込んでいるのか、その答えがハッキリ聞こえてくるのにほんの少しではあるが時間が掛かってしまった。


「僕も良くは分からないんですけど。ジェイドはワザと無撃を未完にしたと聞いています。何でも無撃には隙が一つだけ残していて、それは意図された事だとか…それが何なのかは僕にも分からないんだ」

「え? それって結局で面倒とか…」

「レクターと一緒にするなよ。何か意図があるのかもしれないけど…あのジェイドが大人しく教えてくれるとは思えないな。まあ覚えていけば分かる話か…」


 ワザと未完にした理由、それが何なのかは本人にしか理解しようもない話で、それを今此所で考察しても意味は無い。

 無撃、俺が今習得しようとしている環境に捕らわれる己の肉体のみで引き出すことが出来る剣術の一つの形。

 俺が習得しているのは一ノ型である『無我』と三ノ型の『永延舞』であるが、他にも三つ型があることは間違いない。

 それをジェイドとの戦いの中で習得しなくてはいけないのだと思うと少しばかり気が滅入る。

 何せ振るったからこそ分かるのだが、攻撃としての完成度の高さが異常に高いワザばかり。

 肉体をキチンと把握していないと出来ない技ばかりだったからだ。


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