ベルリン特急 0
俺達ソラ・ウルベクト組がパリの駅からドイツのベルリン行きの列車に乗ることに成功したのだが、やはり俺達の知っている日本の列車とは違い、ガイノス帝国でもみられる個室型の列車であり以外と空いているのか車両へと入って行くと好きな部屋を選ぶことが出来た。
適当な部屋の中へと入って行き俺は真っ先に席に座ると俺の膝の上にブライトが座り込んでニコニコしていた。
対面にはどこから調達したのか大量のビニール袋を抱えているエアロードとレクターと海が、俺の隣にはジュリが座り込んで一旦落ち着くことが出来る。
列車がゆっくりと動き出し、振動が座席を通じて俺達に「動いているよ」と教えてくれ、窓の外から見えるパリの街並みが流れていく様をみていると、俺の対面に座っていたエアロードが突然ビニール袋をゴソゴソと弄り始めた。
そして中から出てきたのは日本産の駅弁である。
唖然とする俺とジュリと海、ブライトは「美味しそう…」と呟きながら指をくわえており、レクターは負けじと持ってきている旅行鞄からお菓子を取り出した。
「……どこで買ったんだ? まさかパリで買えるわけがないし、まさかアメリカで買った訳じゃないだろ?」
「フフン! 列車旅になると聞いていたからな、前日にダッシュで日本まで行ってきて大量購入してきたのだ! 何せ今東京のある場所では駅弁フェアなるイベントをしていると聞いていたからな!! 私の異能を持ってすれば駅弁を崩すことなく安全に且つ素早く運ぶことが可能なのだ!!」
「異能の無駄使いを……そんな下らない事をして居る暇があるなら少しぐらい家に対して貢献しようとか…」
「え? 居るだけで十分だろ」
「…そのうち追い出されないことを祈っていることだな…俺の機嫌次第で明日以降野宿だぞ」
「何!? 貴様! 脅しつけるのか! 室内で温々と育ってしまった怠け者の竜が今更野宿が出来ると思っているのか!?」
エアロードの情けない言葉を前にため息を吐き出して額を押さえていると、俺の膝の上で大人しくしていたブライトが駅弁を欲しそうに笑顔で両手を前に突き出す。
エアロードは物凄く嫌そうな顔をするのだが、その対面でブライトを膝の上に置いている俺が鋭い睨みを向けると大人しく一つだけ渡してくる。
「そんなに量があるなら一つぐらい良いだろうに…どうせ複数個買っているんだろ?」
「どれも美味しそうなのだ! それを一つだけ譲るなど私の心が許さない!!」
「貴様…また太ってダイエットしたいのか? またお前のダイエットに付き合わされる身になって欲しいね」
「大丈夫。食べた分運動すれば太らないと聞いた…奈美がダイエット特集を見ていたからな」
「あの馬鹿妹は…余計な知識を植え付ける…」
ジュリが「まあまあ…」と俺を宥め、ブライトは貰った『神戸牛弁当』と書かれているお弁当を開いて食べ始める。
お箸を器用に使って口に運んでいくブライト、ジュリは口いっぱいに米粒を付けているブライトの口周りをティッシュで拭いていく。
何やら微笑ましい光景に俺と海はつい微笑んでいると、ドアをノックする音が消えてきたので俺達は「どうぞ」と言ってドアを海が開ける。
するとドアの向こう側に笑顔を絶やさない白髪と黒髪のまだら模様の五十から六十代の男性が佇んでおり、海やジュリ達は皆首を傾げるのだが俺だけが唯一真顔で居られた。
「ソラ君のお知り合い?」
「まあ…生きているって噂は聞いたのは最近だけど…本当に生きてらしたんですね…元魔導協会所属の第一席第十位…俺の前任者だよ」
「ソラの!? え? でも死んだって…」
「初めまして。私はそこの彼の前任者である『ノルメス・ウォーン』と呼ばれている者だ。流石はガイノス帝国。私が生きていると言うことも把握はしていたか」
笑顔を絶やさないノルメスは納得したような顔をしていたが、俺は彼をみて別の意味で納得して居た。
「なるほど。機竜が言っていたとおりですね」
「ほほう。私をなんだと?」
「笑顔でいるのに何時だって諦めているような男だと」
ノルメスは諦めているような顔をしていた。




