イギリス・カムバック 1
ケビンはアンヌが持ってきてくれたデザートを食べながら簡単に得られた情報を教えてくれた。
ロンドンは武装勢力である『アクトファイブ』という勢力に制圧されており、その勢力はいわゆる異世界を股に掛けて動く集団であると言う事。
彼女にはアクトファイブという組織がどの程度なのかまで知らないらしく、中核である幹部でも無ければ分からないらしい。
問題はそのリーダーであるハンと呼ばれている男がここに来ていると言うことで、それはケビン達からすればあまり良い情報とは言いがたい。
少なくとも彼女が幹部とは言いがたいレベルで、その上に幹部という実力者達が、さらにそこから先にハンというリーダーがいるという真実。
お昼から雨が降るという予報が本当と言うことと、その時の霧の現状で作戦を決行するかどうかを決めるという話しになり、ケビン達はそれまでの間一旦休憩する事に。
軍の建物の中でデザートを食べるケビン、これでもかというほど甘い食べ物を堪能する姿を見てアンヌは苦笑いを浮かべる。
ホテルのシェフ達の苦笑いに似た微笑みと仕方がなさそうに詰めてくれた姿を思い出すと少々申し訳無いという気持ちになってしまった。
「美味しいれふ……幸せ」
美味しそうに食べるケビンの方をジッと見ながら羨ましそうに見ているアクア、アンヌは「一緒に何か買います?」と聞き元気の良い声で「うん」と答えるアクアを連れて一旦外へと出て行く。
雲行きがドンドン怪しくなっていき、そんな中早めに戻ろうとアンヌはアクアのデザート選びを手伝い、最終的に寒そうな状況でアイスクリームを選ぶアクア。
二人でアイスクリームを食べながら来た道を戻っていくと、アンヌの額に冷たい何かが付着したのが分かりそっと上を眺めると、雨では無く雪が降ってきたとわかりアクアがはしゃぎ回る。
「転けますよ! ほら…手を握って。でも、雪だと霧が晴れることはなさそうですね…困りました」
「? 霧を晴らしたいの? その原因を知っているよ」
「え? 知っているのですか?」
「うん。だってイギリスはここ数日ずっと凪だもん…無風状態。濃い霧を消すことは出来なくても多少はマシな状況にする事は出来るよ。要するに突風を起こせば良いんだもん」
「ですが…そんな事どうすれば…」
アクアは「えへへ」と笑いながらアイスクリームを舐めながら提案する。
「出来るよ。大きな魔導機さえあれば。だって魔導機は環境に影響を与えると言うのが大前提の効果なんだから…パパはその効果を使って『竜撃』を使っているんだよ」
「そっか…異世界連盟の本部に飛空挺と船を使って用意すれば良いんですね。ドイツに応援に行けたと言うことはこっちにもこれるという意味ですから」
「うん。アンヌお姉ちゃん達が連絡すれば直ぐに寄越すと思うよ。多分だけどお昼の二時か三時には到着すると思う」
「なら作戦実行は四時頃が良いかもしれませんね。ありがとうアクアちゃん。やはりアクアちゃんを連れてきて良かったです」
アイスを食べて行きながら褒められた事に嬉しさを覚えたアクア、アンヌの横で手をしっかり掴みながら舞う雪を全身で楽しむ。
二人はゆっくりと戻りケビンに大凡の作戦を説明、その後イギリス軍が素早く通信機を用意してくれ、異世界連盟の本部があるニューヨークに連絡を飛ばすと急いで持って行くという連絡があった。
連絡に出たのはサクトで、サクトはケビン達から話を聞き新たな提案を告げる。
『それならそちらからと『ゲート』を使った同時作戦はどうかしら?』
「げーとを使った作戦ですか?」
『ええ。ゲート。異世界間を繋げる道で、貴方達も知っていると思うけどゲートは片方から閉ざしても一時的なら繋げることが出来るのよ。ロンドンには一つ駅と繋がっているゲートがあるはず』
「なるほど。まずはこちらから攻撃を仕掛け、敵の目と戦力を外側へと誘導し、その後中心にゲートからの突入部隊が襲撃すると言う事ですね」
『ええ。それと。貴方達の情報を送ったらジュリがそちらに来ると言ってくれたわ』
「ママが!? でもママ忙しいんじゃ」
『それがジュリはベルリンの治療のために残っていてね。作戦の最終的な戦いには自分に出来ることはなさそうだからとそちらに参加したいと』
アクアが物凄くはしゃいでおりそれを見てアンヌが微笑む。
『ジュリの魔導機は最新式で大きな術式も実行することが出来るタイプなの、多分それだけで十分なはずよ。問題は霧をある程度晴らした後どうやって作戦を実行するのかよ。幾らこちらかの戦力があってもそちらがある程度引き連れてくれないと困るから』
「はい。こちらは各地に居るイギリス軍と連携して見ます。大まかな戦力が分かり次第また連絡します」
『頼むわ。こちらはガイノス帝国首都に戻って軍を整えて奥から。イギリス奪還はいよいよ大詰めね』
「はい。ロンドンを取り戻せば大丈夫なはずですから」
通信を一旦切りケビンは急いでイギリス軍に作戦の詳細を説明、すると素早く各地にいる戦力に声がかかり、皆「ロンドンを取り戻せるなら」とやる気を見せた。
そして、イギリス軍による詳細な作戦が立てられ、結果ポーツマスから出て行く海上で的を引きつける部隊と、陸上から攻めていく部隊で分けられることになった。
ケビン達は陸上から進んで行く部隊に編成され、ある程度戦力を引き寄せたと判断したらアクアが通信でサクトに報告するという手はずになった。
「その後私たちはそのままロンドンに突入し、ガイノス軍と合流してそのままキューティクルとリーダーハンを抑えます」
「キューティクルはケビンが相手を?」
「ええ。アンヌはどうしますか?」
アンヌとしてここでハンの相手をするしかないが、朝起きてから少し気になる事がありここで頷く事がどうしても出来ない。
今ロンドンにカールが来ている気がしてならない。
「俺が相手をする! 大丈夫!」
「ですが…あの女性より強い上、何処までの強さなのか分からないのです。そんな場所に貴方一人だけを連れて行くわけには…ならせめてジュリさんとアカシを連れていってください」
「しかし…それではアクアの防衛が」
「アクアなら大丈夫! 危ない所には行かないから! それより連れて行って上げて!」
「僕が絶対に皆を守る! 僕は守護竜だから!」
ジャンポットが頷くのを確認しアンヌは「私はカールを見つけたらそちらに向かいます」とハッキリと告げる。
「ジュリが到着次第こちらも実行に移しますが…彼女の魔導機はそんな優秀なのですね。少し油断していました」
「ママ。戦うのは苦手だからあまり戦わないんだよね…そうだ。どうせなら海竜ヴァルーチェにも手伝って貰おうよ!」
アクアの提案にケビンとアンヌが渋顔をする。
「手伝ってくれるでしょうか…アメリカの大戦中ですら全く興味を抱いてくれなかったのに…」
「そうですね。ニューヨーク動乱でも全く動く気配がなさそうでしたし」
「大丈夫だよ。お腹一杯になるぐらい食べ物を用意すれば」
「まるでお供え物ですね。まあ、皇光歴世界では竜は一種の宗教の対象みたいな事がありますし…合っているのかもしれませんし。と言うか他の竜でも最低限働きますが、どうしてあれはあそこまで働きたくないんでしょうか?」
「ツンデレなんだよ…本当に困ったら助けてくれるんだよ。ママとパパが言ってたもん。本当に困ったらなんだかんだ言いながら手伝ってくれるって」
「なるほど…ツンデレとやらで手伝ってくれないと…困りものですね」
アンヌは心の中で思う。
(きっとツンデレを知らないのでしょうね)




