ロンドン・ダウン 5
夢からハッキリと目覚めた後俺は心の奥に辿り着いた不死皇帝ジェイドの目的、それは彼なりに世界のことを考えた上の結論であり、同時に人間という存在そのものへの失望から来る行動だったのかもしれない。
それでも俺からすれば幸せを排除して手に入れる世界が正しいとは全く想わない。
きっと祖先であるアグト・ウルベクトもまた同じ事を思ったに違いないし、だからこそ止めようと考えたのだろう。
例えそれで彼自身を殺すという結果になったとしても、俺は改めて心に誓った言葉を胸にしまって起き上がろうとしたとき、俺は再び似た感覚を得た。
またアクアは俺の部屋に侵入したようだ。
昨日はきっと病院に行ったためジュリの所を離れられなかったのだろうが、病院という退屈な場所から解放された為アクアは再び自由に行動し始めたと推測した。
右に俺の腕を枕にして寝ているアクア、そして今度は左側にブライトが俺の服をしっかりと掴んで離さないようにして口から涎をだしながら寝ている。
今度はブライトまで混ざっているのかと思って首を下へと向けると、俺の布団の上でここ数日何処にいたのか謎だったアカシが大の字になって寝ていた。
「君たちは俺の周りで寝ないと安心出来ないのかね」
無論その状態で終わってくれれば俺としては安心出来るが、廊下から見慣れたアホな声が聞こえてきたのを俺はしかめ面をしながら無視する事にしたのだが、何故ドアの鍵が開く男が聞こえてきて焦る。
「ソラ! 起きろ……!? この…ロリコン!」
「やっぱりこういうことになるのか!? 誤解するな! アクアが勝手に入ってきたんだ。後、ブライトとアカシまで混ざっているのにアクアが俺の隣にいる状況にだけ突っ込むな!! それとどうやってマスターキーを手に入れたんだ!?」
「え? モーニングコールするから貸して欲しいって頼んだらアッサリと…」
「ソラ…五月蠅いよ。何事?」
ブライトが起床し目を擦りながら周囲を見回すと、再び睡魔に負けてしまったのか今度は布団の中へと入り込んでからしっかり肩まで布団を掛けて眠り始める。
確かに若干部屋は寒く感じるだろうが、この状況で寝るなと言いたい。
俺が布団を取るとブライトがブルブルと体を震わせ、アカシはそのまま転がってブライトの上に乗っかる。
結構衝撃の強い乗り方をしたためか、アッサリと目を覚まして激しく苦しみ始めるブライトだったが、その目は未だ眠りから起きないアカシへと向けられる。
そんな時レクターはコッソリとアクアの方へと近付いていくので、俺はブライトの頭を軽く掴んで持ち上げ、レクターの方へと顔を向けて声を掛けた。
「ブレス攻撃だ」
「え~い!! 結構熱めのブレス!」
レクターの顔面目掛けてかなり熱めの小さな炎のブレスが飛んで行き、レクターはそのブレス攻撃をしゃがみ込んで回避するが、その瞬間俺はアクアを脇に移動させつつ足で力一杯蹴っ飛ばす。
結果レクターを引き離すことに成功したので良しとした。
ベットなども燃えることもなく全ては結果オーライである。
「ちょっと! 室内に炎のブレスを放つってどういうこと!?」
「お前がアクアを襲おうとするからだ。人の娘を襲うとは百年早い」
「じゃあ百年たったら大丈夫と言うこと?」
「お前の事だからマジで百年後に襲いに来そうな気がするな…」
「ソラ。離して。僕はアカシにいたずらするんだから! 何で部屋にいるのか同じぐらい謎だけど」
「どうせアクアと一緒に来たんだろ…何故かまたアクアが室内に侵入しているし」
すると樹里の声が廊下から中へと入ってくるのがわかり、俺はレクターに「鍵は?」と訪ねると、「開けっぱなしだけど?」とさも当然かのように語ってくれる彼を軽く睨む。
勝手に人の部屋に入ってきてドアに鍵を掛けないで開放状態にしておく友人にきっと常識というモノが著しく駆けているようだ。
「やっぱりまた入りこんでた。しかも今回はアカシまでつれて…」
「やっぱりそっちで寝ていたのか。て言うかアカシはここ数日何処で何をしていたんだ?」「アメリカ内戦時に怪我をしちゃって…昨日まで治療を受けていたの。アンヌさんもつきっきりで看病して居てね。それとヒーリングベルも」
「? アンヌは性格的な意味で分かるけど、ヒーリングベルは何でだ?」
「何でも自分のせいで怪我をさせたって」
「ふうん。アカシが自主的に守ったんだろうから気にする必要があるとは思わないし、何よりアカシの「守りたい」という意識が分かったという点では俺は嬉しいけどな」
「ソラ君はそうだよね。アカシも成長していると思うよ。もう…守るだけの子じゃないんだよね」
そう言ってジュリはアカシの背中を軽く触れていき、ブライトはそんなアカシの耳元で大きな声で叫ぶ。
すると今度こそ目が…覚ます事は無く、静かに寝息を立てながら眠っている。
「寝付きが良いな…俺でもここまで寝付きのいい人見たことないんだけど…ソラある?」
「いや…俺も無いな。これだけ大きな声で叫んで全く起きないというのも流石というか…」
「だったら僕は実力行使で行くまでだよ……たぁ!」
と言ってのしかかりを決めようと勢いよくジャンプすると、寝返りを打ってそれを回避しそのまま元に戻ろうとする勢いで右腕を強めにブライトの後頭部を強打した。
強めに入った拳の当たった所を抑えながら小さく悶えてから涙目になって俺に抱きついてきた。
「負けたか……アカシ強し!」
「ソラ! アカシが虐める! 酷いよ!」
「ブライト……この場合アカシは虐めるつもりがないわけだから虐めじゃないと思うぞ…」
涙目で訴えかけてくるような感じで見つめてくると、人によってはときめきそうな気がして成らない。
そんなやりとりをしてからようやくアカシが目を覚ました。
「何々? どうして僕はソラの部屋で寝ているの?」
「記憶にないって言うことはアクアが連れてきたのか…」
「じゃないかな。確か抱きしめて寝ていたはずだから」
温もりを常に感じていたかったに違いないが、その結果アカシが布団の外に居たような気がするが、俺はここで気にしたら色々と負けるような気がして考えることを止めた。
そこで最後に目を覚ましたのがアクアで俺はようやく布団の上から解放されることになり、俺はブライトと一緒に立ち上がる。
というよりはブライトは俺の体から離れる気が無いようで、俺の服にしっかりと掴んだまま絶対に離れない。
「早く支度しようよ…午前中には出発でしょ? 早く! 早く!」
「催促するな。そんなに叫んでも俺の支度の速度は速くはならないぞ。それよりアクアとアカシもこっちに来い」
ジュリに連れられるように一緒に洗面所に姿を現して二人と共に顔を洗っている間俺はジュリ達に夢の話の詳細を話すことにした。
ジェイド自身の目的も。
「じゃあ不死皇帝の目的って平和を作ること? その過程で世界中の人が不幸になっても?」
「そういうことになるんだろうけど…争いは人が人である証拠だと思うし…」
「俺もそう思うよ。だからこそ、人が少しでも幸せに生きるために、幸せを奪う者や略奪する者と戦ってでも守らないといけないと俺は思うよ。でも、ジェイドは一方的に命を奪う者が永遠を得るという結果が嫌なんだろうな」
それこそ仕方が無い気がするのだが、それを気にしてこそ不死皇帝ジェイドなのかもしれない。
「支配してでも世界に平和をもたらそうとしている。例えそれが受け入れられない事でも、その結果自分が全ての苦労を背負うことになっても…生死の循環を奪う事で…平和を成し遂げようとして居るのかもしれない」
それは俺には受け入れられない事だった。




