薬品管理センター攻防戦 7
メメがジュリへの距離を詰めるだろうと素早く思考したのは自分が近距離装備を持っていなかったからだ。
メメがそれぐらいなら見るだけで素早く把握するだろう。
実際メメは素早く距離を詰めようと走り出していたし、それはジュリにもしっかりと把握が聞いていた。
だからジュリはな動機をすばやく操作し、『風』属性の魔導術式を操作しメメの目の前に風の障壁を発動させる。
メメの目の前に現れた風の障壁はメメの進路を確実に塞ぎ、衝突すると風の障壁が弾けて消えて、衝突したメメの体は空中でくるりと回転しジュリの方へとクナイを投げた。
目の前まで接近するクナイをジュリは『土』の壁を創り出す事で防ぎ、メメはそのクナイを回収するわけでもなく、土の壁を回り込むがそこにはジュリの姿はまるでなかった。
その変わり部屋への扉が一つ無防備に空いており、状況を考えてそちらに隠れたのは間違いない。
(ここから離れて彼らを追う選択肢もありますが……向こうに罠を仕掛けられた可能性があるかもしれませんし。いえ、無いと仮定して追ってみますか)
逃げていった二人の研究員を追おうと廊下を走り出す。
まっすぐ進んで行った先の曲がり角を左に曲がった先が出入り口だったとメメは曲がり角を左に曲がったところに………果てしなく続く廊下があった。
「おかしいですね。この先はすぐそこに出入り口があたはずですが?道を間違えましたか?」
メメは来た道を振り返るとそこにはただの壁が存在していた。
何かをされたと判断するにはまだ安易な状況、ジュリがこの状況を創り出したと判断はまだできなかった。
道は今度は二つ。
左右に伸びる道、左は先ほどまでメメが進もうとしていた道で右の道は存在しなかった道だった。
この場所を迷宮化させていたのもジュリの魔導機の力であり、『土』属性と『幻』属性を併用した術式。
周囲にコンクリートや鉄の形を変え、それに『幻』属性で廊下の場所を変えている。
既にこの建物周辺はジュリのコントロール内であるが、この程度の攻撃でメメを倒せるとは思っていない。
ジュリにとって彼らが逃げるだけの時間が稼げればいいという感覚で在り、そこにメメがいつ気が付くというところが勝負だった。
まだメメは気が付くそぶりを見せない。
そうしている間にジュリは前に入手しておいた彼らのメンバーの詳細な情報を調べ始めた。
『メメ。装束宗のメンバー。海洋同盟に存在している隠れ里に存在していると言われている装束宗。西暦世界でいう所の忍びと似た考え方であり、地力と言われている地球から感じる見えざるエネルギーを体に取り込むという未確認の力を持っている。装束宗は長らく海洋同盟に存在している組織であり、政府とは別の路線でやってきた組織』
「要するに海洋同盟内にある隠れた会社みたいなもの?でもそれがどうして反政府組織に?」
『装束宗は長らく裏で政府を支えてきたが、その背景には現政権を乗っ取りたいという考えが覗いている。その上彼らは『魔王』に通じる一族であり、長らく政府は存在を隠し続けていたらしい』
ジュリは内心ガイノス帝国がよくもこんな情報を見つけ出したと感心していたが、この先に続く言葉はそんな気持ちすらすっ飛ばした。
『この装束宗は皇光歴の世界でも活動されており、長年拠点が謎な組織であったが、今回の一件に海洋同盟側からの情報提供者のお陰で彼らの居場所が割れた。最近では西暦世界側でも活動している。ちなみに装束宗は派閥争いが起きており、メメは反政府派として活動しているメンバーでもある。今回の情報提供者は革新派から情報提供である』
「要するに装束宗は派閥争いが内部で起きており、中には私達に味方をする者達も存在しているという事?」
「その通りです」
壁を突き破り室内に入ってきたメメはあくまでも冷静な目つきで睨みつけていたが、ジュリはあくまでも冷静に立ち上がる。
メメは特に焦った様子もなくスタスタと近づいていくが、ジュリはあえてメメの方に体を向けながら後ろに数歩下がっていく。
「装束宗は長らく内部争いに明け暮れていました。その争いの原点はこの海洋同盟の在り方でした」
「この国ですか?この国が問題だらけなのは認めますけど」
「その通り。この国がいずれ遠くなく破綻するのは目に見えていた。嘘に嘘を重ねていく日々とそれを変えようとしない政府。私達がいくら忠告しても辞めようとしない。その内政府は内部の争いすらも力づくで解決し、それをひた隠ししようと試みてきた」
ジュリはその辺の話はおおよそ分かりやすい内容でもあり、本流から聞いていた話と一致する。
「この国を変えようとするメンバーも居れば、政府に従っておくべきだというメンバーもいる。私達はこの国を変えたい。だからこそ反政府組織に手段を送る事になった。だけど……あなたの今の話を聞いた限りではどうやら内部に裏切り者がいるようですね」
「あなたはこの国を変えようと思っているんですか?私にはどうしてもそのようには思えません」
「興味は無い。私はあくまでも私の上司の命令を忠実にこなすだけです。あくまでも私は命令を全うするだけの人間です」
メメに感情は存在していており、それを変えようとも思わない。
ジュリは魔導機を両手で握りしめ、魔導機を操作し始める。
メメは地面を強く蹴り、魔導機を操作するジュリに容赦なくクナイを振り下ろすが、ジュリはそれをあえて逃げることも無く。自分の目の前に雷の爆弾を作り出し破裂させる。
ジュリ自身もダメージを受けながらも痛みに耐え抜く。
(ソラ君はずっとずっと痛みを耐えてきた。私ももう……逃げたくない!)
「驚きました。傷つくことを選んだこと事態が驚きです。てっきりあなたはこのまま逃げ回ると思っていました」
「もう……逃げたくないんです。私もソラ君と一緒に戦いたい!」
ジュリはあらかじめ地面に亀裂を走らせており、下の電気回線を切って起きその回線から雷を補充していた。
ジュリは今から雷を目の前で作り出し、雷の槍を造りだしてメメへと叩き込む。
メメは回り込むことで雷の槍を回避するのだが、ジュリは今度は風の弾丸を作り出して次々と攻撃を仕掛けていく。
メメは全ての弾丸を回避する事は無理だと判断し、弾丸を二つほど受けてしまいそのまま右肩と左太腿にダメージを負いながらも爆弾付きのクナイを投げつける。
ジュリはそれを『土』属性を使った壁を作り出し攻撃を回避するのをメメはきっちりとみていた。
メメは防御方法を予想しており、土属性の壁を作るという方法をすっかり予想していた。
だからこそメメは爆弾を使ってジュリの視界を完全に潰し、そのまま彼女は地面から練り上げたエネルギーで自分の体とそっくりの偽者を作り出す。
分身を使って回り込ませ、メメ自信はジュリへとまっすぐ突っ込んでいくのだが、その瞬間にメメの体に電流が走った。
メメの視界に写るジュリの姿が揺らいで消えていく。
「ま、幻?この部屋に侵入した時点で?」
ジュリはメメから見て右の後方壁に背をつく形で座っていた。
「はい。この部屋に入った段階であなたに視界に幻術を掛けていました。あなたが部屋に入るのに必ず壁を壊す事は予想していました」
メメは下を見た時、足元に雷がバチバチとなっている場所を見付けた。
それこそジュリの目的だった。