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竜達の旅団≪ドラゴンズ・ブリゲード≫~最強の師弟が歩く英雄譚~  作者: 中一明
アメリカン・シービルウォー《下》
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ラスベガスの戦い 3

 VIPルームで俺達を待つ人物とは一体どんな人物なのか、俺達を騙そうとして待っているのか、それとも何かノックスに関する情報を俺達に提供しようとしているのか、それを確かめるためにも俺達はVIPルームの扉の前に立つ。

 右手を伸ばしてドアを開けて中へと入って行くと、狭い部屋にソファが二つ対面になるように置かれていて、俺達の視界の先に一人の女性が座っている。

 つむっている目をゆっくりと開けて俺達をしっかりと捉え、俺達は部屋の中に入るのでは無く外で一旦彼女の出方を伺う。

 すると綺麗な右手先を俺達に向けて座るようにと促し、代表して俺とケビンが座って彼女と向き合うことにした。

 座り込んで彼女は真っ直ぐに綺麗な水色の瞳を俺達に向け、短く切りそろえられた薄茶色の髪と軍服を着ている彼女はゆっくりと小さな口を開いた。


「初めまして。私はジルと申します。訳あって今はここに居ますが本来であればノックスの副官をしていました。貴方がソラ・ウルベクトですね。貴方がここに来ることを期待していました」

「日本語がお上手ですね。俺達を騙すためにという訳じゃ無いんですね」

「やはりそこを警戒しますよね。大丈夫だと保証は出来ませんが、私は貴方達に一つの情報を提供するためにここで待っていました」


 提供したいという情報がなんなのかと聞いてみると、彼女は一枚の紙切れを俺に向けて差し出し、俺はケビンと一瞬アイコンタクトで合図を送りあい、代表して俺が受け取ることにした。

 中には要塞の隠し通路が描かれており、その場所に行くためには出入り口を開くための鍵が必要らしい。


「その鍵とは私は知りませんが場所だけは知っています。ケネディ宇宙センターの近くに旧財団が管理していた建物があるらしく、そこに鍵を隠しているらしいのです」

「なんでそんな場所に…」

「ノックスは元々軍に入った頃に財団から話しかけられて存在自体は知っていたらしく、利用していたそうです。財団が崩壊後副大統領を利用して財団の復活という建前を振りかざして財団の残党メンバーを集めて今回のクーデターを引き起こしたそうです」

「残党メンバーはニューヨークの事件の時に殺しておいたんだな?」

「ええ。貴方達が初日に崩壊させた組織は財団の残党メンバーでした」


 話を黙って聞いていたケビンが気になった事を尋ねた。


「どうして崩壊させたのですか? 財団の残党メンバーがいればもっとクーデターも上手くいったのではありませんか?」

「クーデター終了後の事を考えての行動だったのでしょう。財団を利用したのは財団が残した財力と研究成果をそのまま利用する気持ちがあったからです。実際ガルーバの協力を取り付けて天竜ジャルトを捕獲してからはもう必要としていませんでした」


 天竜ジャルトを捕まえたのはやはりガルーバだったか、しかし問題はそこまでしてどうしてクーデターにこだわるんだ?

 危険な賭までしてノックスは何故力で手に入れることにこだわるんだ。


「何故ノックスはクーデターにこだわる? 俺にはどうしてもそこが分からない。今ここに生きている人の全てを不幸にしてでもノックスはアメリカという権力を手に入れたいんだ?」

「それは…分かりません。しかし、時折祖父の話を私にして居ました。もしかしたら家庭の事情があるのかもしれません。しかし、ノックスがクーデターに極端にこだわるようになったのはイラク戦争が切っ掛けだと聞きました」


 ジュリ達がイラク戦争という単語を俺に聞いてくるので俺は簡単にイラク戦争の流れを聞かせるが、あいつの親は9.11事件の時にでも死んだのか。

 そう思っているとジルという女性曰くノックスの両親は生きているそうだが、その事件の時にノックスは人が変わったように戦う事にこだわりを見せるようになった。


「聞いた話だとその時に祖父が亡くなったそうですが、イラク戦争にも賛成の立場だったそうですが、その後何故か人が変わったように戦う気持ちに変化が起きたそうです」

「イラク戦争……教科書で書いてある事ぐらいしか知らないんだよな……俺の生まれた直後ぐらいの話しだし…」

「私もあまり詳しく知っている訳じゃ無いですね…」

「それでも決してノックスがこんな事をしていい理由にはなりません。しかし……いいえ私が言えることではありません。一度であれあの人を信じると決めた以上は…皆さんは気をつけてください。ノックスは今貴方達を殺すための策を考えている真っ最中だそうです…」

「あんた…」


 ジルは少しだけ俯いて顔を中々上げてくれないのだが、そもそもどうして彼女はノックスの情報を俺に売り飛ばそうと思ったのだろうか?


「怖くなったわけじゃありません。ただ…あの人を誰かが止め無いと本当の意味でアメリカという国が崩壊します。あの人は自分の行き着く先が崩壊だと分かっていてもそれでもクーデターを起こしたのです」

「なんで…何でなんだ? どうしてそこまでして…」

「それを知って欲しいのです。私ですらも知らないノックスが崩壊させてでもアメリカという国の権力を手に入れたいのか。それは誰にも分からなかった事です」

「崩壊させてでも…権力を手に入れたい理由ですか」

「この情報はそれを知っている人がノックスを殺してでも止めて欲しいという願いからです」


 情報を提供した人物を知りたいと尋ねてみた。


「……ノックスのご両親です。先日電話で相談を受けこうして皆さんをお待ちしていました」

「…両親なら止められるんじゃ無いのか?」

「無理だったそうです。止めるようにと手紙にも書いたそうですか、まるで反応してもらえなかったそうです。ノックスのご両親曰くノックスがそういう思考した原因は祖父が原因だったそうです」

「先ほど聞いた事件で無くなった祖父か…ろくでもない話しか思いつかないな…」

「それ以上は詳しく知りません。私の行動はある程度はノックスに筒抜けです…早めにこの場から逃げた方が良いでしょう」


 ケビンは外に意識を向けると、スロットなどが置かれている場所から喧騒がハッキリと聞こえてきた。

 裏切ったと分かれば彼女は殺されてしまうだろう。

 俺は立ち上がって彼女に手を伸ばすが、彼女は首を横に振る。


「…私は一度であれあの人に使えた身、何よりもここであの人を止めようとすらしなかった。大統領が撃たれたとき副大統領ですら混乱していたのに、ノックスはまるで動揺もして居なかった。怖くなったんです」

「だったらここから逃げて俺達と一緒に…」

「駄目です。私はこれでも愛してしまったんです。一度でも愛してしまえば…最後まで貫き通すしか無い。あの人が私の死を望んでいるのなら私は…」


 彼女を説得するのは俺には無理だと判断し来た道を戻るかどうかで悩むが、彼女はふと立ち上がって別の出入り口のドアを開けてくれた。


「ここから先に真っ直ぐ進めば裏口への道へと出るはずです。勿論そこからも敵が居るとは思いますが、そのまま真っ直ぐ出るのでは無く地下鉄への道へと入って行く階段があるはずです」

「そこから出れば逃げ切れるか?」

「少なくとも問題を起こす前に逃げ切れるはずです。それと…どうやらノックスはその子の事も既に知っている様子。捕獲命令が出ていたはずです」


 アクアのことを指しているのだと直ぐにわかり俺は不安そうにしているアクアを一旦樹里に任せて立ち上がる。

 今すぐにでも入ってきそうになっている黒い服の怪しい人物達から逃げるために指定されたドアから出て行く。

 長い廊下を逃げていると先ほどまでいた部屋が突然爆発して瓦礫で埋められてしまう。


 彼女は俺達に任せたのだろう。


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