向かう先へ 6
夜遅くまで続いたパーティーは日付を超えた所で解散となり、それぞれ泊まる場所へと散っていく中、俺は夜遅くにホテルを抜け出しセントラルパークへと移動していた。
パーティー会場はもうすっかり片付けられており、少しだけ寂しさを抱きながら俺は緑星剣を取り出して軽く左右に振って場を整える。
少し息を吸い込んでから俺は緑星剣に風の刃を集め、ゆっくりと目を閉じて集中すると同時に瞳を開けつつ場に作り出した仮想敵を複数作り出す。
全身の血流の流れを増加させ、地面を強めに蹴って掛けだしていく。
人の形をした仮想の敵は様々な武器を握りしめて襲いかかってくるのだが、俺はそれを紙一重で回避しつつ風の刃で斬りかかっていく。
「竜撃。風の型。花鳥風月」
花鳥風月。
風見鶏は近距離から中距離技、つがいの風は中距離から遠距離技なのに対し花鳥風月は完全近距離連続技。
舞うように移動していき、回避と攻撃を同時に行う技で、密集した場所で集まって敵に対して使う技。
風の型の中でこれが一番完成度が低い技であり、俺はどうしても不安に感じている技でもある。
風竜回転演舞は三つの技を組み合わせて完成させた風の型の完成形、通称『到達点』であるが、花鳥風月が未完成ではこの技をいつまで経っても完成させることは出来ない。
一旦振り抜き、もう一度呼吸を整えてから再び駆けだしていく。
何度も移動しながら剣を振るという作業を繰り返すのだが、これが以外と難しい。
両足で踏ん張って剣を振るのと違い、走りながらでは両足を踏ん張る事がどうしても出来ないので、剣を振り回している内に軸がずれていく。
すると両足に力が込められなくなり、次第に力が拡散していくと簡単にカウンターを浴びる結果になる。
風竜回転演舞を強化するにはこの花鳥風月を強化するのが一番の方法。
攻撃を続けていく過程で強くしていくには、走りながら剣を振るという行動そのものを強化していくしか無い。
いくらか特訓しているとは言ってもやはり長時間これを続けるというのは難しいと言わざる終えないのだ。
「もう一度……花鳥風月!」
俺のイメージがそのまま仮想の敵を作っているので、俺が分かっている動き以外はしてこないはず。
そう考えていると俺の目の前に不死皇帝ジェイドの姿をした仮想の敵がいきなり現れ、俺はジェイドの放つ強烈な一撃を剣で受けて踏ん張る事が出来なかった。
「無撃…一ノ型……無我だったか?」
そうだ…これがある限り風竜回転演舞は通用しないということになる。
「抜刀術みたいなモノか…正確には単発技の一撃攻撃。これを超える一撃を相手に叩き込まなくてはいけない。なのに…俺には無我を超える竜撃を持って居ない」
風竜回転演舞が通用しない以上はそれを超える技を編み出すしか無いが、二千年も積み重ねてきた技をアッサリ超える技を想像出来るわけが無い。
これから積み重ねたのでは意味が無い。
正直に言えば詰まってしまったと言っても良い現状に俺は悩んでしまった。
「超えられる技を編み出せないなら……真似した上で超えるしか無いか…」
攻撃方法は前に見たときにしっかりを記憶しているし、この無我をまずは再現することに集中しよう。
俺はジェイドが技を繰り出した瞬間の記憶を掘り起こし、剣を力一杯振り抜くがどこか違う。
筋肉の動かし方が違うのだろうかと何度も何度も振ってみても、イマイチこれだと思う技の出し方が分からない。
「前にお前が編み出した雷瞬殺があっただろ。あれは恐らく無我を無意識に真似して編み出した技なのだと推測できるぞ。あれを雷の型を借りずに真似すれば良い。重撃を習得しているお前なら私同様見た技を真似することが出来るはずだ」
「そうか……!? 師匠!?」
俺は声のする方向へと顔を向けると師匠が腕を組みながらジッと見つめており、俺はまさか見られていたとは思いもしなかったので驚きと共に心臓が飛び出るのではと思うほども衝撃を受けた。
「いつから?」
「最初っからだ。不死皇帝の技だろ? 監視カメラから入手した情報を午前中確認していたから分かるぞ。あれは無撃の一つ。たしか全部で五つだったはず」
「うん…それは知っているんだけど。師匠は他の技を知っているんだっけ?」
「知らん。だから記録で見たのが初めてになるな…あれが無撃か…正確には無撃の派生である『破撃』は継承されているが…完成度は別物だな。『一撃』が受け継いでいく過程で完成度を高めた技なら、あれは作り出した時点で完成度が高い技だ。それを二千年もの間生きていく過程で更に高めている。正直言おう。あれはもはや次元の違う技だ」
師匠にそこまで言わせるのだからよっぽどの領域なのだろう。
真っ正面から挑んでも勝てるかどうかなんて俺にも分からないが、ここで引くなんて選択肢は存在しない。
「お前はそれを『重撃』『一撃』『竜撃』を活用することでなんとかそのレベルに足を踏み出す所まで来ている。しかし、ハッキリと言うが…あれでなんとか足を踏み出したレベルだ。あれに勝つならその方法では無理だろう」
「立ち向かった俺が分かっているよ。あれを避けられた時点で勝ち目が一気に薄くなった気がしたから。やっぱり無撃を習得する必要があるみたいだ」
「フム『重撃』『竜撃』に『無撃』を組み合わせると言う事か……」
「うん…それしか無いと思う。師匠だって他に勝ち目があるとは思わないだろ?」
「まあな…それは同時に勝負の中でジェイドの技を記憶し、技を理解する必要がある。それも短期間の間にな」
それがどれだけ難しい事なのかなんて俺にも分かっていた。
技をコピーするだけでも難しいのに、それを戦闘中に真似するというのは至難と言っても良いだろう。
それが二千年以上生きてきたジェイドの技ならなおさらだろう。
「戦うだけでも命がけなのに、お前はそれに更に難易度の高い技術を追加しようと言うのか?」
「他に勝ち目が無いんだ…多分だけど無撃を乗り越えないと勝てない気がするんだ」
「フム……分かった。ソラ出発まで明日一日時間があったな?」
「うん」
「お前は『一撃』を完全に真似しているわけじゃ無いな?」
「それは流石に無理だよ…でもどうしてそんな事を」
俺の脳内に嫌な予感が過り、師匠が思案顔をするだけでどうしてこんなにも冷や汗を掻くのだろう?
不思議である。
この人は俺にとてつもない試練を課そうとしているような気がしてならない。
俺は念の為に師匠に無理難題だけは止めて貰おうと思って口を開いたのだが、それより一歩早く師匠が口を開いた。
「ソラ。明日レクターと模擬戦をしてその過程で一撃を習得して見せろ」
始ったという思いが脳裏が過るのだが、言い出したらこの人は一生掛けても絶対に止めてくれない。
一度口に出したら絶対に止めてくれないのは昔っからの癖らしく、一度口にしたことは絶対にやり遂げるというのはこの人のモットーの一つ。
「やるよな? この程度の試練を乗り越えられないとジェイドの戦いを乗り越えることは出来ないと思うが」
「そうですね(棒)。全くその通りだと思っておりました(棒)。師匠の言うことは全く間違いありませんね(棒)」
「その棒読みが異様に気になるが、何だったらアベルやサクトに対戦相手を任せても良いんだぞ」
「楽しみだな! さあ…寝るぞ!!」
俺はウキウキ(ゾクゾク)する気持ちを止めることが出来ず、これから寝ることすら怖く感じてしまう。
今日は徹夜かもしれないなと覚悟して俺はホテルへと帰っていく。
明日はどうやら地獄が待ていると覚悟した方が良いらしい。




