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竜達の旅団≪ドラゴンズ・ブリゲード≫~最強の師弟が歩く英雄譚~  作者: 中一明
シーサイド・ファイヤー《下》
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影なる者 5

 イリーナと美術館へと入る為に俺は受付にあるチケット販売機まで財布を持って歩いていく。

 あらかじめ父さんからこの国の硬貨を大量にもらっているためこういう時は困らない。

 まあ父さんが札束を取り出した瞬間は流石に説教したけど、それでも数日だったら遊べる額を貰っている。

 札を入れて大人二人分を購入する。

 というか、高校生の欄が存在しないのは如何だろうか?


「そんなに高校生からお金を搾り取るのか?中学生まであるのにどうして高校生だけを外す!?」

「高校生は大人だからっていう風潮だかららしいですよ。この海洋同盟だけですが……」

「高校生だってまだ子供だろ!どうして無理矢理大人扱いする」

「そういう考えだったらソラさんはそもそも保護者同伴で行動する事になるのでは?」

「………うん!高校生は大人だったな」


 俺は大人を二枚分購入しイリーナに片方を渡し、イリーナはチケットを見ながら今更な事を言い始める。


「あの……私は中学生扱いになるのでは?」

「!? どうして今更言うんだ!購入する前に言ってくれれば」

「だって……ソラさんが一人で文句を言っていて言いにくかったから」


 まあ購入してしまったのは仕方ない。

 それに文句を言って割引させてもらおうと思うほどけち臭いわけでも無いし、これ位ぐらいは出費だと思う事にする。

 二人でチケットを片手に美術館の中へと入っていき、証明が落ちているようにも見え、まず真ん前にあらわれる太陽の英雄を象った銅像をしたから眺める。


「自己顕示欲の塊のような銅像だよな。英雄になった際に作ったんならだけど」

「英雄になって翌年に作られたってここに書いてありますよ」

「自己顕示欲の塊だったか………俺は絶対にそうならないぞ」

「え?でもガイノス帝国の一部上昇部はソラさんの銅像を造ろうとしているって聞きましたけど?」

「今聞いておいてよかったよ。おかげで阻止することが出来る」


 なんて恐ろしい計画だろうか、何が恐ろしいかというと本人に後日報告に上がろうという意図が見えてしまうあたりが一番恐ろしい。

 帝都に帰ったら直ぐにでも計画を阻止しなければならないだろう。


「しかし、こんな銅像をたてられたら俺だったら逃げるな」

「そんなことを言って……実際見たら半分は嬉しかったりしませんか?」

「しない!断じてしない!俺の目の前にあらわれたら粉々にしてしまうところだ」


 俺の使命とだけ言っておこう。

 俺達は進路順に進んで行くと次は初代首相の銅像が待ち構えていた。


「自己顕示欲の塊」

「そうですね………なんか私もそんな気がしてきました」


 二人で見なかった振りをして一緒に次々にあらわれる像ラッシュを乗り越え、今度は絵画フロアへと足を踏み入れる。

 海洋同盟だけじゃなく、ガイノス帝国でも見たことのある絵画が並んでいるのだが、その中に『モナリザ』っぽい絵が置かれており俺達はその前で足を止める。


「モナリザ……でしょうか?」

「っぽい絵じゃないのか?だってあの絵はルーブル美術館に展示………あ!」


 二人でどうしても思い至った状況を思いついた。

 五月下旬の事、西暦世界は壊滅的なダメージを受けてしまい、結果から見れば各国の首都クラスの都市は崩壊したと聞いた。

 ルーブル美術館が崩壊したかどうかなんて知りはしないが、一時的に保管場所を他に移していてもおかしくはない。

 その上今この国には西暦世界の首脳陣も集まっているため、一時的に展示をしているのかもしれない。


「俺モナリザって初めて見たよ」

「私もです。見たこと無いので………モナリザの微笑みって有名ですよね」

「そうだな。俺でも聞いたことあるし、でも………こうしてみるとなんというか感想が出てこないな」


 一か所にとどまり続けるのは流石にまずいだろうという事で次へと移動する。

 絵画フロアから更に移動した先に太陽の英雄譚に関する資料フロアへと辿り着いた。


「やっとか………ここに来るのに結構時間が掛かってしまったな。昼の段階で直ぐに見て回ってしまいたいんだが」

「大丈夫ですよ、現時刻はまだ九時ですから」

「ならいいんだけどな。っていうかどうやって分かったんだ?」

「このフロアに入る前の壁にかけてありましたよ」


 見ていなかった。

 太陽の英雄譚の石碑が真ん前に鎮座しており、その大きさから俺達は完全に見上げる立場になっている。

 今までの石碑の中でも一番の大きさに見える。


 その石碑の前にボサボサの茶髪、三白眼で睨みつけるような目をしており、アロハシャツなんて珍しい服を着ている。


「珍しいと思いませんか?」


 男性が俺達に話しかけているのかどうかを一瞬だけ悩んでしまい、俺は一瞬だけイリーナ方を向く。

 イリーナは首を傾げるだけ。


「これだけの石碑をいくつも用意させ、その上チラホラと違う箇所がある」

「まあ珍しいとは思いますけどね……」

「そうだろ。統一感を持たせた方が良いだろうに」


 こっちの方を振り向く男性の目つきにイリーナが俺の後ろに隠れてしまう。


「おい。そろそろ次に行くぞ。もういいだろ?」

「そうだねボルノ………今行こうと思っていた所だよ」


 ボルノと呼ばれた蒼いショートヘアーの男性、クールという言葉が顔立ちにあらわれているようで、実際見ているだけでこっちが寒くなっていく。


「では………我々はこの辺で」


 そう言いながら石碑前を開けて立ち去っていく二人の男性、正直言っておかしな組み合わせだとは思う。


「ソラさん。最初の男性ですけど………多分アメリカ人ですよ。喋っていた言葉に英語に近い訛りがありました。多分私同様ここ最近ガイノス語を学んだ痕跡でした」

「アメリカ人………まさか!?」


 俺は駆け出していき二人の後を追いかけようと曲がり角を曲がるが、長い廊下の先にあの二人はいなかった。

 アメリカ政府に追われているという男を咄嗟に思い出した……長い廊下の先に本来ならいるはずの男二人組を思い浮かべていた。


「ソラさん………何かありました?」

「良いんだ。それより太陽の英雄をちゃんと見ておきたい」


 俺は先ほどの石碑まで戻っていき石碑に描かれている絵には魔王は女性として描かれている。

 十六の太陽という話は間違いないみたいだし……やっぱり気になるのは魔王の存在だな。

 英雄はこれだけ同一に描かれているのに魔王だけは統一性が無い。


「やっぱり魔王だけは気になるな……」

「でも関係ないじゃないですか。今は太陽の英雄譚を知るんじゃないんですか?」

「そうなんだけど………漣の槍の現物があると良いんだけど……」

「向こうに行ってみませんか?」


 石碑から先ほどの長い廊下までたどり着き、廊下の中に様々な品物が並んでおり、その中には俺が見たあの手鏡のレプリカも並んでいる。


「先輩これって漣の槍のレプリカって書いてありますよ」


『漣の槍。かつて太陽の英雄が魔王を封印する際に使用したとされる槍。槍そのものに封印術が施されているのではと言われている』


 しかし、俺が見たあの写真に描かれていた槍とは少しデザインが違うところがありどうしても気になってしまう。


 永遠を手に入れようとした魔王、結局の所で魔王は永遠を手に入れたのだろうか?

 どうしてそこまでして永遠を手に入れたかったのか俺には到底理解できなかった。


「どうして永遠を手に入れたいと思うんだろうな?」

「人間の一生は短いからじゃないですか?一生のうちに出来る事って限られていますから」

「だから楽しいんじゃない?永遠なんてつまらないだけだよ」

「ソラ先輩らしいですね」


 永遠を手に入れたい魔王と、永遠なんていらないと断じる英雄。

 この問いに正解なんて存在しなかった。


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