夜が明ける前に 3
三階で暴れ回っている男が上の階からハッキリと聞こえてきたアンヌ達、仕掛けるなら今しか無いとジャック・アールグレイと共に襲いかかっていき、ジュリはその間に近くの端末からハッキングし直ぐ近くに置いてある機材を動かし始める。
それが上の階にいる俺達にも通信越しにハッキリとわかり、ジュリが動かしていると思われるパラボラアンテナがグルングルンと動きはじめ、周囲にある機材が誤作動をし始める。
俺はそんな状況でも剣を握る手をけっして緩めず、踏ん張った状態で力一杯緑星剣を振り抜いて敵兵を切り裂いて行く。
アサルトライフルの銃口を俺の方へとハッキリと向けながらも引き金に指を掛ける兵士達、後ろでは海が二人同時に斬り伏せ下の階から応援が上がってくるように見えるが、どちらかと言えば上に上がらないとヤバいからだと思われる。
実際兵士達の顔は誰もが危機感を高めたような表情をしており、俺はそんな彼らにすら容赦無く斬り伏せていく。
本当は彼らにだって分かっているんじゃ無いのかと思わなくも無い、こんな馬鹿げた争いに意味が無いと言うことぐらい。
しかし、引くに引けない所まで彼らが来ており、進まないと後ろに下がることも出来ないまま追い詰められている。
鬼気迫るような表情は自分を鼓舞する人間の顔なのだろう。
どこかで止める、どこかで引くという選択肢がどこかに有るはずで、引き返す道も、止めようと誰かが言えばそれで終わる話なのに、彼らは絶対に引かない。
追い詰められ、それでも前に進む姿は正直同情しようも無い。
剣に風を纏わせて三人纏めて斬り伏せつつ走り出し、そのまま壁を走りっていきながら剣を敵の動きに合わせて振り回す。
海も俺の動きをしっかりと見極め、俺の剣の動きに反応して敵を程度良く俺の方へと集めていくのだが、下の階から外から溢れ出る以上の冷気が上がってきて、下の階からジャック・アールグレイの舌打ちが聞こえてきた。
アンヌが何かしているのかもしれないが、ジュリが巻き添えを食らっているのではと少しだけだが心配になる。
まあ、アンヌがそんな事をするとは思えないので多分ある程度は手加減をしていると予想し剣を振ると、下の階から冷気でできた大きな片腕が階段近くで銃を構えていた兵士二人に襲いかかっていき、気がついたときにはその両腕から張り手をされていた。
張り手を食らった兵士は氷付けとなりそのまま砕け散ってしまうのだが、見ていると正直あまり気持ちの良い攻撃じゃ無いが、その腕を操作しているのはアンヌでは無く白虎と呼ばれているエネルギー生命体である。
なにやら興奮状態だが何があったのか。
すると下の階からアンヌが急いで上がってくるのだが、アンヌの周りもなにやら怪しげな明かりが飛び回っており、ぱっと見人魂をを操っているように見える。
一帯彼女達のみに何が起きているのかと思って少し距離を取ると、白虎は兵士達を次々と凍りづけにしてしまう。
「何々? 何事!? 更に気温が下がるってどういう状況なんだ!?」
「知るか! あの白虎に言えよ」
「白虎! いい加減大人しくしてください! いくら昼寝をしていたらたたき起こされたからと言って」
物凄く下らない理由な気がするが、まあ怒る理由なんて人それぞれなので突っ込まないし何も言わないことにした。
足場どころか周囲の建物事全てを凍り付かせようとしているのではと邪推させるほどの冷気の威力、人体が一瞬で凍り付くというのは流石にヤバい気がする。
物凄い興奮して敵を探し出しては襲いかかっていき、ものの数分で大人しくなると下の階からジャック・アールグレイとジュリ達が昇ってくる。
「やれやれ…巻き添えを食らうかと思った。全く…その虎もどきにも困ったものだな」
「ソラ君! 大丈夫?」
「ジュリ! 聞いてくれソラが私を囮として使ったんだ! 酷いと思わないか?」
「思わない。お前が我儘だから多少しつけようと思っただけだ。それよりこのまま白虎を沈めた後に次に進んでみよう」
「無視するな! 私はまだ何も納得して居ない! 謝罪を要求する」
「ブライト。エアロードを武器にして黙らせてくれ」
ブライトがふらりと目線をエアロードの方へと向け、無表情で見つめるその目は明らかな怒りが滲んでいるのだが、エアロードは脳内で「ヤバい」と感じたのかそのままUターンしようとする。
しかし、その進路をヒーリングベルが邪魔してきた。
そのままエアロードの体が発光体に包まれていき二本の剣に早変わり、俺はそれを背中に背負った状態で歩き出す。
「ちょっと可哀想じゃ無い?」
「あそこまで我儘を言われると流石に腹が立つ。後で元に戻すさ。それにどうやら鬱陶しいと感じて居たのはブライトも同じだったらしいし」
「うん…物凄く鬱陶しかった! 反省して欲しい! 五月蠅いし。我儘だし。何より周りを振り回すし」
「ヒーリングベルさんも何か言ってください」
ジュリがヒーリングベルに声を掛けるが、二本の剣になって黙り込んでしまったエアロードをスマフォのカメラでしっかりと激写しており、その状態で「何です?」とジュリの方へと振り返る。
多分腹据えかねていたのはヒーリングベルも同じだったらしく、耐えかねての行動なのだろう。
するとジャック・アールグレイがタバコに火を付けながら呟く。
「まあ…五月蠅かったからな。私個人としてはダークアルスターも反省して欲しいんだが? お前の取った行動が原因で色々と問題になっているわけだしな」
「何!? 私があそこの双剣と同レベルだと!? 心外だ! 訂正を求めるぞ!」
「いや…あそこまで馬鹿とは言わんが、災いというレベルではダントツだろ? 別に利益を出せるなら何も言わないが、お前の場合は利益を出す前に災いで損をしているから」
「断るぞ! 反省しない!」
ジャック・アールグレイが俺の方へと目線を向けてくる。
俺はブライトに「頼む」と頼み込み、ダークアルスターの体もエアロードと同じように発酵し始める。
すると途端態度を変えるダークアルスターは必死でジャック・アールグレイに頼み込むが、ジャック・アールグレイは何処吹く風と話をまるで聞かない。
「少しは反省していろ」
「うう……何でこんなことに」
最初こそ物凄く威厳がありそうな顔をしていたが、花開くと途端馬鹿っぽさを発揮するな。
ダークアルスターの体があっという間に身の丈を超える大剣へと変貌し、重そうな大剣を俺は握りしめながら引きずって歩く。
ジュリとアンヌが少し可哀想な顔をして一緒に歩いており、シャインフレアは大きなため息を吐き出しながら俺の後ろについてくる。
ダルサロッサは小声で「ざまあみろ」と呟く辺りどうやら彼も普段の行いに怒りを滲ませていたようだ。
しかし、スマフォで激写するヒーリングベルを羨ましそうにみていた。
流石に少しだけ可哀想な気がするが、俺は流石にギルフォードの意見を無視してそんな物を当てる訳には行かない。
と思っていると俺はある道具を持って居たと気がつき、鞄の中から一眼レフカメラを取り出してダルサロッサに手渡す。
「これは?」
「カメラ。記録媒体だと思えば良いよ。前に人から貰ったんだけど俺も興味ないし、周りに居る人も誰も興味が無いから俺がずっと持って居たんだ」
手に入れたのは半年ぐらい前の話、偶然それを手に入れたのだが正直別に写真が好きなわけでも無いし、旅先の景色を撮るならスマフォがあれば良いと興味を示さなかったからずっと持ち歩いていた品。
使ってくれる人がいてくれるならその人が持ってくれる方が良いだろう。
ダルサロッサはそれを前足で触れてみて、器用そうに前足で持ち上げながら四つ足走行の生き物がカメラを使いこなしていた。
「………お前良い奴だな」
ダルサロッサの笑顔を俺は初めて見た。




