向かう先へ 1
目が覚めて一瞬だけ思考が真っ白になってしまったのか、先ほどまで見ていた夢をハッキリと記憶しているという不思議な現象故。
普段夢なんて覚めれば忘れるのだが、今回の夢は何故かハッキリと記憶しており、細部の記憶まで何故か覚えていた。
と言うかあれは夢なのだろうか?
ただの夢では無い気がしたが、あの夢の中に現れた俺と同じウルベクトの名前を持つ少年と、不死皇帝と同じジェイドの名を持つ少年。
もし…もしあの夢が本当に起きたことならあれは二千年前の出来事と言う事になり、あれは竜達の旅団を結成する前の話と言うことになる。
ならあの村は今で言う北の近郊都市ということになるのだが、彼らは北の山脈に魔界があると行っていたが、俺は聞いたことが無い。
いや…もしかしたら『撃』の修行場所として使われているあの場所は元々魔界だったのかもしれないと思い起き上がろうとした所で俺は左腕に重みを感じてしまった。
一体何事かと思い左側に顔を向けながら体を少し抱け起こす所で瞳に映ったその人物を見て口をアホみたいに開けてしまう。
「ホワイ?」
咄嗟に英語で出てしまうぐらい衝撃が脳髄に叩き込まれ、俺はもう一度目の前の状況を脳内で処理するために昨日の出来事をお浚いする。
十二月三十日だった昨日はある人物と出会いある小さな箱を渡され、ブライト共に建物を出た後俺はジュリとアクアと合流後、父さんから一月二日に出発する予定で居て欲しいと言われた。
その後俺達は流石にニューヨーク中を回る元気など存在せず、そのままレインのお見舞いをしてその足でアンヌを元気づけようとしたところ滅茶苦茶体格の良い男と仲よさげにしている二人を見て退散。
ジャック・アールグレイは全く見つからないし、ケビンは出立までの間ギリギリまで大統領のサポートに徹すと報告を受けていたので会えない。
レクターはサクトさんに会いに行くと行ってどこかに行ってしまったし、海は一旦家族と会うと行って一時だけだが帝都に戻っていった。
本人曰く出発の日までには戻ると行っていたので心配はしていない。
師匠はあの葬儀後またどこかにフラフラと出かけてしまい、話によればどうも父さんの所を出入りしているようだった。
そのまま夕方にはホテルに戻り父さんと五人で夕食を取った後、ジュリとアクアは自分の部屋へ、俺はブライトと共に部屋へ入ってシャワーを浴びて寝た。
うん…間違ってない。
で、何故俺の左にはアクアがスヤスヤと眠っているのだろうか?
俺の左側のベットにはブライトが大きなベット一つを完全に占拠しており、間違い無く俺はブライトと同じ部屋だったはずだ。
青い髪をジュリにすいて貰ったのだろうが、その綺麗な青い髪と幼い顔つき、まだ小学低学年ぐらいの背丈は正直に言えばただの少女にしか見えない。
しかし、彼女はこの二つの世界の交流の中で生まれた存在でもある。
ある意味この二つの世界を滅ぼす因子にも、世界を一歩先に進化させる因子にだってなれる。
そんな彼女は俺とジュリを「パパ」「ママ」と呼び慕ってくれているのだが、そんな彼女は昨日ジュリと寝ていたはずなのに、どうして俺の部屋の俺のベットで寝ているんだ?
て言うかこの部屋には自動ロック機能の付いた電子錠が付いていたはずだが、彼女はそれをどうやって解除して部屋まで入ってきたのだろうか?
「おい。アクア。どうやって部屋に入ってきたんだ?」
「うみゅ……? パパ?」
「そうだ。どうやって部屋の中へと入ってきたんだ?」
「でしゅじょう………ろく…かい……むりや…り…グウ」
どうやら電子錠のロックを無理矢理解除したと言いたいのだろうが、となると下手をすればアクアは鍵を壊した可能性すらあり得る。
下手をすれば後でフロントから怒られるレベル、できる限り今すぐに走っていきドアのロックを確認したい。
しかし、今の彼女はそんなことすら許してくれない。
「アクア。起きたなら離れてくれ」
「……いやぁ…パパと…いっしょ」
「だったらせめてロックは壊したのか? 壊していないのか? どっち何だ?」
アクアは深い眠りの中にいるらしく中々起きてくれない。
俺は困り果ててそのままどうしたものかと悩んでいると、外側からジュリの慌てた声が聞こえてきた。
俺は大きな声を上げてジュリを呼ぶのだが、ジュリ曰く部屋にはしっかりロックが掛かっているらしく一旦落ち着く。
「そこにアクアがいるの? 起きたらもう居なくて…」
「どうも無理矢理ロックを外して入ったらしくて…ブライト起きていないか?」
「? 今起きた。どうした……の? 何で部屋にアクアがいるの?」
「頼むブライト。部屋の鍵を開けてジュリを中に入れてくれないか?」
ブライトが「はーい」と言いながら眠たそうに目を擦りながら部屋のドアを開けて中へとジュリを招き入れる。
ジュリが中へと入って行き俺の腕で膝枕をしているアクアを見つけて一安心の息を漏らす。
「良かった。どこかに連れて行かれちゃったかと…でも本当に気持ちよさそうに寝ているね。よっぽどアメリカ内戦中に私たちに気を使ってくれていたんだね」
「かもしれないな……悪いんだけど起きて顔を洗いたいから持ち上げてくれないか? 割とベットの端の方だから力尽くで動かすと落ちそうで」
ジュリが「わかった」と言ってアクアをお姫様抱っこして俺からずらし、俺はその隙に素早く体を起こして洗面所で顔を洗う。
その後顔をタオルで洗いながら俺はジュリとブライトに先ほど見た夢を話した。
「う~ん。二千年以上昔の夢。竜達の旅団発足より前の記憶か…どうなんだろう。何か切っ掛けがあるとすればそれはアクアだと思うけど」
「そうだね。アクアが何かをしたとしか思えないけど…」
皆でスヤスヤと寝ているアクアの方をジッと見つめるが、アクアが俺に何かを伝えようとしたのか、それとも無意識に何かをしていたんのか。
「でも、その話だとその後二人は『撃』基礎の型を作ったことになるね」
「ああ。サクトさんに伝わった『一撃』と不死皇帝が扱う『無撃』だな」
そうなれば話としても分かりやすい。
あの後二人は魔界で修行していく内に例の場所に名を残したのだろう。
「でもさ…僕良く分からないんだけど。そもそも『撃』ってなんなの?」
「…あの二人が不死者を殺すために編み出した技。全ての型が必ず『撃』の名を冠するからそのまま『撃』の流派と呼ばれているらしいけど。あの様子だと初期の型はやはり二つ。一撃は分かるけど…無撃の名の由来とか分からないよな」
「不死者を殺すって意味だと…全てを無に帰す一撃とか?」
「そういう意味なのかね?」
名前には必ず由来が存在するはずだ。
師匠の重撃はその名の通り全ての技を一撃必殺の重たい技へと変えるという意味。
俺の竜撃は竜達が扱うような技。
それぞれ名の由来があるが、一撃と無撃はその時代を象徴する名前があるのだろう。
「過酷そうな時代みたいだね。アッサリ故郷を失うぐらい酷い時代だって分かるよ。話を聞いた今でもそんな気持ちになる」
「だな。不死者って昔はそんなに居たんだな…今からじゃあまり考えられないけど」
「でもこの西暦世界だって多分居たはずだよ。何故か歴史から抹消されているみたいだけど…」
「それもおかしいよな? ギルフォードの話を聞く限りどうもボウガンも元々はこの西暦世界出身かもしれないらしいし。何よりも吸血鬼はこの世界出身…だったらどうしてその歴史が残っていないんだ?」
「誰かが消したとか?」
誰が何の為に歴史を消したのか、もしかしたら不死皇帝はそれを知っているのかもしれなかった。




