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凱旋門の戦い 10

 ギルフォードと対峙するような体勢で佇むボウガン、ある意味京都以来の再会という形になり、ボウガンとすれば自分に問答無用で襲い掛かってくると予想していただけに、ギルフォードが佇んでいる姿は拍子抜けだった。

 ボウガンと背中合わせに立っているメメントモリの目の前には右半身を吹っ飛ばした張本人であるジャック・アールグレイ、ジャック・アールグレイを八つ裂きにでもしないと今のメメントモリは感情の高まりを抑える事が出来そうに無かった。

 初めて感じる体が吹っ飛ぶという感覚と、同時に襲い掛かってきたナノマシンの回復を阻害する竜の力に苛立ちを自分で抑えきれない。

 闇竜ダークアルスターはジャック・アールグレイの背中に引っ付いて離さないようにしつつ、戦い自体はジャック・アールグレイに任せる気だった。

 凱旋門が基本的に竜にとって不利なのは見れば分かっていた話しだったし、何よりも傷ついてしまっているダルサロッサとシャインフレアを見れば分かる話。

 二人に対して「愚かだな」という顔をして見守っており、それに対して苛立ちを覚える二人。


「このクソ野郎。てめぇだけは私の手で切り刻んでぶっ殺してやるよ!」

「フン。その口調。いい加減元に戻らないんだな。一生そのままの方が格好いいんじゃ無いか? あの無機物を装うような喋り方より格好いいさ。良かったな…人間っぽくなれて」

「よっぽど私に殺されたいらしいな」

「おやおや。まるで私が殺されるかのような喋り方をするものだ。今から私に殺される化け物がおかしなものだ」


 ボウガンは自分の背中から向こう側で繰り広げられる口戦を前に敢えて見ないようにし、同時にぶつけ合う殺気に背筋が冷たくなる感覚を覚えた。

 しかし、実際ボウガンが感じるあっけなさ、ギルフォードから感じる感覚は『殺意』や『怒り』では無く『戸惑い』だったりする。


「なあ…俺のことを恨んでいないのか? あの時はあんなに恨んでいるような別れだったが?」

「…分からない。妹は実際無事だし、お前がただ悪意を持って行動しているのか今はハッキリと断定できない。だからお前と戦っていれば俺なりに答えが出せると思っている」

「悪意はあるさ。じゃないと俺はあんなことをしない。それともお前には俺が善良な存在に見えるのか? 俺は…」

「人間に戻りたい化け物だろ? なら……それは人間という事じゃ無いのか?」


 人間に戻りたいと願っているのならそれは人間では無いのか、それはかつてギルフォードにソラが告げた言葉であり、同時にギルフォードの中に存在している疑問の根底を成している存在。

 それは千年以上にわたって生きてきたボウガンのたった一つの願いであり、隠し続けてきた想いなのかもしれない。

 そう思ったとき、そんな事を願って生きてきたボウガンが正直少し可哀想にも思えてしまったのだ。


「……なら知れば良いさ。俺が何を思い。何を感じて。何を願っているのかお前の身をもって知れば良い。影縫い!」


 ボウガンは右足で強めに地面を叩くとボウガンの影がまるで鋭くしなやかな剣のようにギルフォードへと襲い掛かっていき、ギルフォードはその攻撃をギリギリまで引きつけた状態でバックステップで回避。

 そして影脱いで生じた視界の悪さを利用してボウガンの右側面へと回り込むように移動し、その状態で体を捻った際にそのまま右側の剣を力一杯振り回す。

 長く伸ばした黒い炎の一撃を敢えて受けつつ、そのままギルフォードへと蹴り掛かっていく。

 黒い炎は本来ボウガンの再生能力を阻害するが、ボウガンは皮膚を脱皮するように黒い炎を排除し、そんなボウガンから来る蹴り攻撃を双剣で受け止める。

 左側の剣の熱量は肉体を溶解するほどのはずだが、ボウガンはその熱を影を盾にすることで防ぐ。

 すると、メメントモリの激しい連続刺殺を回避する際に生じる余波が凱旋門を傷つけていく。

 破片がボウガンやギルフォードへと向って飛んでくるが、全く気にする素振りを見せない二人。


「死ね。死ね。しねぇ!」

「少しは手加減してくれよ…こっちは生身の人間なんだぞ?」


 口調の荒いメメントモリを知らないボウガンからすれば物凄く興味のある話だが、今後ろを向いて馬鹿にすれば敵を一人増やす羽目になる上、後でジェイド辺りから今度こそ本当にオコラテルト想い止めた。

 その代わりポケットに忍ばせてあるICレコーダーのスイッチをずっとオンにしており、それで今度揶揄おうと思っていたのだ。


「分かったろ? 私はお前達を利用して自分の目的を達成しようとしている薄汚い化け物なんだよ」

「そうだな。確かにお前は自分の目的の為に周囲を利用しようとしているのは分かっている。だけど…お前自身見ないようにして居るんじゃ無いのか? 自分の…本当の目的を。諦めようとしているんじゃ無いのか?」

「……何が言いたい? お前は未だに俺が優しい化け物だと…そう言いたいのか?」

「ああ。お前は苦しむことが分かっている妹に辛そうな顔を向ける事が出来る優しい人間だと…俺はそう思っている。だからこそお前と戦って俺自身の気持ちに線引きをしたいんだ!」


 左側の剣の熱量はボウガンでもハッキリとヤバいと想像させるのだが、黒い炎と違って見えるやばさが無い分だけ厄介に思えた。

 後ろに身を引いて攻撃を回避しつつ、左側の剣を足で蹴り上げる。

 すると上に打ち上げた剣が何かに弾かれてギルフォードの左手に収まり、ギルフォードは口角が若干上につり上がった。


「あの女か…」


 ボウガンはレインを抱きしめて盾で身を防いでいる湊を睨み付けるが、今此所で襲い掛かればギルフォードが後ろから襲い掛かって首が吹っ飛ぶだけだと簡単に想像出来る。

 メメントモリの方もアベルの乱入で苦戦を強いられ始め、メメントモリは凱旋門中に隠しておいたナノマシンを素早く回収し、更に体からしなやかな剣を呼び出して攻撃を激しくしていく。

 アベルは息を吸い上げて心臓の鼓動を早くさせ、筋肉の強化具合を更に強くさせつつ、大剣で襲い掛かってくる剣による刺殺攻撃を捌くために素早く動く。


「貴様の動きは鈍いって何度言わせれば分かるんだよぉ!! そんな大きな武器を振り回してりゃ遅くなんだろうがぁ!!」


 アベルは一つ一つの攻撃を目でハッキリと捉え、そして大剣で弾いては細かく動いていく。

 すると予想以上に捌いていく姿に更に苛立ちを覚えていくメメントモリ、そっちに意識が向いたと感じたジャック・アールグレイは走り出す。

 レイピアの剣先をメメントモリの右肩に貫かせ、振動で右肩から先を切り落とす。

 再び強烈な舌打ちを見せるメメントモリ、ナノマシンで再び腕を作り出そうとするのだが、そうしたときアベルへと攻撃していた手数を減らしてしまうという失態を演じてしまった。

 アベルには自由に動くことが出来る時間を与えてしまったメメントモリ、アベルはダッシュで距離を縮め、周囲から襲い掛かってくるしなやかな剣による攻撃を致命傷だけ避け、そのまま胴体を真っ二つにしようと横に強めに振り、それを後ろに下がりながら避けたところでメメントモリは右半身を吹っ飛ばされた記憶が蘇る。

 後ろから来るのではと想像し全身からナノマシンで形成した弾丸を周囲に拡散させるため身を縮め、そのままナノマシンを使って攻撃を仕掛けた。

 湊はレインを抱きしめて盾で攻撃を防ぎ、アベルも大剣を使って攻撃を防ぐ。

 メメントモリはこれなら近づけないだろうと想像し、顔を上げたその瞬間ジャック・アールグレイが眼前に近付いておりレイピアの刃先が突き刺さっていた。


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