向かう先へ 7
再び夢の中へと落ちていく感覚と共に再び二千年以上前の記憶が夢という形で鮮明に見えてきて、どうやらジェイド達は北の山脈の奥で魔界を発見したようだった。
未だにアグトはここに来たことに対する罪悪感があるようで、あまり表情は晴れなかったが、しかしどうやら集落に脅威が迫るのならという思いでここまで来たようだ。
その魔界の場所はやはり師匠と共に訪れたあの場所であり、谷底の下に竜の遺骨がありそこに竜結晶があることは間違い無いとジェイドが告げるのでアグトはため息を吐き出しながらジェイドの方を見る。
ジェイドは強引でせっかちな所があるようで、アグトはそのせっかちさに導かれるようにここまで来てしまった。
谷底の下をそっと覗くアグト、下はハッキリと見えているわけじゃ無いがジェイド曰く下まで降りていくと空気が薄くなっていくと告げる。
「この一番下にきっと竜の残した竜結晶があるはずだ。その竜結晶をなんとかしないとあの集落の危うさは解決できない」
「でも…そんな物。僕達にどうにか出来るのか?」
「出来る! 俺はそう信じる…大切なんだろ? だったら守るだけさ」
アグトは底知れぬ谷底をそっと眺め改めて覚悟を決めた顔をしたのち、ジェイドと共に坂を下っていく。
谷底の周りをグルグルと回るように下っており、坂の幅は下に降りるにつれて酷くなって行くのが上から見ても分かる。
魔物となった狼タイプや鳥タイプが上空と陸上から責め立ててくるのを二人は敵の動きに合わせて戦っていた。
まだ戦いに対して素人であるアグトに対し、経験があるジェイドが引っ張っていくような形になっていたが、それでもアグトの経験は日に日に増していく。
最初の攻略から決められた事、攻略は夜中の内に行うことが決定された。
これは集落の人達にバレたくないというアグト自身の意思が反映された形となり、魔界が近くにあると知られれば集落の場所を移動しようという話しになりかねない。
魔界は不死者と非常に似た性質を持つ敵も多く、強靱さは不死者対策としては特訓相手になるとジェイドが告げたとおり、アグトはメキメキと上達していく。
頭を使って戦う事が出来るジェイドは敵の動きや環境に合わせて五つの型を思いつき、アグトはひたすら一撃で敵を倒すことだけを考えた型を編み出していった。
これが『一撃』と『無撃』の型の開発秘話。
不死者対策のために魔界に潜っていく過程で編み出して、それを次第に昇華させていったという所なのだろう。
「ねえ…ジェイドは家族とか居ないの?」
「さあ…襲われたときにバラバラになったよ…兄や弟が居たけど…今どこで生きているのか俺は知らない」
「そっか……僕は物心ついたときには一人だったから家族って憧れるけど…探そうとは思わないのか?」
「う~ん…考えたことも無いけど…ここの魔界をなんとかしたら探しながら不死者討伐も良いかもな。アグトはどうするんだ?」
そんな事を言われるとは全く思わなかったのか、アグトは少し考えるためにか足を止めて佇む。
足を止めたという事に気がついたジェイドが振り返り考えているアグトに向かって話しかけた。
「まだ考えていないとか? お前はさ始祖の竜から討伐できる人間として名指しされたんだろ? でも悔しくても出来ない人間は多いんだ…そんな人間からすればそんな優柔不断な所は苛つくんじゃ無いか?」
「苛つかれても…僕は今までそんな事考えたことも無いし」
「それが普通だと思うよ。でも…今の世の中はそれが普通じゃ無くなっている。沢山の人が苦しめられ、沢山の人が永遠を生きているような奴に虐げられている。それを見てお前は黙って指を咥えてさ「知らない」なんて言葉を吐き出すのか?」
突きつけられる強い意志とそれに応えなくてはいけないという想いがアグトの心の中へとのしかかる。
この世界には虐げられている人達が沢山居て、不幸のままに殺されていくという現実をまだ見ていないアグトにはそれが真実なのだと理解出来る時間がどうしても足りない。
「僕だって嫌だよ? だれかが傷ついたり、誰かが死んでいるんだって想うと…何よりも僕にとって集落が失う事が一番嫌だ! だから…戦うんだ!」
「だったら降りようぜ!」
二人で下っていく作業を続けていくことにした所で、下をそっと覗き込むとハッキリと見えてきたのは発光する結晶体と、それを包むように存在している竜の骨。
周囲には岩石が変質していることが見えてきて、それが何を意味するのかジェイドは考えなかったが、アグトはその変質した石を削って取り出す。
掌で輝く石は最下層にある竜結晶に似ているように見えるのだが、竜結晶より輝きが鈍く感じるアグト。
「どうした?」
「これって…竜結晶の副産物かも。どうもこの辺りの魔物の凶暴化が急速に進んだのはこの岩石を食らったのが原因かも」
「竜結晶は粒子を周囲にまき散らすらしいけど…それを取り込んだって事か? でもさ…生き物が粒子を取り込んだのは分かるとしてその辺の石とかが取り込んだというのは分からないんだけど…」
「……鉱石。鉱石の発掘場になるんだよ…ここ。多分鉱石が長い時間を経て粒子を取り込んで新しい物質に変質したんだ…」
「それって相当珍しいパターンだよな…」
「うん…それが真相ならあの竜結晶を破壊すればこの鉱石が造られることは無くなるよね。だったら」
「破壊するしか無いか…流石に竜結晶を破壊するというのは俺にも初めてだけど」
「やってみよう。僕の異能殺しの剣とジェイドの不死殺しの剣が合わされば出来るかもしれない」
真上を見てみると夜が明けるか刹那の時が迫っている。
ジェイドは下を改めて覗いてみると一番下には石で出来た人形が徘徊しており、簡単にはいかないというのはハッキリと分かってしまった。
ジェイドの提案で一旦上に上がり、集落の長に事の経緯をキチンと話してから討伐するべきだと言い出したジェイド。
「あのゴーレムはこの辺の魔物達のボスだろうな。あんな奴に手を付ければ他の奴らが騒ぐ。上で魔物を抑える必要性がある。だから集落の長に連絡をして、俺の知り合いの伝手を辿って今手伝える戦力をここに集める」
「出来るのか? そんな事。それに長が許すかどうか」
「出来ないならこの集落を諦めるしか無いぞ。もう分かるだろ? あれを放置すれば竜結晶はあの鉱石を永遠に作り出し、あの鉱石は周りの生き物を次々へと変貌させていく。そうすれば遠からずもの集落まで辿り着く」
「そうなったら…」
集落が崩壊することは否めないとアグトは心に決め集落の長の元へ、その間にジェイドは知り合いに連絡を飛ばすため伝書鳥を飛ばした。
アグトは怒られることを覚悟したが、長は意外とあっさりと「やはり」という言葉を吐き出した。
「最近北の山脈から獰猛な生き物が出てくるという事件が起きていた。それが収まったタイミングと同じ時期にお前の家にあの少年が暮らすようになった。お前達が抑えてくれていたと言うことか?」
「はい。すみません。言えば集落を放棄すると言い出しかねないと俺達で…」
「良いんだ。お前達に余計な重荷を背負わせたな。で? 解決できるのか?」
「はい! 今ジェイドが知り合いに伝手を出して手伝ってくれる人間を集めています。外周りは彼らがして、一番奥にある石の化け物は僕とジェイドでやります」
「そうか……外周りは私たちがしよう。お前と手伝いの人達はその間に一番奥へと向かうんだ」
「ですが!」
「安心しろ。集落を守るためにしてきたことぐらいお見通しだよ。お前達がしたことは胸を張っても良いことだ。胸を張って戦え!」
アグトは剣を強めに掴んで力強い声で「はい!」と答えた。




