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ポーツマス・デイズ 7

 ケビンはグラスにカフェオレを入れつつそれを呑みながら持ってきたパソコンでロンドン方面の情報を探っており、そんな中隣で寝っ転がって丸まっているヒーリングベルの背中を軽く触りながらの作業と、その視界にチラリと映る柱に隠れるジャンポット。

 それを見ながら面白いなと思う一方でふと思う事もある。

 恋愛は人を強くすると言う言葉の意味、ケビンには今まで付き合うという考えに至った事すら無い。

 尊敬する人は沢山いるし、恋愛をしなくてもケビン自身困ると言うことはまるで無い。

 しかし、ソラやジュリ、アンヌやジャンポットの関係を見ているとそっちの方が人は強くなれるのか、そう考えてしまう。

 そう考えながらだから捜索する手も中々進まないでおり、触られているからかヒーリングベルがふと口を開いた。


「…恋愛をしたら私も強くなるのでしょうか? と悩んでいるのでは?」


 ヒーリングベルの言葉にコーヒーを吹き出しそうになり、しどろもどろに成りながらもなんとか否定しようとするが、ヒーリングベルからすればそれが答えな気がした。

 微笑みながら「良いでは無いですか」と言いながら目をそっと開けてケビンの方を見る。


「ですが、人それぞれだと思いますよ。それが強くなる人と、それが弱さに繋がる人とそれぞれです。ですが恋愛とは良くも悪くも人を変えるものだと思います」

「そうでしょうか…正直良く分からないんです。ソラやアンヌを見て羨ましいと思いもしませんし、恋愛が強さになるという気持ちもあまり理解出来ないのです…」


 愛が強さになると誰もが言うし、それがどんな強さになるのか想像しても答えなんて出ない。

 きっとソラやアンヌに聞いてもちゃんとは答え無いのだと思うとハッキリと聞くことも出来ないのだ。

 恋愛を戦いに生かしたいとかそんな事を考えているわけじゃ無い、もしそれに答えがあるのならケビンはハッキリさせたいのだ。

 聞いて答えが出る物では無いと分かるとそれはそれでモヤモヤする。


「面倒な性格をしていますね。ハッキリさせられないのならどうするつもりなんですか?」

「どうと言われても…好きと嫌いをハッキリさせたいわけでも無いですし……どうしたいのでしょう?」

「それを今私が聞いたのですが…まあ悩むと良いではありませんか? 悩みがあると言うことは幸せな事だと思いますよ」

「何故です?」

「生きていると言うことを実感させてくれますし、何よりも悩むことは前に進む余地を残していると言うことです。人は悩むことを止めたら死んでいることと同じだと思います」

「悩むことは…生きること…」

「そうです。必死に悩みなさい」


 そう言いながら再び目を瞑っていくヒーリングベル、するとシャワー室からアンヌ達がバスローブ姿で現れ素早く立ち上がってシャワー室へと消えていくヒーリングベル。

 アクアがケビンの方へと駆け寄っていき抱きつきながら「何していたの?」と聞いてくるので、ケビンはアクアに「調べ物です」とだけ答えた。

 ジャンポットはシャワー室から現れたアンヌの方へと駆けていきながら髪が濡れているアンヌの体調を心配している。

 アカシも飛んで行きながらケビンの太ももの上に着地してパソコンの画面を見つめる。


「コーヒー飲みたい!」

「アクアにはまだ早いと思います。ジュースにしなさい。取ってきて上げますから」


 そう言って冷蔵庫から缶のオレンジジュースを二つ取り出してアクアとアカシに渡し、二人はプルタブを開けてそのまま飲み始める。

 二人の口の大きさでは一口で飲みれる事は無く、ケビンはそんな二人に囲まれながら各方面の情報を整理していた。


「どうやらパリでは迷宮かして困っているようです。今ギルフォードとジャック・アールグレイが二人がかりで攻略している真っ最中らしいですよ」

「そうなのですか? 喧嘩をしていないと良いのですが…」

「それとソラ達の方ですが、途中妨害に遭ったそうですが今はベルリンに滞在し明日一番でとある村を訪れるらしいですよ。何でもそこにソラの求める剣があるそうです」

「剣ですか? あれ以上の剣が必要なのでしょうか?」


 アンヌは話を聞きながら首を傾げるが、直ぐに気にしないことにした。

 問題は各方面の情報を聞いてもキューティクル以外のメンバーの居場所が分からないという事である。

 このイギリスに今キューティクル以外が居るのか、それとも居ないのかがハッキリとしなかった。

 そんな中アクアが連絡を見て呟いた。


「多分だけどボウガンって人はパパのところに出たんだと思うよ。パパが報告していないだけで」

「どうしてですか?」

「報告すると迷宮を攻略しているギルフォードさんがパパのところに向かいかねないからじゃないかな」

「なら私たちからも指摘する必要はなさそうですね。強いて言うならキューティクルがこちらに居るらしいとだけ報告しておきましょう」


 ケビンが報告を記載して各方面に送りつけて一息ついてソファの背もたれに体重をかける。

 するとアクアがパソコンを奪って何やらキーボードを打ちながら操作し始め、敢えてケビンは止めないでコーヒーを飲み出す。

 心の中で「次は私が入りましょう」と決めると、アクアはロンドン市内の監視カメラの映像をケビンに見せてむせそうになる。


「これどうしたのですか?」

「全部は無理だけど一つぐらいならハッキングした! でも画像も粗いし…あまり意味は無いけど…」

「いいえ。十分です。人は出歩いていないようですね……ここはビックベン近くでしょうか?」

「皆家の中という事ですかね? いいえ。見てください。出歩いている人が…」

「武装集団。彼女と同じ組織の人間かもしれませんね。要注意とみておいた方が良いかもしれません。『不死の軍団』はあまり戦力が無いと効きましたし、誰かと取引したのかもしれませんね」

「なら動かしているリーダーがいるはずですね」

「ええ。その人を抑えるか撤退まで追い込めばイギリスに関しては私たちの勝ちでしょう」



 時を同じくしキューティクルは時計台の上から少し移動してベイカーストリートの路上、道路のど真ん中を歩きながらワザと足音を鳴らしながら周囲に意識を向ける。

 彼女はここに居る人を活用するつもりは無い。

 引きこもってくれるなら別に構わない。

 というよりは下手に犠牲者を増やすと不死皇帝が五月蠅いのだ。


「こっちに居ても良いわけ? あんたはドイツ担当だと思ったけど…カール」


 後ろを振り向くと純白のドレスの上に軽鎧を身に纏って金髪と天使の髪が特徴的な人物カールがおり、キューティクルは振り向きざまに悪魔のような微笑みを浮かべる。

 そんなキューティクルに無表情で返すカール。

 少し前に不死皇帝から説教を受けて少々ご機嫌が斜めなカール、ニューヨークの戦いで成長して機嫌の良いキューティクルとお互いに心境は真逆だったりする。


「私の役目はあの少年が剣を抜くまでありませんから…貴方の手伝いです」

「あらあら…ならメメントモリの方にでも手伝いに行きなさいよ。あっちは一人でしょ?」

「いいえ。ボウガンが大量の吸血鬼もどきも居ますし、他にも手練れもいるから明日一杯は持つでしょう。問題はこちらです。貴方も私も戦闘用の力になれていないので集まった方が良いとボウガンが」

「信頼が無いわね…まあ良いけど。今物凄く機嫌が良いの…何故か分かる?」

「さあ。理解しかねる理由だと思うので気にしない事にしますが…念の為に聞きましょう。何故です?」


 キューティクルは今まで見せたことがないほど悪い笑顔を見せた。


「だって……皆狂ったように戦うんだよ。楽しくない訳がないでしょ?」


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