嘘つきの国 4
俺達がバスから降りた場所は目的地から少し離れた場所にある商店街前、書店街の方には入らずそのまま横断歩道を横断して目的地前までの通りに出た。
ここの通りはどうも文房具や電子機器類のお店が充実しているらしく、所々に喫茶店のようなお店が揃っているような印象だ。
俺達は左右のお店を目でのみ見ながら目的地まで歩いていく。
「お値段も学生用にリーズナブルな物が多いな」
「奈美ちゃんリーズナブルってどういう意味?」
「えっと…………」
「奈美が知るわけないだろ?納得がいくとかそういう意味だけど、日本人は物価が安いという意味で使うから」
日本人は英語を独自の解釈で話す傾向が強く、このままいくとガイノス帝国の言葉ですら独自の解釈に走るかもしれない。
「じゃあこの場合は?」
「安いって意味だ。そのままな。実際安いし。と言っている間に目の前に見えてきたな」
複雑な建築物。
縦横に様々なブロックが突き刺さったような建物で、へたくそな人間がテトリスでもしたかのようなビル。
正門はきちんと整ったデザインをしているのに、対照的な感じでビルが面白い。
「意図的なデザインかな?それとも増築を繰り返して完成したのかな?」
「どっちもありそうだけどね。実際人間のデザインって結構奇抜な人は奇抜だし」
ジュリの言い分も分からないでもないし、実際建物は奇抜なデザインをしているし、まああそこの飛び出ているような部分なんてどうなっているのか気になって仕方がない。
俺達は正門をくぐって中へと入っていき、コンクリートの道路と綺麗にされているガーデニングが映えるデザインをしている。
「ここにいる教育省のトップが反政府組織の本流のリーダーをしているらしいんだ」
「よくやってこれましたね。教育相と言っても内閣の一角を担当している人間でしょうに、そんな人間がよく反政府組織の本流を務めましたね」
「そこはこの国独自の内閣メンバーの選び方が原因でもあるらしいけど。この国は総理大臣は与党から選ばれるらしいけど、各大臣は各省が退任時に選ぶシステムらしくて、ここの大臣は三年前に大臣に選ばれて以降この場所を反政府組織の本流の拠点として使ってきたらしい」
ここが反政府組織の本流としてやって来た背景には、並々ならぬ努力があったのだろうし、その辺にジェノバ博士が帝国の地でやってこれた理由でもあるのだろう。
俺が先に自動ドアを潜って前へと進み、三階まで突き抜けになっている金属と白塗りにされている壁と床を歩きながら受付嬢の元へと向かう。
受付嬢にジェノバ博士の推薦状を渡すと受付嬢は慌てたようにどこかへと電話をかけ始め、数分後受付嬢の案内のまま俺達はエレベーターで上の階へと昇っていく。
最上階は大臣の部屋が一つ用意されているだけで、それ以外は何も用意されていない。
受付嬢とはエレベーターで別れ、俺達はそろって短い廊下の先の木製に見える両開きのドアをノックする。
奥から女性の「どうぞ」という声に俺達は反応しドアを開く。
「ようこそ私エルナード・モルファンと申します。この国で教育省の大臣を担当している者です」
椅子に腰かけて座る女性、薄茶髪を肩につくぐらいの短さに切りカールをかけ、灰色の女性用のスーツ越しにも分かる若さがスタイルから見えてくる。
表情以上に顔立ちからは優しさと覚悟を覗かせている。
彼女こそ反政府組織のトップに立つ女性だ。
「お越しくださってありがとうございます。ジェノバ博士からもしかしたら尋ねるかもしれないからと言付かっております」
「こちらこそ申し訳ありません。『竜達の旅団』の人間側のリーダーである『ソラ・ウルベクト』と申します。我々はこの国の真実を突き止め、同時にどうしていくかを考える為にこの場所に来ました」
この女性に嘘はつかない。
嘘を吐くこと自体がマイナス要素にしかならないだろう。
「そうですか………その前に『竜達の旅団』について教えてもらってもよろしいですか?」
俺達はかいつまんで竜達の旅団の活動内容を説明して見せ、彼女はその全てを「うんうん」とも言わず黙って聞いていた。
「なるほど。人と竜ですか………私達では中々至らない発想です。素晴らしい発想だとともういます」
「いえいえ。そもそもそこのシャドウバイヤが言い出したことです」
シャドウバイヤは人の話を聞きながら差し出されたホットコーヒーを自らの息で覚ましている。
「真実……なんてあるのでしょうか?この国は『嘘つきの国』です。嘘に嘘をつき続けてできた国で、皆さんが見てきたであろう太陽の英雄譚も嘘で出来たものです」
「真実は別だと?」
「ええ、太陽の英雄が魔王を倒したというのは事実ですが、その裏には太陽の英雄を殺そうとした政府側の意向が書かれていない。太陽の英雄が本当に英雄になった理由は当時の海洋同盟にまだまとまりが無かった頃、第一島の国王をしていたのが太陽の英雄です」
「各島毎に国があったんですか?」
「太陽の英雄は島ごとの争いで人々が傷ついていくのがどうしても耐えられなかったんです。その頃、ちょうどガイノス帝国を中心に各国で魔王と名乗る存在が問題視されるようになっていました。その頃、聖竜からの提案で魔王を封印して欲しいという頼みごとをされたのです。その役目を与えられ十六の島々をまとめ上げる役目を与えられたのが太陽の英雄でした」
要するに太陽の英雄とは元々聖竜や各国から期待されていたこの後に海洋同盟と名乗る国をまとめる者という訳だ。
「魔王をドラファルト島の小さな洞窟に封印した太陽の英雄でしたが、そんな彼の行いに多くの人々は関心を集め、結果英雄は国王に認められるまでに至りましたが、そこに一人の男の野望がこの国を嘘つきの国に変貌させました。就任の前日に太陽の英雄が病死したと伝えられたのです」
「その情報はどこに?」
「我々大臣クラスでしか覗くことのできない情報閲覧権の高い場所にあります」
「そうですか。話の腰を折ってすみません」
「いいえ。それで太陽の英雄の死後議会を建造し誰にでも参加できる内閣制を提示したのが初代総理大臣になります。そして……皆さんの予想通りですが太陽の英雄を殺した相手がいるのです。食事の席で毒を盛り、毒殺した人間こそが初代総理大臣となります」
「自分が上に立ちたいが為に英雄を殺したわけだ」
「そういう事です。しかし、そんなことを周辺国に言えば海洋同盟というこの国が周辺国からの侵略を受ける可能性が高かったのです」
当時は国家間の戦争が頻繁に行われており、特にガイノス帝国は様々な国と戦ってきた。
太陽の英雄と繋がりがったガイノス帝国に英雄が毒殺されたとしれれば間違いなく戦争という事態になりかねない。
「戦争が始まる度に鎖国し、閉鎖的な国を演じながら常に国内の問題をひっそりと処理をしては周辺国を騙し続けてきました。嘘をついて、その嘘がバレそうになる度にまた嘘を吐く。そして反政府組織が誕生したのです。今から十年前、ある事件をきっかけに国内の嘘の1つが暴かれました」
「鎖国をしていたのは国内の問題を処理して嘘を吐くため?ですが、その話し方だとその嘘がどこかで綻びが生まれたように聞こえますけど?」
ジュリの言う通りで俺にもそう感じた。
ここにいる皆がそんな感じに感じていただろう。
「その通りです。十年前ある人物の殺人事件をきっかけに暴かれるようになりました。そして、その殺人事件こそがドラファルト島の悲劇へと繋がっていく流れになります」
そこから繋がる言葉に俺は黙る事しかできなかった。




