表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
678/1088

相棒 5

 ギルフォードの脳内で様々な情報が行き来を繰り返しており、目の前に現れた妹を前に様々な感情が襲いかかってくる。

 本来であればベットの上で大人しくしているはずの妹、レインは暖かそうな服を着て顔色こそそこまで悪いわけじゃ無いのだが、それでも少し苦しそうな顔をしていた。

 足下では四つ足で歩く炎竜ダルサロッサが離れすぎないようにと気を使いながらポジションに気を使っているのだが、それでもギルフォードは気が気でない。

 というよりはギルフォードはそもそも「どうして此所が分かった?」やら「どうしてベットで大人しくしていない」やらもう何から言って良いのか迷っている間に一分は口を紡いでいる。


「もう大丈夫。ソラお兄ちゃんがおまじないを掛けてくれたから」

「…だ、大丈夫なわけないだろ…どうしてベットで大人しく出来ない。顔だって真っ青で」

「大丈夫だよ。ダルサロッサにも大丈夫って言われたもん。お兄ちゃんだけお店回るの狡い」


 何を言っても聞きそうにない気がしたギルフォードは諦めきれない顔で「どうしたものか」と思案するが、そんな時湊はそっとレインの顔の高さに合わせて少し屈み、おでこにそっと当てる。

 するとレインは気持ちよさそうな顔をしていた。


「ウチの異能は体に掛かる負担や苦しみを和らげる効果も持っているからこれで多少はマシになると思うけど」

「…それがお前の異能の本質じゃ無いのか?」

「ええ。あくまでも和らげているだけ。基本的な使い方じゃないの」

「お姉さんありがと」


 微笑むレインに笑顔を向ける湊、その後ギルフォードの方に目を向けてハッキリと告げた。


「体の状態もそこまで悪くないわ。多分ここ数日で一番良い体調なんじゃないかしら。多分だけどこの…何? さっきおでこに触れた時に感じた異物? これの効果が和らいだんじゃないかしら」

「和らいだ? ボウガンが意図的に? それとも…」

「だから大丈夫。お兄ちゃん心配し過ぎ。私も皆を見送りたかった」


 頬を膨らませて不満を顔一杯で表現するレイン、体調がまだ良い方だというのは本当の事なのだと信じ、ギルフォードはしゃがみ込んでから「ご免」と謝る。

 ダルサロッサはため息を吐き出しながら「やれやれ」と口にした。


「で? どうして此所が分かった?」

「何。レインがどうせお兄ちゃんの事だから迷っているって言い出してな。アベルと一緒に探しに来たのだ」


 よく見ると外でアベルが待ってくれており、ギルフォードは黙って会釈して感謝の意を示す。

 するとレインは綺麗な小物が揃っている店内を興味津々な顔で見ており、首から提げている鞄の中から花柄の小さな財布を取り出して店内を見て回る。

 財布の中には入れた覚えのない金が入っており、レインが湊と一緒に店内を見て回っている間にダルサロッサに聞いた。


「あの金どうした? 軽く一万はあるぞ」

「? アベルが渡したのだ。女の子はお金が掛かるものだと言って。因みに私も貰ったぞ。まあ、今は写真を撮る方に忙しいのだが」

「後で本当にお礼を言わないとな…で、本当に大丈夫なのか?」

「容態は安定したから本当に大丈夫だそうだ。何よりお前の側にいる方が本人の精神的にも苦痛を和らげることになる。いざとなったらお前が護れば良いだろ?」


 しかし、それでもまだ納得できたわけじゃ無くどこか未だに引っかかるところが存在している。

 その理由はダルサロッサにはなんとなく分かる話。

 ギルフォードはレインを守る事が出来なかったという後悔が存在しており、未だに自分がまた護れるという保証のない環境がどうしても納得できない。

 自分自身に自信がどうしても持てないギルフォード、だからこそ心配性が言動に合われてしまう。


「少しは自信を持て。あの時は色々な失敗が重なっただけだ。それにお前はまだマシだろ。多くの人が大切な人を失ったあの戦い。お前はまだレインが無事なのだ。上手く戦えばほぼ確実に助けられるのだから」

「分かっているさ。分かっているんだ…」


 未だにボウガンと戦う事に多少なり疑問があるし、何よりもこの憎しみのままに戦って妹を救っても妹はきっといい顔をしないだろうと分かる。

 分かってしまうからこそ苦悩の中に居る。

 ダルサロッサはそんなギルフォードに向って更に深いため息を吐き出した。


「向う場所は分かっているのに、方法もなんとなく分かっているのに、倫理観や人間性の観点から迷いがある。本当にこれで良いのか? 本当の所では間違っているんじゃ無いのか? ボウガンを救う事は正しいのか? とか考えているんだろ?」


 否定をしないギルフォード、ダルサロッサはギルフォードに向ってジト目を向けてもう一度ため息を吐き出す。


「誰かに言われなかったか? そんな答えは戦ってからじゃ無いと結論なんて出ないぞ。妹の言う言葉が、ソラの言う言葉が正しいという結論なんてお前以外には出せない。結局で善と悪は『個人の倫理観』以外には結論はでない。何が正しいのか…何が間違っているのかは生きてきた『環境』や『経験』から導き出せる物であり、結局で正義と悪も過大解釈すれば『正義』のぶつかり合いなのだ」

「正義のぶつかり合い」

「それか『自分は悪だ』と言い張る人間というのは『悪を背負う』覚悟をして居る者、必要悪を背負い、周囲に敵意を抱かれながらでも良いから何かを成し遂げたいと思う者。それ以外の悪は『周囲に悪意を振り撒いている事に気がついていない者』か『正義に負けた者』がそれ以外の悪なんだ」


 ギルフォードは内心「ダルサロッサのくせに」と思いながら考えることに違いない。


「結局で自分が正しいと思う事を見つけるしかない。お前が倫理的に間違っていると思うのならそれは間違いなのだろう。ソラはそういう意味でノックスと戦いながらも本当に戦っていたのは『自分の倫理観』なんだろうな」


 ノックスを殺したいほどに憎み、剣を振り上げるまでいってしまったソラは最後には憎しみでの殺害を止めた。

 それはソラにとって最後には『ノックスへの憎しみ』よりも『師匠への想い』の方が強かったからだ。

 それが師匠の言葉からようやく理解が出来た。


「俺には少し難しいかな」

「かもな。私なら考えを放棄している所だ。そんな難しい事を考えるくらいなら綺麗な景色を撮る。その方がよっぽど有効的な時間の使い方だ」

「お前らしいな。カメラを手に入れてから少し変わったか?」

「そうか? まあ、取るのは楽しいからな。そうだ。パリ郊外にある丘の上からパリを見ると綺麗らしい。次はそこに行かないか?」

「…まあレインが大人しく変えるとは思えないし。少しだけ見て回ったら一旦変えるぞ」

「任せておけ。フフ…楽しみだな」


 カメラを首から提げて楽しそうにして居るダルサロッサ、レインは湊と一緒に小物を選んでいる。

 するとアベルが店内に入ってきてギルフォードに近付いていく。


「私は一旦飛空挺に戻る。この後どこかにつれて回るのならこの金を使うと良い。大丈夫という話だが、妹の容態はキチンと見ていることだ」

「ありがとうございます。妹やダルサロッサに金も渡してくれたと」

「良いんだ。ここまで来て買い物も出来ないと少しつまらないだろう。動き回るのは辛いだろうし。ここで動きがあるまでは少し楽しんでいると良い」


 ギルフォードは改めて会釈しながら「ありがとうございます」と告げ、アベルはそのまま手を振って去って行く。

 湊とレインが何かを買って戻ってくるのを待っている間、ギルフォードはダルサロッサがいっていた丘をスマフォを使って探し出していた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ