凱旋門の戦い 3
ギルフォードは起きると自分が充電しておいたスマフォの場所が変わっていることに気がつき、辺りを見回すとダルサロッサが居なくなっていることに気がついて部屋中を探し出す。
幾ら探しても部屋の中に居ないので一旦ベットに腰をかけてから隣のベットで寝ているレインの頭を優しく撫でる。
フワフワした明るい赤い髪が指と指の間に入り優しく撫でてみると、レインは「ううん」と声を漏らす。
気持ちよさそうに寝ているなんて一体何時ぶりなのだろうとギルフォードはふと考えてしまう。
クリスマスのあの時レインはボウガンに襲われて苦しい毎日を過すようになり、今この瞬間も決して楽なわけでは無いが、それでも眠れるようになったのは大きな進展だとギルフォードは思っていた。
時を同じくし起きた湊はある人物に連絡をかけてもまるで出てこない事に不安に思い一旦外へと出て行きもう一度試してみるが、やはり連絡が無い。
ため息を吐き出しているとホテルへと戻ってきたダルサロッサに捕まって温まっているシャインフレアと合流した。
浮かない顔をしている湊から詳しい話を聞き、シャインフレアはふと考えてからある考察を口にした。
「先ほどアベルからベルリンの騒動の時にベルリン市民以外から死人が出たと聞きました。貴方のその知り合いと連絡が取れないのなら…」
「シャインフレア…!」
ダルサロッサも聞いていた話と組み合わせれば推測など簡単で、ダルサロッサはそれを止めようとするが今更であり、湊は急いで知り合いの仕事先へと連絡を飛ばすと訃報を耳にすることになった。
「魔導協会所属のソラ・ウルベクトの前任者である元第一席の第十位だった『ノルメス・ウォーン』さんが亡くなったそうです。ベルリン市民を護ろうとして…魔導の酷使が理由であるらしく…」
「そうですか…ウォーン。剣竜でしかた? 与えたのは」
「だったな…そう聞いている。あの剣竜が珍しく魔導を与えた人間だったはずだし、確か後継者がいないという事で第十位から退き、後任で『龍の欠片』が手に入ったソラが着任したとエアロード達から聞いた」
「そうなのですか…ソラさんという方の前で亡くなったそうです」
湊の落ち込む顔を見れば人柄がなんとなくは分かるような気がしたシャインフレアとダルサロッサ、二人は湊を近くのベンチまで誘って話を聞いてみようとした。
「どんな方だったのですか? 聞く限りでは人柄が良い人間のようですが」
「この街に来たばかりの時、ウチは駅へと見送ることになったのですが、その間ウチの異能について相談にのってくださって…でも、その時に言っていたんです。「私はね…疲れたんだよ。救っても救っても…募る期待に応え続ける毎日。辛いんだよ」っと。その時の辛そうな顔をウチは…」
「フム。なら今回の事件に関わろうと思ったのは何故だ? 元とはいえ魔導協会所属だからか? それとも後任の実力を見て起きた方とか?」
「どうでしょう…詳しくは聞いていませんが、魔導大国を仲介して異世界連盟からの要請だと聞いています。補佐要員だと聞いています」
「色々と思惑があるのでしょう。私達が知りようもありませんが…ソラなら知っているのでしょうけれど…敵を追いかけているソラに電話をするのは流石に気が引けますね」
「まあ…やめておいた方が良いな。あれで割と引きずるほうだしな」
ダルサロッサの言葉で今度こそ連絡を出すのを止めるが、湊は大きなため息を吐き出してからスマフォの画面をそっと見つめる。
そんな大した関係でも無く、出会って間もない関係でしか無いはずなのに、こうして見るとあっけない終わりに湊はやるせない気持ちになった。
異能を持っていようと、魔導を得ていようと結局でただの人間でしかなく、亡くなるときは亡くなってしまうのだと思い知らされる事件でもある。
彼が何を考えていたのか、湊はいつかそれを知る日が来るのだろうかと思い目を瞑る。
『人間何を成してどこに向うのかは誰にも分からんよ。死ぬときに人生が分かるのだと私は思っているよ。最も…心の死んだ私がまともな人生だとは思えないがね』
「ノルメスさん…貴方は人生が分かったのですか?」
湊はスマフォを抱きしめながらふと立ち上がり、無理矢理笑顔を作るのだがそれが作り笑顔で有ることなんて誰でも見抜くことが出来る。
昨日ベルという女性のみに起きた出来事が湊の中で未だ完全に処理できておらず、昨日の夕食でもあまり食事が進んでしなかったこともキチンと把握している二人。
同時に途中食べ過ぎてあまり食欲が成ったシャドウバイヤという存在もきっちりと把握していた。
「思って上げれば良いと思いますよ。それだけで彼はきっと…」
「ですね…! そうします!」
三人でホテルの中へと戻っていくとギルフォードがレインを連れてダルサロッサを待っており、ギルフォードはダルサロッサを捕まえて物凄い睨みを向ける。
ダルサロッサはまるで怒られる理由が理解出来ず疑問顔をして口をパクパクさせた。
「お前…人の携帯弄って何をした?」
「し、調べ物を…それ以外は何もしていない! 断言する」
「ほら…! ダルサロッサは何もしていないって言っているんだから此所までの話! 皆で朝食を食べよ! アベルさんが席を取って居てくれているんだって」
ダルサロッサとシャインフレアは心配そうな顔をしつつレストランへと入ってくと、既にアベルはバイキング方式のレストランで席を確保していた。
席へと近付いていくと三つのお皿を山盛りにして黙々と食事をしているシャドウバイヤを発見しダルサロッサとシャインフレアはため息を吐き出す。
湊はそっと近付いていく。
「そんなに食べたら動けなくなるのではありませんか?」
「大丈夫!」
「エアロードと呼びますよ…貴方はエアロードを見て少しぐらい省みることをしないのですか?」
「食べれば済む話だろ! 私に任せておけ!」
ダルサロッサは大きなため息を吐き出しながらレインと共に料理が大量に盛り付けられている場所へと向って一旦全ての料理を確認する。
バイキング方式のレストラン自体初めてのことで、あまり通ったことが無いのでダルサロッサからすれば見慣れないフランス料理が並んでいるのだから興奮してしまう。
が、同時にシャドウバイヤの方を見て一瞬で冷静になっていく。
「ダルサロッサはどれから食べる? レインはね…このフルールが沢山のっているゼリーみたいなの」
「そうだな…フレンチトーストとやらを食べたいな」
朝食を幾つか複数のお皿に乗せてから自分の席に戻ると、半分まで食べて未だ食欲を失っていないシャドウバイヤを発見した。
純粋にレインは関心しているが、ダルサロッサは心の中で「ああなるまい」と決めた瞬間である。
レインがお皿に盛り付けた料理を見て写真を撮ってみたくなったダルサロッサ、一枚写真を撮ってからデザートを食べていくレインも写真に収める。
「最近本当に写真に嵌まりましたね。そんなに楽しいのですか?」
「ああ。楽しい。綺麗な写真が撮れると興奮する。今度は光の角度やレンズにも拘ってみたい! 色々あると聞いたぞ…」
「レインも沢山撮って貰った!」
「それ…後で見せてくれ。レインを撮ったという写真」
「駄目だ。最悪消すだろ。これは私の写真なんだぞ…いつか私の撮った写真で展覧会を開くことが夢だ」
「その話さっきも聞きましたよ」
シャドウバイヤはダルサロッサを馬鹿にするような顔をしてケタケタと笑っているが、正直滅茶苦茶上手くてツッコミどころの存在しなダルサロッサの写真を知っているため何も言えないシャインフレア。
この数秒後に言葉を失うシャドウバイヤだった。




