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竜達の旅団≪ドラゴンズ・ブリゲード≫~最強の師弟が歩く英雄譚~  作者: 中一明
アメリカン・シービルウォー《下》
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英雄集結 8

 ノックスという男が生まれた時からこんな性格なのかと言われるとそうじゃなかったらしく、幼い頃は機関車の玩具で遊ぶそんな普通の子供だったらしく、ケネディ宇宙センターの職員をしている両親からすれば微笑まし光景だった。

 しかし、ノックスは幼い頃より両親に対する不満は沢山あり、その理由は仕事が忙しく夜遅くに帰ってくるなんていつもの事だったらしい。

 ご両親曰くなるべく帰ってはいたらしいが、それでも帰れない日もあったそうだ。

 そんな日は近くに住んでいる祖父に頼んでいたのだが、祖父は幼い頃より軍人であった事を誇りに思っており、幼いノックスはそんな祖父から何度も何度も聞かされてきたそうだ。

 第二次世界大戦を生き延び、ベトナム戦争を経験した祖父の話を聞いていく内に軍人という職種に憧れを抱くようになった。

 それと同時に感じる軍人になれとしつこく迫ったにも関わらず全く関係の無い仕事を選んだ息子に対する不満を聞いていく内に、両親との溝が出来ていくようになったそうだ。

 軍学校への進学を気に一度は完全に関係を絶ち生きていたそうだ。

 それでも祖父の願いのままに生きる息子の姿を見た両親は息子が、それを見て喜ぶ祖父が恐ろしく感じたらしい。


 実際俺がその場にいても恐ろしく感じただろう。


 しかし、俺自身が分かっている事だが、戦うと言うことは軍人であると言うことは決してきれい事ばかりじゃ無い。

 師匠は命を奪う事、命を救いたいという願いの狭間で苦しみを受けていた。

 それでも軍人であると言うことに師匠は「命を奪った分だけ命を救う」という答えに辿り着き、命を救い続けるという事を己の役目にした。

 軍とは決して綺麗事じゃ無い…醜さと向き合うような仕事。

 憧れで出来る物とは思えない。


 実際ノックスは軍という仕事の真実にぶち当たる事になった。


 9.11事件の最中友人に会いに行くと言った祖父が事件に巻き込まれて亡くなった。

 戦争へと向かう情勢下の中、ノックスは戦場でその真実を知ることになる。

 指一つで奪われる戦場、どこに罠が待ち受けているか分からない。

 一歩踏み出すだけで死んでしまうのではと恐ろしく思い、同時に前に進まないと敵に殺されそうになる。

 殺されないためには戦うしか無いという現実、矛盾した心理が襲いかかった結果ノックスがどこに行き着いたのかといえば…勝てば良いだったそうだ。


 方法なんて関係ない。

 ただ…勝てば良いんだ。


 勝つことが母国を守る事に繋がるのだと、手段も関係ないんだと友人すら利用してひたすら勝利を選んだ。

 その結果彼は何故戦うのかという結論すら分からなくなってしまっていた。

 結局この世の中は権利こそが全てであり、他人なんてどうも良いのだと戦争を通じて答えになったしまった。

 だから苛ついた。


 この世の中に権利を無視してでも誰かを守ろうとし、それが出来てしまえる人間がどうしようも無く苛ついてしまった。

 英雄などと呼ばれる人間達を、そう呼ばれることが出来るほどの強い心の強さを持つが妬ましく思うようになった。

 だから証明したかったのだ。

 この世の中は権利こそが全てであり、誰かを救う事なんて偽善に過ぎないのだと、そう思うことでかつて自分が無力で両親の願いを蹴ってまで軍に入ろうとした自分への言い訳のつもりなのだ。


 幼い彼はこの世の中が決して綺麗事だけじゃ無い事を知らなかった。

 祖父が教えてくれた真実をそれでも頑なに信じ続けると言うことの意味、それは決して祖父への想いですら無い。

 ただ…自分が間違っていると気がつきたくない。

 この世の中間違いを訂正していく中で本当の正解に辿り着く、それがどうしてもノックスには出来ない。


 正解、不正解を繰り返して人は成長出来るのだとずっと分かっていたはずなのに。


 きっと戦場で真実を知ってしまった時、振り返って両親の元に戻っていれば何かが変わったのかもしれない。

 ご両親だってきっとその時何かを知っていれば何かが変えられたのかもしれないが、両親が知ったのは比較的最近の事だったらしい。


クライシス事件の後のこと、両親は軍の仕事をしているはずの息子を心配し会いに行ったとき、変わり果てた息子の考えに唖然としてしまったそうだ。


 同時に今更とも言われて反論できなかった。

 戦争の時に全く心配しなかった両親が、今更会いに来ると言う事がノックスからすれば滑稽な話でしかならない。

 笑われてしまったとき本当の意味でノックスに引き返すという道が完全にたたれてしまった。


 ただ健全に生きようとした両親を、ひたすら自分の夢を追った両親に憧れて夢を叶えたはずなのに…こうも違う結果になったのは何故なのか。


 夢を追い続ける両親にすら怒りを覚えるようになり、夢を追い綺麗事を貫き通すアックス・ガーランドを否定することで両親への否定に繋げたかった。

 そう…全ては自分の思い描く道が正しいのだと証明し続けるための方法に過ぎず、それを証明するためでもある。


 両親が願ったのは息子の幸せであり、それ以上もそれ以下も存在はしなかったのに。


 今やっていることが本当に彼自身の幸せに繋がるのか、両親にはそんな事は分かりきっていた。

 そう説得しようとしたが、それでもノックスは止まる事は無かったそうだ。


「幸せになることが絶対じゃ無い」


 そんな言葉を強がって吐き出さなくてはいけない事が既に無理をしている証拠であり、両親はそんな息子に何かしてやりたいとここ数日ずっと手を打ち続けていたが、ノックスはそんな両親をここに閉じ込める事を答えとした。

 この世は善悪など存在しないのだと信じることが自分の正しさであると証明し、それを両親に見せ閉めるつもりなのだと。


 ご両親はそれを止めさせたくてここに来る人を待っていたそうだ。


「私たちをここから出して欲しいとは言いません。ただ…あの子を止めてください!! もう…これ以上罪を重ねて欲しくないんです!」


 頭を深々と下げるご両親に約束する事にした俺は「任せてください」とハッキリと答えた。


「ありがとうございます! これを…」

「これは? USBメモリー?」

「はい。前あの子を訪ねた時にこっそり手に入れた物です。あの子が今回の作戦に対して考えていたいくつかの策が入っているはずです。私たちもとにかくデータを適当に入れたので全てを確認したわけじゃありませんが…ワシントンにある要塞と結界を破壊する方法は分かるかと思います」


 これがあれば確かに非常に助かる。

 俺はそれを受け取りそれをポケットに入れていると、俺の通信機にノイズ混じりの声が聞こえてきた。


「どうした?」

『……に…』

「ジュリ? どうした?」

『……にげ…………逃げて!』


 俺は急いで異能の具現化を行い盾を展開しようとするのだが、目の前に居るご両親は最後に俺達に「息子を…お願いします」とだけ謝ってから周りに閃光で包まれた。

 物凄い衝撃を俺は太陽の鏡で皆を守るように展開したが、ご両親だけはあと一歩間に合わなかった。


 建物が半壊し、俺達は建物の外に投げ出されていたがそれでも最小限の怪我で済んだのはアンヌとケビンのお陰だった。

 半壊した建物にいたであろうノックスのご両親は助からない。

 ノックスは恐らく建物部屋に予めセンサーを仕掛けておき、それに両親と自分の部下以外が引っかかれば起動して自分の元に情報が行くようにしておいたのだろう。


「ご両親事私たちを殺そうとしたのですね……この攻撃力。ミサイルとかでは無く」

「ええ…先ほどの超電磁砲を無理矢理動かして使ったのでしょう。これで壊れたとは思いますが…」


 俺は咄嗟に叫んでいた。


「ノックス!! 貴様!!!」


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