イギリス・カムバック 2
ドイツで何が起きたのかを知る唯一の人物であるジュリが現在船を使ってイギリスに近付いており、ガイノス帝国側では突入部隊が念入りな準備をしていると、ケビンから作戦の大凡の概要を伝えられた。
海上と陸上からの侵攻作戦と同時に敵の勢いをこちら側に引き寄せつつ、ガイノス帝国側の突入部隊が駅を制圧、その後駅を中心に一気に王宮を制圧している部隊を叩くという作戦になった。
ケビン達は雪の中遊び回るような元気が無く、室内から窓の外をそっと眺めるだけにしておこうとしたが、元気よく飛び出して行くアクアを見てため息を吐き出す。
ケビンとアンヌは此所で大人しくしようという話になり黙って見ていると、自然とアカシとジャンポットが加わっていくのが見えた。
雪を丸めてドンドン大きくしようとしているが、まだ降って間もないのでそこまで積もっていないからそこまで大きくならない。
そう思って気長に待っていると今度は勝手に現れた白虎が更に雪の量を増やしていき、更にその量に興奮した子供達が姿を現すと更に玄武が負けじと現れ、重力操作で子供達とはしゃぎ始めた。
これは危ういと思い二人は急いで外へと出て行くと、雪の多さに驚いてしまった。
「ケビンさんは雪は珍しいのですか?」
「そうでも無いんですけど…ワシントンは割と振りますし…ただあまり得意では無いんです。髪の色が白銀で風景と同化しているって昔っから弄られることが多く…」
「そうですか? 私は好きですよ。綺麗じゃ無いですか…私は何も無い普通ですし…」
「そうやって褒められると照れますね」
外へのドアを開くと冷たい外気が一気に流れ込んできて、外との気温の差に驚いてしまう。
正直に言えばこのまま部屋の中で大人しくしていたい気持ちをグッと抑え、遊んでいる子供達の側に近付いていく。
するとアクアが遠くにジュリが居ることに気がつき手を振った。
アンヌ達の予想ではまだまだのはずだったが、ジュリはアッという間にドイツからこちらに到着して居た。
「どうやってここまで短時間で?」
「え? 色々使いまして…アクアがお世話になりました。お二人とも大丈夫でした?」
「ええ。まだ戦いはこれからですから…所で早く辿り着いた理由って、あそこにある高速飛空挺ですか?」
ケビンが指さす方向にあるのはソラ達が使って居た高速飛空挺であり、それが港に着岸して居るのがハッキリと分かった。
明らかにあれがジュリが真っ直ぐにこられた理由であり、ジュリが苦笑いを浮かべて「まあ…」と答えた。
しかし、ケビンとしては聞いておきたいことがある。
「ドイツで何があったのですか?」
「ギルフォードさん達から何も聞いていないんですよね? 実は向こうと連動している事でして…クレーターはパリからの衛星攻撃です。事前に致命的な攻撃はソラ君とギルフォードさんがギリギリで防いだんですが……」
それが空中でばらけて都市中に散ったという話で、同時進行で住民の避難も行われていたのでその隙に敵勢力に逃げられたらしい。
ドイツ内でも派手に戦闘があり、朝方に掛けてずっと戦いが起きた。
ソラとレクターと海はエアロード達を引き連れてバイクで敵勢力の追撃戦を繰り広げており、ジュリは異世界連盟からの応援部隊の出迎えと状況説明で残ることにしたらしい。
「流石にバイクでの追撃なら私が役に立てそうも無いので…」
「何故バイクなのです?」
「それが…ソラ君達が運転できる乗り物はそれしか用意していなくて…他の乗り物に乗ろうにも敵が逃げた方向には列車も走っていませんし…森の中に逃げられると飛空挺では追いかけようが…」
「確かにそれだとお困りますね。それに列車が走っていないと言うことは相当奥地にある村なのでしょうし…」
「ええ。となると乗り物は車かバイクと言う事になり、ソラ達が運転できるのはバイクだけですから」
ソラ達は現在バイクで追撃を仕掛けており、このまま例の村まで行くのだという。
因みにジュリはドイツではボウガンを見かけなかったらしいが、列車内で吸血鬼もどきと言っても良い存在に遭遇したので高確率でドイツに居る可能性は高い。
「作戦時刻を早めましょうか?」
「いいえ。やめておいた方が良いと思いますよ。折角たてた作戦が台無しになる可能性が高いですし…慎重になるに超したことは無いでしょう」
「そうですね。念の為に報告だけしておき、作戦時刻まではこのままで…」
「所で…あれは放置しても良いんですか?」
ジュリが指さす方向では子供達が空中に浮かんで高い高いをして居るが、その高さが三階の窓の到着しそうなほどで、流石にあれを放置できないと急いで止めさせて子供達を救出する。
アンヌが白虎と玄武に一通り説教をしている間、ケビンはジュリの到着と作戦時刻に変更が無い事を伝え改めて戻った。
「ジュリの魔導機で大丈夫なんですよね? その辺を確認しないで連れてきてしまいましたが…」
「ええ。魔導関係で造った霧のようですし、この魔導機で吹き飛ばせると思いますよ。問題は造っている人間がいる限り霧も造られ続けると言うことです」
「要するに一瞬だけ強風を起こしても意味は無いと言うことですね。ロンドンの中に居る術者を見つけ出す必要があるわけですか…」
「それなら大丈夫ですよ。ソラ君が事前に教えてくれましたから。霧の発生点に術者がいるって言っていましたし…駅に居るはずです」
突入部隊が駅に到着して直ぐに制圧する必要性があると言うことになり、ケビンは改めてサクトに報告し、サクト側からの了承が得られたので改めて二人でアンヌ達と合流した。
「ママ! お腹空いた…」
ジュリ達は時計を確認すると時刻は既にお昼になろうかという時刻を迎えており、全員で食事を済ませようと近場のお店へと足を踏み込んだ。
窓側の席を選んで座り適当なメニューを選んでから一旦落ち着く。
水を飲んで一息ついてアンヌが喋り出す。
「しかし、ソラさんもギルフォードさんも心配ですね…飛空挺は脱出出来ないのですが?」
「はい。制空権までもが迷宮の影響下にあるらしく、下手をするとどこか異次元にでも言って逃げられなくなる可能性も高いとか」
「厄介ですね…誰がそんな迷宮化を進めたのでしょうか?」
「どうもヨーロッパ方面から遠く離れたロシアか中国から来ている見たいです。ソラ君がドイツ側から無理矢理切ろうとして例の攻撃が来たんです」
「なるほど…ですが、ソラに切れる物なのですか?」
「いいえ。無理でしたよ。能力の問題じゃ無くて武器の問題らしいです。異能で造った武器では限界らしく、異能殺しの剣があれば切れるんじゃ無いかって…」
「異能殺しですか…恐ろしい剣ですが…それってどんな武器なのでしょうか?」
「概念兵器ですからね。一度概念として定着したらそれ以上変えようが無いだけで基本自由ですよ。それだけに異能という存在が無いと成り立たない非現実的な兵器と言えますけど…」
概念兵器という存在自体聞き慣れない力であり、ケビンとアンヌは首を傾げて悩んでしまう。
するとヒーリングベルが代表して簡単に説明してくれた。
「ケビンが扱っている『竜の焔』で生成された武器こそ概念兵器で、作り出すことが出来る人間の心などが影響を受けて形作る武器。それ故に全く同じ能力の武器というのは作り出せないのです。だからこそ概念兵器なのです。概念上にしか存在出来ない兵器。概念…想像です」
己の心が作り出す概念が異能という力によって形作る兵器をある意味アンヌもケビンも持って居る。
それを意識したことが無いからこそ彼女達は首を傾げたのだった。




