あの日の過ちを知るもの達 7
アベルが地図と睨めっこをしている間にギルフォード達は昼食を過しており、一通り確認し終えたアベルは席に戻ると半分ほど食べ物が減っており、大半はシャドウバイヤとダルサロッサだったりする。
レインも美味しそうに食べている姿を見てギルフォードは優しそうにレインの頭をそっと撫でる。
アベルも一旦落ち着きながら買ってきた缶コーヒーを軽く飲み、一息ついたところで改めて訪ねた。
「お前達はここにあった杭を抜いたんだな? そうしたら迷路化はとりあえず解けたが、パリ全体を覆っている不可視で絶対の結界までは解けなかった?」
「はい。そこのギルフォードと一緒に抜いたのですがそこまでは解決できませんでした。申し訳ありません。私は湊と…」
「本性を隠す事が出来るのなら俺と出会った時にして欲しかったな。何々? 大人で権力のある人間には自分を着飾る事が出来ると?」
「失敬なことを言うな! ウチはただ常識の範疇で接しているだけです! アンタみたいに出会い頭に失礼な事を考える人間には相当の対応をして居るだけです!」
「それが素か…面白い人間だと思うぞ。私に対してあまり着飾る必要は無い。どうせ直接の上司というわけでも、同じ軍に所属している訳でもないしな」
「分かりました。済みません。そこの男と一緒にいるとペースを乱されて」
「さりげなく俺の所為にするなよ。お前の荒い性格はお前自身の元からの物だろうに…」
ギルフォードと湊の言い争いを見ながらそっとパンを食べていくアベル、ダルサロッサとシャドウバイヤが同じお菓子の取り合いをして居て、シャインフレアは優雅に紅茶を飲みながらお菓子をつまんでいる。
人と竜が同じテーブルを囲んで食事をしているという風景に本来なら驚くべきなのだが、アベルはすっかりなじみ深い光景になってしまっていた。
「さて…食べ終わったら改めて行動開始しよう。レインちゃんの協力があれば夕方までにはある程度の攻略が出来るだろうし…」
「そうですね。そこのギルフォードとか言う人間が足を引っ張らない限りは」
「そこの猫を被ることが出来るのにしてくれない戦力としてはやや微妙な人間には言われたくないな」
「二人とも喧嘩しないで!」
レインの一言で制止が入りお互いに喧嘩を一旦止めるのだが、その間もずっと睨み付け合っている状況に今度はレインが不機嫌になる。
アベルは敢えて気にしないことにしながら食事を勧めると、シャインフレアがいい加減鬱陶しかったのか「止めなさい」と口を出した。
「貴女達は私たちと合流する前からそんな風に喧嘩をしているのですか? そんなことをしているとそのうち「嫌も嫌も好きのうち」と言われるようになりますよ」
「そんな関係ではありません! こんな男と何故ウチが!」
「全くだな。こんな外見と性格のギャップが激しい人間なんて誰も好きにならないだろ」
「言い出したらきりが無い言い合いだな。話を区切るが…今回の相手の裏には間違いなく『不死の軍団』がいることは間違いない。だが、今のところ関係者と思われる集団こそいるが、本人達が見えてこないな」
アベルはパンを食べ終えてもう一度コーヒーを飲んで口直しをする。
「本人達がいれば問いただすのだが…出てこないと調べようも無いな。四神の回収という役目があるからイギリスには展開しているだろうし、ソラが向ったドイツにはいるだろうが…まさかフランスにもいたとは。それも見慣れない戦力を引き連れて。連中の戦力を見る限り異世界を越えて活動している組織のようだが」
「そうなのですか? ウチにはその辺が良く分からなくて」
「俺もそう思う。あの連中が持って居る武器こそ現代社会でも使えそうだが、戦い方の中に見慣れない技術が混じっている。というよりは一貫性がない。近代兵器だけを使って居る奴もいれば、特徴的な武器を使って居たりと…」
「フム。魔導みたいな力を使って戦っているのかとも思ったが、呪術に似た力も使って居るという報告を受けた。部隊によって一貫性がないのも特徴かもしれんな」
アベルは空港一帯の戦いの報告を先ほど受けており、ジャック・アールグレイが中々本機を出さないので苦戦しているようだが、向こうも見慣れない戦力を前にして突破するのが難しい状況に陥っている。
「空港の攻防戦は今日一日は続くだろう。ジャック・アールグレイはあまり役に立たないと思うが…できる限りエッフェル塔か凱旋門までは解放したい所だな」
「では今日一日の目標はそこにしましょうか?」
「だな。まあ六時には作戦を中止してホテルに籠もる。疲れるからな」
「貴方は何故軍人をしているのです? とことん不思議に思いますが…」
「だが、敵が杭を打ち直しに来たらどうするつもりだ?」
「その時考えるが…しないと思うぞ。彼らの行動を見てみる限り、深追いはしないというスタンスを崩さないようにしているように見える。杭を護る気があるのならウルズナイトのような兵器でも配置すれば良い。それすらせず。あくまでも白兵戦で、かつその場にある物をバリケード代わりに活用する。戦力を広げすぎないようにしているような気がする」
アベルは市民を盾にすればもっと戦えるだろうと考えていたし、何よりも敢えてランダムに人を飛ばす意味が分からなかった。
迷路化させるだけならランダムで人を飛ばす意味が無い。
その場で一般市民を人質にしていただろうと考えていた。
「一般市民を人質にした方がもっと効率よく街を占拠できるだろうし…ランダムに飛ばすことでむしろ一般人を遠ざけているように見える。そこまでして戦場になる可能性の高い場所から離すという事は彼らの目的はあくまでもこの場所にいることなのだろう。なら…」
アベルは小さな音量で「時間稼ぎ」と呟いて見せた。
彼らの目的はある程度の戦力をパリに集中しておき、その間に他の所で目的を達成すると言うことでもあると。
となると本命は二カ所に絞られる。
「イギリスか…ドイツだな。さて…どっちが本命なのやら」
「アベルさんはどっちだと思って居るんだ? イギリスとドイツ」
「…ドイツだな。下手をすればイギリスすらも時間稼ぎの可能性が非常に高い可能性がある。ジェイドはソラに来て欲しがっているようだし…もしかしたら最後の四神もドイツにあるのかもな」
「ねえねえ…外からパリに入ろうとする人は入れるのかな?」
レインの言葉にアベルが少しだけ考え込む素振りを見せ、スマフォを取り出してどこかへと電話を掛けていた。
二十分ほど電話をした後切って全員の方へと向く。
「入れないそうだ。入ろうとすると戻ってくるようになっている。パリの街を覆うようになっていて。マンモルトルの丘を解除してもそれだけは解けないらしい」
「出れないし入れないんだよね? なら敵の狙いはレイン達をこの地に留めておくことじゃないかな? レイン達に集結して欲しくないんだよ。研究都市の時は集まって挑んできたからそれで対策を講じたんだと思う」
「なるほど。確かにそれはあるな。あの時は全員で挑んだ結果だったから…分散しているというわけだ。そしてジェイドとしてはソラが来てくれれば良いわけだから止める理由も無い訳だな」
「うん。だから居るよ。間違いなくこの街にもあの四人の誰かが…。居るとしたら名のある場所。有名な…」
「だな。名前は存在感だから…術を展開している場所…中心となる場所を調べてみるか…」
そう言ってスマフォを操作している所を見ながらギルフォードは街を一望できる場所まで移動する。
この街に誰かがいる…しかし、核心に似た感覚がある。
きっとこの街にボウガンは居ないと。




