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ロンドン・ダウン 1

 俺が言葉を一旦区切ると再び女子陣による食事が再スタートを切るのだが、その際時間もいい加減お昼を迎えようとしていたので俺も昼食代わりに何か取ろうと席を立ったその時、室内に五月蠅い奴が現れた。

 レクターは勢いよく部屋の中に入り込み、俺達がデザートを食べているのだと判断すると素早くデザート選びへと向かって走って行く。

 どうやらこいつの頭の中には先ほどの勝負は既に過去のモノに変貌しているようだ。

 俺とレクターが選んでいるとエアロードとケビンが同じように選び始め、俺はこの二人があっという間に山のように積まれていたデザートの山を食べきったのだと思うとゾッとしてしまう。

 レクターもこれまた今までで最大値を誇るようなレベルのデザートの山を築き上げ、俺はそんな三人からすれば控えめと要っても良い三つという少なさで一旦席に戻る。

 俺は甘さ控えめのケーキをフォークで口へと運びながらサクトさんにどんな風に怒られたのかを聞いた。


「滅茶苦茶怒られた。今まで学校で積み重ねてきた悪行をまるで呪文を唱えているんじゃ無いかって思うぐらいに無表情で、かつひたすら同じトーンで言われた。その後アベルさんがコッソリいくつかの破損を誤魔化していたってバレたから俺は逃げられたけど」

「……誤魔化していたのですか? それは…軍の最高職の人間がしていい事では無いでしょうに」

「大丈夫だよ。まだ最高職に就く前の悪行だから」

「レクター…それは大丈夫とは言わないぞ。全く父さんは」


 これを切っ掛けに少しは真面目に働いてくれるとありがたいが、あの人はレクターと同じで基本反省をしないのでそれは無いなと悲しくなる。

 レクターがパクパクと口の中へと放り込んでいくデザートの数々、あれはキチンと味わっているのだろうか?


「レインちゃんも食べられれば良いんですけどね。まだ意識が戻らないのでしょうか?」

「アンヌ。いや…何度か戻ったらしいが、何せ状況が状況だ。悪くなることはあってもこれ以上良くなることは無いそうだ。死領の楔を取り出すことが出来るのもボウガンだけだ」

「その辺もあの人は計算して居たのかな? そうすれば殺してくれるかもって」


 ジュリの言葉に全員が一旦食べる手を止めてから考え込むのだが、言いたいことはハッキリと分かる。

 ボウガンには「死にたい」という願いがある。

 同時に思う「じゃあどうして死なないのか?」という理由はギルフォードが教えてくれた。


 ボウガンは死ねないのだ。


 それはきっと文字通りの意味で呪いなのだろう。

 死ぬことが許されず、吸血鬼である限り終わることの無い『生』と望んでも手に入らない『死』はきっと彼にとっては絶望だったのだろう。

 決して望んで手に入れた『吸血鬼』という存在では無いし、それを今更否定したところで彼が『吸血鬼』という真実は絶対に変わらないし、何より終わらない。

 そこに望む『死』を手に入れるには、それを終わらせるには『呪いを超える力』であり、その力は『人の意思の強さ』という力なのだろう。


 「吸血鬼は許さない」や「ボウガンは絶対に倒す」という強い意思の力、俺が選ばれない理由であり、ギルフォードが選ばれた理由でもあるのだろう。


「ジャック・アールグレイは金にならないことはしないし、アンヌはそもそも殺すと言うことを得意としないし、ケビンとは接点がなさ過ぎて困るんだろ」

「じゃあソラが選ばれない理由は? ケビン達が選ばれない理由は分かったけど」

「俺は意味の無い殺しはしないし、何よりも物事の本質を慎重に見極めようとするから、本能の部分で「駄目だ」って分かるんだろ」


 ボウガンが本当の意味で望んでいることは『死ぬ』事では無く、死を正しく迎えることなのだろうから。


「ボウガンは諦めようとしているだけだ。そこに俺は選択なんて出来ないさ。そうするしか無いのならそうするが、俺にはボウガンの未来は決して一つじゃない気がするんだ」

「そうですか…ソラさんがそう言うのならきっとそうなのでしょうね」

「はい。ソラ君の思いがギルフォードさんに届くのを願うしか無いですね」


 未だにギルフォードは怒りの中にいるのだろうか?

 かつての俺と同じように恨みを抱えてボウガンを狙う鬼になっているのだろうか?


「今は落ち着いているようだ。このケーキは美味しいな…」

「そうか。ダルサロッサがそう言うんだからそうなんだろう…!? 何時からいた!?」


 皆がいつの間にか俺達の輪の中へと入り込んでいたダルサロッサに驚きの声を上げてしまう。

 全く気配を感じなかったのはどういうことだ?

 前足でお皿を押さえつつデザートを食べており、クリームなどが付かないようにカメラは外して安全な所に置いてあった。


「最初っからだが? お前達が入って行くのが見えたから一緒に入ってきたのだ。それよりここのデザートお持ち帰りは出来ないのか? 今度目が覚めたらレインに食べさせて上げたくてな」


 ダルサロッサはエアロードのように正直頭は良くないが、彼は欲丸出しのエアロードと違い基本的に優しい。

 他人を思いやることが出来、他者の意思を尊重する。

 ここ数日レインの元に居たのもレインの容態がある程度は安定すうのを待っていたからだろう。


「大丈夫だと思いますよ。何でしたら私から許可を貰っておきますよ」


 ケビンはダルサロッサの優しい言葉を尊重することにしたのか、立ち上がってキッチンの奥へと消えていった。

 ダルサロッサは再びデザートを食べ始める。

 少しした後ケビンが戻ってきた。


「大丈夫だそうです。後で詰めて上げましょう」


 そう言ってケビンは大量のデザートの山を攻略し始めた。


「なあ…ケビンってそんなに甘い物が好きなのか?」

「何を言うのですか? 女子なら甘い物は誰でも好きです! ここのお店がオープンすると聞いてずっと来たかったのです」


 そうなのか……知らなかった。

 女子は皆好きなのか、その割にはジュリとアンヌは話をする方が中心になっているように見えるけど。

 ダルサロッサがお皿を空っぽにして俺の方をジッと見つめてくるが、その瞳には「取ってきて欲しい」という願いがあるように見える。

 ジャンポットに頼めば良いのにと思うのだが、どうやらアンヌの話を聞くのに必死になっているようでまるでこちらの話を聞いていない。

 俺はため息を吐き出しながら立ち上がり、ダルサロッサは俺に付いてきて「あれを取って欲しい」と色々と要求してきた。

 その際に「このデザートはこっちに」など配置にも偉い気を使うのだが、その理由は写真に撮るためだったようだ。

 様々な角度から写真を撮っており、一通り写真を撮り終えるとようやく食べ始めた。


「ソラはあまり甘い物は好きではありませんか?」

「まあ……嫌いでは無いだけで隙でも無いな。ブライトが興味あるって言わなかったら来なかったよ」


 そう言ってブライトの方を見ると口から鼻までクリームで汚くなっており、右手にはフォークを握りしめているとまだまだ幼い子供というイメージがある。

 ジュリが紙ナプキンを取り出してブライトの口周りを拭いていく。


「もう少し落ち着いて食べてね」

「そう言えばアクアは?」

「アクアは今念の為にって検査なの。明日の出発までには解放されるから。ほら、念の為にキメラ関係の治療とあの子の演算能力で他のキメラ達の延命治療の手助けでね」

「それで居なかったのか。なんでジュリ達と一緒に行動してないのか疑問だったけど」

「でしたらアクアちゃんの分も一緒に詰めて貰って後で持って行きませんか?」

「良いですね! 喜ぶと思います。確か同じ病院に要るはずですよ」


 そう言って二人でキャッキャッと話し込むが、その傍らで一部の者達は一心不乱に食べていた。


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