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竜達の旅団≪ドラゴンズ・ブリゲード≫~最強の師弟が歩く英雄譚~  作者: 中一明
アメリカン・シービルウォー《下》
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竜達の戯れ 3

 アンヌは目の前でパソコンを無表情で操作している博士を尻目に地べたに座ってアカシの治療をずっと行っている。

 その右隣ではジャンポットが大きな図体をソワソワさせているが、その理由は博士が今現在作っている人工内臓である。

 先ほどの戦闘で分かったのは当初よりジャンポットには内臓を作る予定が無かったと言うこと、それではいくら生命維持装置があっても長くは生きられない。

 だからヒーリングベルが博士に命令して今現在作らせており、ここにいるキメラとなってしまった民間人を元に戻す術を探らなければならないのだ。

 アカシはアンヌの膝枕をされながらも気持ちよさそうに寝そべっており、アンヌはそんなアカシの背中を優しく撫でながら治療を続行する。

 そんなアカシを羨ましそうに見ているのがジャンポット。

 恋愛感情を本当の意味でちゃんと理解出来ているわけじゃ無く、未だに好きとは何かが良くは分かっていないが、アンヌがアカシを膝枕して居るのを見てモヤモヤする気持ちが確かに存在している。

 口から「自分もして欲しい」なんて中々言えないし、それが態度に表れているのだ。


 ソワソワさせて待っていると部屋の中にギルフォードが現れるのだが、アンヌは驚きの声を上げてしまう。

 その声で敵なのではとジャンポットが警戒するが、アンヌがアカシを一旦膝枕から下ろしてギルフォードへと近づいていく。


「その怪我はどうしたのですか?」

「いや……ちょっと厄介な奴と戦ってな。治して貰おうと」

「それは良いですけど……まずは応急処置だけでもまずしましょう。こっちに…ジャンポット。そこにある小さな箱をこっちに」


 ジャンポットは地べたに置かれている小さな箱を持ち上げてゆっくりとアンヌへと近づいていくのだが、その過程でずっとギルフォードを睨むような目で見ており。

 それをギルフォードは鬱陶しそうにしていたが、アンヌが治療を始めたのでそれも止めることに。

 ジャンポットは手持ち無沙汰になってしまい、アンヌを見上げるアカシをそっと持ち上げて抱きしめる。

 なるべく優しく持ち上げてそっと抱きしめるとアカシの温もりがポカポカと伝わってくると、それが生きているという証なのだと分かってしまう。

 心臓が動いていても、血が通っていてもそれは薬によって生かされている命。

 それをほんの少しだけ羨ましいと感じてしまうジャンポット、自分の体に流れているのは真っ赤な血なのだろうか?

 ほんの少しだけ気になったジャンポットは近くに何か無いかとアカシをそっとテーブルの上に置き、近くで見つけたナイフを掴んで自分の腕を切り裂く。

 アンヌが驚きの声を上げて近づいてくる。


「な、何をしているのですか!?」

「…ち。血は赤いのかと……俺の血だけ青いのではと……」

「………真っ赤な血ですよ。だから…止めてくださいね? こんなこと」

「ゴメンナサイ。構って欲しかった」


 ギルフォードは治療を中断している両足をぶらつかせ、アンヌとジャンポットの関係がなんとなく分かってため息を吐き出す。

 まだ付き合うという段階まで言っていないが、それでもお互いが思い合っているのだけは分かるのだが、正直な気持ちを言えば「早く治療して欲しい」だったりする。

 アカシはゆっくりと目を開けてゆっくりと飛んで行くとジャンポットの胸元へと近づいていく。


「暖かかった。もう少しここが良い」

「い、良いのか? 俺のような存在でも…」

「? 良いけど? 何で駄目なの?」


 アカシはジャンポットの胸元で暖かいと言いながら再び眠りにつく。

 寒いからこそ暖かい場所でゆっくりしたいという気持ち、その居場所としてジャンポットを選んだ。


「なあ……治療を再開して欲しいんだけど…」



 ブライトが俺の服の中で暖かくなるために入り込んで来て、エアロード達も暖炉代わりになっているBBQセットの周りへと自然と集まるのだが、要塞の上空をヘリが飛び回るのがハッキリと感じ取れた。

 一旦立ち上がり真上を見上げてヘリの動向を確認しつつ警戒していると、ヘリは黙って現場から居なくなっていく。

 ホッと息を漏らすがヘリが消えていく方向からして偵察に来たのは間違い無くノックスたちだろう。

 要塞の外壁も超電磁砲の威力で半壊しており、要塞内も俺の戦闘などで滅茶苦茶…正直この街が元通りになるには一体どれだけの時間が掛かるか分からない。


「住民のことと良い…半壊した街並みと良い……この街が本当の意味で完全に復活する日は来るのかね」

「元通りは無理かもしれんな。これだけ壊れると…何よりもキメラとなった住民達が例え元通りになったとして心から完全に元通りになるわけじゃ無い」


 師匠の言うとおりでノックス達がしたことが、この街に生きる人達に傷を与えたのは間違いの無い真実で、それが本当の意味で癒やされることはきっと無い。

 心の傷はある意味永遠で、一生掛けて向き合わなくてはいけないもの。

 それ故にそれを自覚できるかどうかでその人の本質が多少見えるのだ。

 殺すこと傷つけることに躊躇いを、罵倒の言葉を投げかけることに制止できるかどうか、何よりもそんな事をして責任を取ろうと思わないのか。


 結局の所で皆がノックスに怒っているのはそういう所なのかもしれない。


 自分の目的のために他者を犠牲にし、それに正当性を求める。

 傷つける事は例えどんな理由を持ち出したとしても、どんな理由があったとしても絶対に許されないことで、それ故に俺達力を持つ者は責任を背負う必要があるのだ。


「エアロード達は力を持つことに責任を持ってる?」


 つい口から出てきた言葉に全員が一旦思考する辺りなんだかんだ真面目である。

 しかし、エアロードは真っ先に首を横に振るが、それに同調するのがダルサロッサ。


「どうでしょうね……傷つけようと思っているわけでもないので責任云々と言われてもあまり考えませんね。人間が争いすぎているだけだと思いますよ」

「そうだな。ヒーリングベルの言うとおりだ。人間は少々争いというモノを軽視して居る節があるな。極端なのだ」


 シャドウバイヤの言葉に俺は反論できないでいた。

 人間は争いという状況へとアッサリと持って行ってしまう節があるが、しかし、それが人間の本質とは全く思わない。


「まあ、世の中には会話が成立しない生命体も居るでしょうし、最悪争いというのも仕方が無いのかもしれませんね」


 ブライトが首をかしげながらヒーリングベルの言葉にイマイチピンときていないという仕草を見せる。

 言いたいことは分かる。


「会話が成立したとして、考えがお互いに通用するわけじゃ無いと言うことだな。あくまでも何処まで行っても他人は他人、自分の意見を他人に押しつけるわけにも行かない。それこそやっちゃいけないことだろ? ブライトだって嫌いな食べ物を強要されたら良い気分はしないだろ?」

「うん。嫌だ…!」

「そういうことさ。その環境で生きてきた者にはその生きてきた環境でのルールがある。その環境にやって来た以上はそのルールに則って生きる必要がある。本当に必要なのは寛容な心と万物を受け入れる広い感性なのかもしれないな」


 まあ…それこそ神のみぞ持っている物だとは思うけど。

 受け入れられない物は受け入れられない。


「線引きは必要ですよ。他人は他人…自分は自分です。そこに明確な線引きをして一線を引いて生活できるか、それが出来ないと判断してしまえば争うしかないのです。その争いに明確な理由付けを求めるのですよ…責任を取りたくないから。だから人間は簡単に口にするのです……正義という言葉をね」


 正義…それは人間が求める都合の良い言葉なのかもしれない。


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