ポーツマス・デイズ 1
ポーツマスの街もまた濃い霧によって包まれており、ロンドンを制圧している武装手段もこの街までは流石に手を伸ばせておらず、軍としては首都を抑えられている状況に歯がゆさを覚えていた。
今すぐにでも奪還したい気持ちだが、王室と首脳陣を向こうは完全に抑えており、それを考えると下手にロンドンへと足を運ぶことも出来ない。
ロンドンへと通じる道のほぼ全て抑えており、侵入するには検問を突破するしかない。
なんとかバレないようにと進む道を考えていた時、フランスからやって来たフランス政府の使者がやって来た。
イギリスを乗っ取っている『不死の軍団』に対抗する組織、異世界連合の直轄として現在は機能している『竜達の旅団』のメンバーの何人かがこの街に向かっているという話を聞き希望が見えてくる一同。
そこでフランス政府の使者は知ることになった。
現在イギリス政府は謎の女の手によって懐柔されており、首都を奪還するにはイギリス政府を取り戻すことと同じ事であると。
時を同じくしフェリーが動き出したタイミングでケビン達の乗る船も動き出していき、遠ざからないようにかつ近付かないようにの距離感を維持しつつ同タイミングで霧の中へと突入していく。
イギリス全土を覆い尽くす濃霧は一寸先までを閉ざしており、ケビンはレーダーで確認しているフェリーの位置をなるべく視認で確認してから、陸地が近付いてくる所で目的地であるランドマークになっているタワーの方へと移動する。
ある程度近付いていく所で赤い光が動いているのが分かり、ケビンはそちらの方へと向かって移動していくと奥から金髪の短い髪をしている綺麗な女性が誘導してくれた。
ボートを停泊させてから降りていくと、女性が改めて自己紹介してくれる。
「初めまして。フランス政府からの使者としてやって来たナタリー・フェルマンと申します。フランス語、英語、日本語など多彩な言葉を話すことが出来ます」
実際彼女の日本語は皆にとって決して困ることは無く、ハッキリと聞き取りやすいものだった。
改めてケビンは現状をどの程度把握しているのかを聞いてみたところ、イギリス軍が駐留している場所で説明させて貰うという話になる。
ケビンは「大丈夫なのですか?」とハッキリと訪ねると、女性は「大丈夫です」とハッキリと答えてくれ、それをとりあえず信じようという話になった。
「イリギスの状況はどうですか?」
「そうですね…正直検問を突破するのはやめておいた方が良いかもしれませんね。私たちも検問の無いいわゆる裏ルートからなんとかロンドンを突破したのですが、その際にコッソリと検問を調べてみました。これがその写真です」
そこには遠くから検問を撮影した瞬間が撮られており、そこには戦車などが配備されている大きすぎる機械で出来たゲート、そのゲートの近くには異常な行動をした者を殺害するために用意された機関銃が装備されている。
正直ここを正面から突破するのは危険だと言わざるおえないが、彼女がこれが原因で検問を突破しない方が良いと言っているとは思えなかった。
「しかし民間人がここを通るのだと思うと流石にどうかと思いますが…」
「いいえ。正直民間人がここを通ろうとする者は居ないと思いますよ。事実上ロンドンは武装勢力によって制圧下に置かれています」
「待ってください。首脳陣はどうしているのですか?」
「それが…まるで人が変わったように武装集団を許容しているんだそうです。街の人達も何人かに聞き込みをしたのですが、どういうわけか皆さん無表情で…まるであれでは…」
アンヌとケビンの脳裏では「洗脳」という言葉がよぎった。
間違い無くロンドンにはキューティクルが来ているのだとハッキリと分かった瞬間で、キューティクルは今ロンドンを完全に制圧しているのだろう。
「ですが、問題はどのタイミングで制圧したのかですが…アンヌは分かりますか?」
「多分ですけど上陸して直ぐに行ったのでは無いでしょうか? ロンドンにいると思って居るのなら首都を抑えつつ周囲を無力化させたいでしょうし」
「ですね。実はイギリス軍の人に一通り皆さんの事情を説明したところ、同じ見解でした。政府陣とトップを人質にしつつ周囲の軍を無力化させる」
アクアは三人の話を聞きながらふと考え込み始め、周りの街並みを眺めてみる。
この街のどこかにいる可能性は十分にあり、同時に隠れているのだろうから未だに創作をしているのだ。
しかし、同時に思う…玄武はどうやってバレないように隠れているのか。
「ポーツマスでは人が外出して居るのですね」
「ええ。私も驚きましたが、別に軍も規制をしている訳では無いようです。とは言っても近くにある首都ロンドンがあのような状況ですから、必要以上の外出は自主的に控えている状況ですね」
「それが良いでしょうね。下手に検問に近付けば何されるか分かりません。子供達などは特に気をつけた方が良いでしょう」
「玄武が隠れられる場所を軍の人が知っていると良いのですけど」
ジャンポットが常に落ち着きの無いように周囲を索敵しており、アンヌがそんなジャンポットに「落ち着いて」と指示を出す。
少しぐらい落ち着いて欲しいアンヌ、ジャンポットからすれば初めて訪れる街というだけでアクア以上に落ち着かないが、こんな大量の霧もまた初めてだった。
一寸先が見えないと言うことは彼にとって少し怖い体験である。
「アカシが少し寒そう…服の中に入る?」
「入る! 寒い…」
「イギリスは北よりですから冬になると寒くなるんです。軍の施設に行ったらもう少し暖かい服を用意しますね」
そう言いながらケビン達は軍の施設へと入って行くと、中では船のチェックをする人達や様々な武器のチェックをしている人達でひしめき合っている。
会議室へと招かれたアンヌ達は、そこで軍のトップから詳しい話を聞くことになった。
「彼は突然現れたんです。私たちは当時この街でいつも通りに過していました。すると、アメリカで内乱が起きたという報告を受け、フランス政府から応援のために向かうから協力して欲しいと言われたのですが、全く同じタイミングで政府の通信から女性の声で通告があったんです。「現状待機。動くと首脳陣の命は無い」と」
「そんな脅迫が…」
「我々は無論奪還しようと動き出したのですが……我々がロンドンに近付くとビックベンから女性を落とす映像をイギリス中に流したんです。直ぐに分かりました。これは忠告なのだと。全軍に撤退命令が下され、我々はここから動くことが出来なくなったんです」
「ですが、その段階ならまだ霧は…」
「ええ。ですが船で上陸することを想定されたのか、直ぐにロンドンを中心に濃い霧が立ちこめるようになり、我々は止めようという話になったのですが…」
そこまで言ってトップの男性は少しだけうつむいたまま少しだけ黙り込み、それだけでケビン達はその後に待ち受けている結末を知ることが出来た。
それだけに彼らは動きようが無いという事がわかり。同時に玄武を取り戻すだけでは今回の事件の解決には成らないとハッキリと理解させた。
「玄武を見つけてもロンドンを取り戻さないと解決しませんね」
「ですが! そのゲンブとかいう存在を見つけさえすれば撤退する可能性は?」
「無いでしょう。私はキューティクルと戦ったことがあるから分かりますが、人の嫌がることを平気です化け物です。下手をすればロンドンで殺戮なども考えつきそうです」
「そ、そんな……」
キューティクルをこのイリギスから追い出さなければこの戦いに勝利は無い。




