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向かう先へ 5

 レクターの修行の一件はジュリが極秘裏に(もうバレたが)進めているパーティーに参加するので駄目という判断が下り、物凄い残念そうな顔をしながら俺に連れられて出て行き、サクトさんも夕方には参加出来るようにすると微笑みながら仕事に戻っていった。

 仕事に対して真面目に向き合う姿勢は本当に尊敬でき、出来ればレクターにもその精神を受け継いでいただきたいが、その辺は出来そうに無い。

 師匠は歩き疲れたのか俺の背中に張り付いて話してくれないので俺は気にしないことにし、俺達はレクターが告げた集合場所であるセントラルパークへと戻っていく。

 昼過ぎに集合とジュリは言ったらしく、それが正確にはいつなのかはレクターにも分からないそうだ。

 なら俺としてジュリが作業する目の前でスケッチでもして時間を潰していようと思い戻ると、ジュリとアクアとブライトが何やら一角でパーティーの準備をしている所だった。

 どうやら既にアンヌは合流したようで、俺としてはアンヌの隣でアンヌの真似をしながら作業の手伝いをしている大柄の大男が気になって仕方が無い。

 顔にマスクを付けている不審者にしか見えないが、あれがアンヌの恋人候補なのだろうか?


「あれ誰?」

「あれはジャンポット?」


 これは期待できないと素早く判断して俺はアッサリ切り捨て、遠くから身を隠すように眺めてみる。

 師匠とレクターも同じように眺めていると、今度はケビンが輪の中へと入って行くのが見えた。

 こうしてみていると女子会でも始めるのではと思いたくなるほど和気藹々とした雰囲気を感じ取れる。


「女子会って(笑)、一人明らかに男性が混じってんじゃん」

「雰囲気だって言っているだろ? 和やかというか…良かったよ」

「所でこうして眺めているといつまで経っても中に入り辛い空気が続くと思うぞ…」

「だってさ…俺に隠しているって事はサプライズのつもりって事だろ? そこで俺が出て行けば台無しじゃん」

「まあね…それこそ空気読めって話になるよな。だからって俺がここで隠れている理由が無いと思うんだけど」

「お前は空気を読まないだろ? 俺がここに隠れているってバラすだろ?」

「失敬な! その通りだけども!」


 なら失敬では無いと思う。

 お前に関してはどんな出来事を前にしても信用しないと決めているので、事前に行動を封殺する事にしている。

 さてさて…実際困っているところなのでどのタイミングで声が掛かるのか分からない。

 その上遠すぎて向こうの状況が視認でしか確認できない。

 口を見れば大凡の会話を想像出来るが、どうにも限界があるので何も出来ないで居る。


「恋バナでもして居るのかね? それとも……スリーサイズを!?」

「ケビンはスリーサイズを聞いているみたいだな…待ちたまえよそこの青少年はどこに行こうというのかね?」

「離してくれ! 俺は…今すぐあの会話を盗み聞きしなくちゃいけないんだ!!」

「なおさら離さんわ! そんな獰猛な狼みたいな奴を逃がしたら彼女達の処女にまつわる問題が生じるわ!」


 レクターを押さえ込むのに必死になりながらも所々会話を繋げて予想していると、ジュリが慌ててスマフォを取り出した。

 すると、ジュリの様子が変わった事に気がついたレクターが大人しくなって俺の方を見る。


「どうしたの?」

「どうやら俺へのサプライズでは無く単純に報告漏れらしい」


 師匠とレクターが俯きながらため息を吐き出し、俺のスマフォが鳴り響くのを体で感じ取り、スマフォを取り出すとそこにはジュリの名前が堂々と写されていた。

 俺はスマフォの通話ボタンをタッチし、耳に当てるとジュリの綺麗な声が俺の鼓膜を振動する。


「ソラ君? 今どうしてる?」


 俺の目の前にある選択肢は「とぼける」と「素直に告げる」の二つであり、悩んでいる時間が無い中俺は考え出した答えは。


「ジュリ達の様子を遠くから眺めている」

「え?」


 ジュリが辺りをアタフタしながら探し始め、俺とレクターと師匠が少し距離を置いて眺めていると分かり顔を真っ赤にしながら叫んだ。


「違うんだよ!? 別に相談しなかったわけじゃ無くて!! その…告げるのを忘れてて」

「大丈夫だよ。知っていたから……そっちに行くな」


 俺達は素早く移動し始め年末パーティーの準備をしている中へと入って行き、話を聞いていると言い出しっぺはジュリとケビンの会話だったそうだ。

 ガイノス帝国には古くから年末をパーティーで過す風習があり、一種のクリスマス状態になる。

 去年も俺の家でジュリやレクター達を招いてパーティーをした。

 今年はクリスマス前後でアメリカ内戦があったこともあり、パーティーをすることが出来なかったという話が上がり、その際にジュリが年末パーティーをしようと提案したとのこと。


「ふうん……クリスマスなんてここ数年して居ないから忘れていったって言ったら困り顔をされそうだな」

「口に出してる。口に出してる」


 口に出しているとブライトから指摘され、俺は顔を逸らす過程で周囲を見回していると結構豪華なパーティーになっているのではと思わせる料理の数々。

 オードブルな料理からBBQを思わせる肉や野菜を突き刺した素材からBBQのセットまで様々だ。

 どうやらBBQをしながら皆で囲んで食事をしようという話になっているようだ。


 話を聞いている間にブライトが俺の服の中へと入ってくるのを無視。

 何か手伝うかと思ったが力仕事はジャンポットというあの大柄の大男がやってくれているらしく、料理もジュリとアンヌとアクアで出来ているので他のメンバーは邪魔らしい。

 ならここに居なくても言い気がした。

 レクターが体育座りで呆けている姿を見ていると何か行動しなくてはという気持ちにさせ、ケビンは一体何をしているのだろうと探していると、ケビンはジュリ達の手伝いをしていた。

 俺も料理が出来るので手伝っても良いが、味付けなどはジュリとアンヌが出来ているし、他の作業もケビンが入ったことでアクアと二人で出来てしまっている。


 となると俺にはやるべき事が無い。

 仕方が無いので俺は再びスケッチブックを手に絵を描き始める。


「ソラ。絵を描いているの?」

「ああ。ブライトも何か描いてみるか?」


 ブライトが「うん!」といい声を発してくれるので、俺は予備で買ったスケッチブックと鉛筆を渡すが、ブライトには鉛筆よりクレヨンかもしれないと思って買った画材セットの中を確認する。

 有っただろうか?

 そんな事を確認しながら探していると奇跡的な確率で奥に仕舞われており、俺はクレヨンをブライトに渡して一緒に絵を描き始める。


 その様子をジュリ達が微笑ましい顔で見守っている姿に若干納得できない物があった。



 料理が出来たのは夕方になってからのこと、流石にジャック・アールグレイは呼んでいないそうだ。

 ギルフォードは妹の側にいると言って参加を拒否、父さんとサクトさんなどがお酒や飲み物を大量に持って現れ、腹をすっかり減らした他の竜達が現場に現れるとあっという間に会場はパーティー一色へと変貌していた。


 俺は適当なオードブルな料理に手を付けつつフォークで突き刺して口へと運ぶ。

 これはジュリかな?

 そんな事を考えながら俺はパーティー会場をそっと端っこから眺めていると、師匠が同じように端っこから眺めているのが見えた。


「どうしたの?」

「別に…こうして皆と一緒にいることが奇跡のことのように思えてな」


 それはきっと奇跡なのだろう。

 起こりえない奇跡を前に俺達は未だ前に進まなければならない。


 その先に例えどんな敵が立ち塞がろうと俺は戦わなくてはいけないのだから。


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