イギリス・カムバック 5
ケビンが対峙した男の名はボーンガードと言い、いわゆるアクトファイブの幹部クラスの人間であり、このイギリスという国を任されている人間の一人。
無論彼もまた他の異世界からやって来た男の一人であり、ケビンは真っ直ぐに銃を構えながらジックリと相手の動きを見極めようとするのだが、ボーンガードは深く深呼吸を繰り返し改めて両腕で地面を殴りつけた。
しかし、前の時とは違い拳は.爆発したりせず深く突き刺さった状態のままで止まっている。
その状態でボーンガードの両腕は何度も何度も深く振動していき、次第に周囲に小規模ではあるが時針のような現象を引き起こす。
ボーンガードが奇妙なことをして居ると再び黄色光線を三発ほど放つと、ボーンガードはその攻撃を敢えてその身で受ける。
胴体に三つほど開いた風穴だが、その風穴はあっという間に塞がっていきボーンガードは両腕を更に深く突き刺して地面を陥没させた。
突然のように起きる現象に周囲から驚きの声と悲鳴が響き渡り、一体何メートルの深さがあるのか分からないほど真っ黒な底の見えない大穴。
アンヌは目の前に開いた大きな大穴を前に驚きながらも素早く杖を強めについて穴を氷で塞いでいく。
結果怪我人がいなかったのは良かったが、イギリスに突然のように現れた穴の修復にどれだけの時間が掛かるか分からない。
ケビンは穴の底をそっと眺めると側面に焦げた痕がくっきりと残っており、それを見てアンヌはため息を吐き出しながら氷の上に立っているボーンガードを睨み付ける。
「地面の底を焦がしたのですか…焼き切って底に大穴が開くぐらい。いえそれだけでは無いはず…振動で地面に穴を開けた? どうやって…」
「焼いたのは間違い無いでしょう…しかしそれだけでは無いはずです」
『振動を使って地中にひび割れを起こしつつ、その際に開いたひび割れに大量の熱量を流し込んでそれを地下に向かって流し込んだんです。結果大きな大穴が開いたんだと思います。あくまでも能力です。地面をマグマに変えたと言えば分かりやすいでしょうか?』
「ですが、それで穴が開きますか?」
『本来なら不可能です。元々この地下にいくつか穴を開けて置いたのでしょう、そのうちの一つを使って攻撃を仕掛けたと言う事です。多分進行してから私たちの攻撃をいくつか予想して備えておいたのでしょう』
「彼がですか? このボーンガードとか言う男がですが?」
『ええ。気をつけてください。かなりの手練れだと思います。幹部クラスの人間、能力は爆発かと思いましたが、違うようですね。ですが、両腕の装置が異能の発生に関わっていることは間違い有りません。こちらから異能の式を一々確認できました』
「無力化出来ますか? ジュリさん」
『やりたいのですが、一瞬のような小さい時間を連続で使っているようで、それもその殆どを脳内で演算処理をしているんです。流石に永続的でも無い限り完全に無力化するのは…』
流石のジュリでも連続で術式を使われると、その全てを同時に消すことは出来ないし、何よりもあくまでも両腕の機械は異能の発生を促す媒体に過ぎず、異能そのものは彼自身が持っているもの。
なので術式も脳内で演算しつつそれを機械が両腕を使って再現している。
『先ほどのケビンさんの攻撃も機械を使わずに肉体を使って異能を引き出し、肉体の着弾面だけに何らかの作用を起こしたと思います。これまでの戦闘データを反映して見たところ、振動と爆発ですね』
「先ほどの燃やすというのは違うのですか?」
『ええ。あれはどちらかと言えば液状化だと思います。マグマ化と言えば良いのでしょうか? 恐らくですが先ほどの爆発も同じ要領なのでは無いでしょうか? 物質を爆弾に変える…いいえ。物質を別物質に変換する能力では無いでしょうか? その分、出来ることに上限があるという所でしょう。生物を他の生物に変換したり、大きな物質までも変えることは出来ないのでしょう。だからこそ能力に振動があるんだと思いますよ。粉々にしつつ別物質に変える』
「なら穴を開けたのも彼なのでしょう。恐らくはその能力を活用したと言った所でしょうか?」
他の物質に変換するいわゆる錬金術師に非常に似ているやり口であり、彼はそれを両腕を中心に使って居るだけ。
しかし、ジュリが気になるのはケビンの攻撃を受けた時の彼のやり口、ジュリは嫌な予感を脳裏に宿らせた。
ケビンの視界に映るボーンガードの体には既に穴は開いておらず、修復されている。
『もしかしたら…ボーンガードという人物は自分の実験のために肉体を…』
ケビンとアンヌにはそこから先の言葉が嫌というほど理解出来たが、彼はその証明をするように上半身に纏っていたはずの防具事全部脱ぐ捨て、ガタイの良い体つきを見せつけるが、その体には違和感を残るぐらい注射器やメスの入った痕が残っていた。
「俺は自分の体を自分で弄くり回した。物質を他の物質に変換するという能力をもっと活用できる方法は存在しないか…できる限りのことはした。肉体が耐えうる限りの薬品を、肉体には自分でメスを入れて解剖までした。俺は自分の体を触れている物体に変換する事が出来る。そして、俺が触れている物体を他の物質に変換する事も簡単にできるようになった」
「それだけの力…手に入れようとすれば色んなルールに反しそうですが…」
「反しているさ。実際俺は一族から放り出された。いや…殺され掛けた。やり過ぎたのだ…俺は知りたかった…俺達の異能が存在している理由とその最果てを…俺はそれを造るまで…死なない」
ケビンはジッと彼の体を眺めていると心臓の近くに真っ赤な『何か』を発見し、それが何なのかを考察し自分が昔見た本や資料の中にある参考文献、そしてジュリの言葉やボーンガードの言葉を元に推測した結果導き出した答え。
「……賢者の石ですか?」
「…この世界にも賢者の石にまつわる資料があるようだ。人間の血肉を媒介にして出来る唯一生物の物質を他の物質に変換できる万能の錬金術。しかし、その万能さ故に誰もが造りたいと願いつつも誰もが造れなかった。俺のこれも不十分。俺の心臓を媒介にしなければ存在を永続化させられない」
ケビンには彼が必死になって賢者の石を造り出そうとしており、今やっている事が真っ当な結末を迎えるとは思えない。
何よりもそんな力の使い方をすれば早死にするのではと思いかねない。
そんな時アンヌが気がついた事を素直に聞いてしまった。
「貴方…何歳ですか? 見た目通りの年齢じゃ有りませんよね? ぱっと見三十から四十代かと思いましたが…」
「………二十二だ。加齢の早さも賢者の石を製造する上で必要なデメリットさ。俺の寿命を差し出すことで賢者の石を作り出すことが出来る」
「年齢を差し出しているのですか? 真っ当な方法では無いでしょう…貴方が死ぬ瞬間に手に入るその石をどうするつもりですか?」
「見れればそれだけで十分だ。それ以上のことは決して望まない」
ボーンガードは倍以上の速度で年齢を重ね、こうしている間も他の誰よりも早く死ぬことを決して躊躇わない。
ケビンもアンヌも恐ろしく感じてしまう。
永遠に生きたいと願う者よりも、早く死んでも良いから目的を達したいと願う者の方が恐ろしい。
「俺の予想では後二年もすれば俺の体は六十に到達しその翌年には八十近くまで到達、その時賢者の石が完成する。俺の死が早まれば早まるほど賢者の石の製造期間が短くなるだけだ…俺が力を使えば使うほど賢者の石が早く出来るだけだ…アンタが俺の体を傷つけたお陰で二、三年ほど寿命を縮めることが出来た」
ケビンは内心戸惑いを隠せないでいた。




