あの日の過ちを知るもの達 5
アベルはスマフォを操作しながら壁紙にしている家族四人で揃って撮った写真をふと眺めてしまう。
ほんの数年前まで自分には親族は誰一人居なかったのに、今では綺麗な奥さんに息子と娘を育ていることに驚きしかない。
もっともその息子も娘も随分自由気ままな性格をしているのか、それともトラブルに巻き込まれやすい性格をしているのかすぐに戦場にいることが多い。
娘である奈美の方はまだマシだが、問題はソラの方であり今では事件の中核を担うような…それでいて問題を解決しざる終えないような立場にいることが多いとアベルはため息を吐き出す。
突然ため息を吐き出すのでシャドウバイヤとシャインフレアはドン引きするような顔をし始めた。
「何です? 突然ため息を吐き出してそんな「自分は憂鬱だ」みたいな似合わない顔をして…全く似合っていませんよ」
「二度も言うぐらい似合わんか?」
「どうせ「何故私の妻は可愛いんだ?」やら「娘は綺麗だな」とか「息子は優秀だ」とか考えていたんだろ? 無駄な事を」
「失礼な奴らだな。普段からそんなことを考えていると思われたら流石に心外だ」
「「え? 考えていないのか?(ですか?)」」
「何々? 私は普段からそんな事を考えながら生活をしていて、それが理由で直帰したりしていると思われているのか? 反論があるぞ」
「ではそれ以外で直帰する理由を教えてくれませんか? 貴方が今ある仕事を放棄し、その上遅刻したときですら何食わぬ顔で買える理由。普段から真面目に仕事をしている人が直帰するのは良いですが…それすらしない不真面目な貴方が早く帰る理由を」
「え? だって疲れるだろ?」
シャインフレアとシャドウバイヤは開いた口が閉じないまま唖然としてしまっており、まるでさも当然かのように語るその顔はある意味清々しい表情と言えた。
同時にシャインフレアとシャドウバイヤは思い知ることになった。
彼の部下や周囲の人間達がどれだけ苦労させられたのか、そしてこれからどれだけ苦労させられるのか。
((この男をトップにして軍は大丈夫なのだろうか?))
これから軍を引っ張っていく人間がこんな男で大丈夫なのかと疑問があったが、もう気にしても無駄な気がしたので二人は気にしないことにした。
アベル自身が抱いている問題はこの迷路化している状況を解決しパリを解放することであった。
とりあえず建物の中から窓を探し出し、そこからふと覗いて見ても何が何処にあるのかが分からない。
「何故このような状況にあるのかを突き止め、同時にこのカードをどうやって手に入れたのかも突き止めるか…流石に増やしているわけじゃないだろうし」
「だと良いがな。さっきまでの話が全て正しいという証明もないこの状況では断定も出来ないだろう。問題はその技術を活用した物が脅威の一つになっていると言うことだ」
「ですね。しかも敵はそれを理解して居るからこそカードとして使っている生物に有毒な物を使っているのかもしれませんね」
「元に戻すところまで考えた上と言う事か…面倒な。別に敵の戦力が脅威といっているわけじゃない。不死者以外なら負ける気がしない。だが…」
「この迷路が厄介ですね。何処に向うのか…恐らくレインしか分からないでしょう。いっそレインと合流した方が良いかもしれませんね。それに、外の通りだけを歩いていれば…」
シャインフレアがふとある事を思いつき、同時にジッと窓と壁を見つめ続けるが、同時に周りにある生活感溢れる部屋にため息を吐き出す。
「そこの壁を破壊したら流石に迷わないのでは? 大通りにさえ出てしまえば建物の中に入る道を選ばない限り外に通じることは出来ると思いますよ。この迷路仕組みが幾つかあります。ドアを開けて通ればドアを通じてじゃないと入れない場所に向い、そういう遮る物がない場所はそういう場所にしか迎えないのでしょう」
「だな。長さもまちまちだとみた。恐らく十字路のように別の道へと向う場所に行き当たると移動させられるのだろう。その辺に気を使って移動すればレインと合流は比較的楽だと思うぞ。あくまでも土地に掛けられた術式。解除するにはその中心にある『何か』を破壊する事だな。流石にこれだけ広いパリ全域に術式を展開するのは無理だろう」
「ならレインと合流してさっさとこの馬鹿げた事態に蹴りをつけるのが良いのか…ではさっそく…」
壁を何の容赦無く破壊してからアベルは二人を連れて外へと出て行くが、シャインフレアは内心「何の躊躇いも無く」と呟く。
シャインフレアの予想通り破壊した壁に関しては迷路化の対象には出来ないという証明、だが、流石にこの方法を使って真っ直ぐと向うのは躊躇いを持ったシャインフレアとシャドウバイヤ。
だが、この方法に躊躇いを持たなかったアベルは大剣を振り回しながら壁をぶち壊そうとする。
「待ちなさい! 待ちなさい! 貴方…まさかとは思いますが目的地であるマンモルトルの丘へと向う過程にある建物の壁を破棄してそのまま真っ直ぐ向うつもりですか?」
「駄目なのか?」
「駄目に決っているでしょうに! 貴方そんなことをしてもし訴えられたらどうするつもりですか?」
「戦闘の結果だと伝えれば解決すると思う」
「絶対無理です。真っ直ぐと目的地まで伸びている破壊の痕跡…どうやっても戦闘じゃ有りません」
「誰も見ていなかったら大丈夫だ」
「ここは人通りの多い場所、今もずっと誰かが見ています」
「分かった…全員気絶させれば良いのだな? 任せておけ軽傷且つ素早く終わらせて見せよう」
「何も分かっていませんね! それを止めなさいといっているのです!! 住民を守る事を第一とするはずの軍が何のいわれがあって住民を襲うのですか?」
「クーデターが発生したら最悪襲うだろ?」
「最悪ですし、それに今はクーデターなど起きていません!! 止めなさい!」
「シャインフレア…真面目に突っ込むな」
シャドウバイヤが関心した声を発し、アベルが「仕方が無い」と言いながら適当に歩き出す。
シャインフレアがため息を吐き出しながら一緒について行き、路地裏のような道や他の道へと向って移動していくと、商店街のアーケードまで辿り着いた。
「ほう…ここも人が沢山残っているな。まあ…当然のことか」
「商店街ですし、恐らくここに飛ばされて困っている人も多いのでしょうね」
「だな…美味しそうなお店が並んでいるな……あのカラフルな小さなパンみたいな食べ物は何だ?」
「? ああ…なんと言ったか? 奈美が食べていたが…マカロンと言っていたような気がするな」
シャドウバイヤは美味しそうだと壁にへばりつきジッと眺めていると、中から「助けてくれ」という声が聞こえてきた。
アベルは彼らにドアから離れるようにと告げたのち、ドアを軽く壊して術式を解除した抜け道を作り出す。
すると周囲からドンドン「私たちも」という声が聞こえてきて、アベルは商店街にあるドアを破壊して回っていき、シャインフレアはハラハラした顔をしながら見守る。
中には他の店から出てきて違う店へと入っていく人物もいた。
「きっと自分の店が目の前にあるのに入れなかったのでしょうね」
アベルはシャインフレアとシャドウバイヤを引き連れて中へと入って行きマカロンを買おうとする。
「このマカロンという食べ物を…沢山」
「無料でどうぞ! 助けられたので!」
「金はキチンと払う。ドアを壊してしまったからな…これだけあれば足りるか?」
札束のような量のお金を出し、店員がドン引きするのを見守りながらシャインフレアは「出し過ぎです」とツッコム。




