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イギリス・カムバック 10

ポーツマスの港へと到着したデリア、防寒機能のあるジャケットに短パンとロングブーツとフリルのような布を腰回りに装着して船から下りる。

 港町という雰囲気のある街並みと潮の香りで鼻孔を擽り、腰からハルバートを背負い直しながら歩き出す先はポーツマスの軍港である。

 街の雰囲気を楽しみながら適当に歩いていると少し距離の開いた所から火の手が上がったのを確認し「あそこね」と思いながら歩き出す。


 時を同じくしジュリは炎の上がった方向へと走り出し、ヒーリングベルを肩に担いだ状態でタブレットを片手に外へと出て行くと、車の行き来する軍港内の出入りのドアを粉砕して現れたのサクトから報告を受けたキングス・クロス駅の中央広場に現れた幹部クラスの人間。

 フードを深めに被っている中肉中背の男で両手も大きめになっている袖の中に隠れている。

 正直に言えば底の知れなさをその身でハッキリと表しており、男は最初の一歩を踏み出していくのだが、その途端周囲にいたイギリス兵が一斉に銃を乱射する。

 すると、男は両手を真っ正面に向かって構え、飛んでくる銃弾を着弾するギリギリで停止させそのまま地面に落としてしまう。

 イギリス兵達も一体何をされたのかまるで理解出来なかったが、それでもこれ以上の蛮行を許すわけには行かないと必死で銃を撃ち続けるが、その全てが当たる前に地面へと落ちていく。

 そして、十歩ほど歩いて距離を詰めたところで男は上空に手をかざして周囲の鉄くずなどを集めながらイギリス兵達に向かって投げ付けてきた。


 悲鳴を上げながら逃げ惑うイギリス兵だが、鉄くずが落ちてくる速度の方が明らかに早くジュリはタブレットを弄り風の砲弾を鉄くず目掛けて放ち空中で破裂させることでなんとか犠牲者を出すことだけは回避した。

 男は周囲を見回しジュリを発見した。


「君かな? この中では彼らほど鍛えている訳では無いが、それでも彼らよりは手練れという事か…最もここに残っていると言うことは最前列に行けば足手まといになるからだろうが…」

「ここに何のようですか? 幾ら此所が作戦司令部だとは言っても此所を落としても意味が無いと分かっているはずです」

「それも分かっているくせに。私たちの仲間を帰してもらいに来た。あんな下っ端でも我々の仲間。死ぬまではキチンと責任を持って管理するのがアクトファイブの礼儀。返して貰う」


 男は地面のアスファルトを見えない力で持ち上げてそれをジュリに向かって投げ付け、ジュリはそれを風の銃弾で撃ち落とすが、男はその仕草をハッキリと見ていた。

 ジュリ自身も手の手段がまるで見えないこの状況で自分の策の全部を晒したくは無いが、男はジュリの策を引きずり出すために右手を地面にそっと触れる。

 その様子で地面が割れる音と同時に物凄い振動が場を揺らしていると、ドッグの一つがアスファルトごと持ち上がっていき、それをジュリ達の上空で落としていく。

 流石にジュリでもこればかりはどうしようも無いが、そんなジュリ達に変わってドッグが一つまるごと破壊されてしまう。

 上空から降りてくるデリアがジュリの目の前で着地し、ニッコリと笑顔を向けてジュリを安心させた所で一瞬で後ろへと回り込みジュリの胸をもみしだく。


「や、止めてください! 敵が目の前に居るんですよ!?」

「良いのよ…あくまでもここの人達が守れれば良いんだもん。そんなことよりかなり立派になったわね…実力も……胸の方も! ほんと何を食べたらこうなるのかしら?」


 男としても突然始った現場に困惑してしまうが、一歩踏み出しただけでデリアからくる殺気が段違いであると体中で感じ取った。

 デリアは一旦ジュリを揶揄うのを止めてハルバートを背負いながら一歩前に踏み出す。

 目の前に居る人物は間違い無くかなりの実力者。


「貴方が男なら倒した後で襲いかかって私の女にするのだけれど…」

「私の知識が間違っていなければ普通女は女を襲わないと思うが? 君の発言からは一般常識が欠落しているように思える」

「フフ。私に一般常識が欠落しているなんて普通の人なら知っている事よ」


 ジュリはその言葉を聞きながら「胸を張る事じゃないです」と突っ込んだ。


「しかし…それ故に君の実力は高い。なるほど念の為にと安全策を用意しておいたという所か?」

「ええ。ジュリちゃんの身に何かあったら怒る男が居るからね。私も怒られたくないのよ…所で自己紹介とか無いのかしら? それとも女から自己紹介させるの? レディーファーストって言いながら譲るような男は嫌いなの…」

「これは失礼した。私はアクトファイブのメンバー『ブラッチャー』という者だ」

「私は環境保安官のデリア。貴方をぶっ殺しに来たんだけど。私男には手加減しないって決めているの」

「自分が男であることを後悔したくなる言葉だな」


 ブラッチャーは両腕に力を込め周囲の建物を浮かび上がらせようとするが、デリアはそれより早く動き出しブラッチャーへとハルバートを容赦無く振り下ろす。

 ブラッチャーは振り下ろされるハルバートから逃げるため一旦両手を地面から離し、その状態で後方へと自分の体を吹っ飛ばすように空中を移動する。

 デリアは移動した方法が少し気になって周囲を目だけで軽く見回し、ブラッチャーの方向へと向かって走って行き今度は横薙ぎに攻撃を浴びせようとするが、男はしゃがんで回避するのでは無くあくまでも後ろに移動して回避する。


「なるほどね。貴方の能力念力のような力かと思ったけど、単純に重力操作とワイヤーを使った攻撃なのね。それをまるで自分は念力を使っていますよって思わせるように背中を上に見せつつ、同時に背中に仕込んでいた機械からワイヤーを飛ばして持ち上げているだけ」


 男は拍手喝采を浴びせたい気持ちだった。

 実際この短期間でトリックを見抜いたのはデリアが初めてのことだったからだ。


「問題はワイヤーを使って瓦礫を持ち上げる際に使う滑車代わりに使う物だけど…これも背中の装置を使っているわね。ワイヤーを背中の装置から射出しつつ、別の素材出来たワイヤーを絡ませて持ち上げている。最初に銃弾を落としたのは単純に重力の方向を変えて銃弾の勢いを変えつつそれを解除する事で念力に見せているだけ」

「お見事。まさか二手で見抜かれるとは思いもしなかった」

「分かるわよ。ジュリちゃんがワザワザ最初の一手で風の砲台を使ってでも瓦礫を破壊してくれたんだもの。その時上からハッキリと見えたわよ。風で揺れてなびく際に光を反射したワイヤーがね」


 ブラッチャーはそっとジュリの方を見る。

 他の誰よりもこの戦法に気がついて対策を講じたのはジュリだったのだ。

 念力のような特殊な力では無いとハッキリと理解出来たのは彼が持ち上げる際に地面に両手をついたからだった。


「もし建物を持ち上げるのなら念力のような力だった場合両手は持ち上げる物体に向くはず、貴方は最初っから地面に手を触れていました。だからおかしいと思ったんです。デリアさんがこっちに向かっているのは分かっていましたし、もし到着するのならヤバくなるまでは様子見をするかもって思ったから」

「で、私が貴方の戦いを見ていると貴方がワイヤーを使って戦っているのが分かったの。でも、どこからワイヤーを使って居るのかまだ完全には把握できなかった。でも、貴方が後ろに逃げたからもしかしてと思って確かめた。それと…後ろに逃げたのもワイヤーと重力操作の類いね。よくもまあ思いつくわ。鉄の棒のような強度の位置を遠くに放ち、それを利用してワイヤーを引っ張る力にする。ぱっと見は念力で操っているようにしか思えないもの」


 ブラッチャーとデリア&ジュリの戦いは始ったばかりだった。


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