超電磁砲を攻略せよ 4
ジュリはタブレットを片手にアンヌ歓談をしながら階段を上っていき、ジュリはレクトアイムの精神状態が比較的回復の方向へと向かっているとわかり安堵の息を漏らす。
アンヌはアンヌでジュリからグリフォン達の治療の目処が付いたと聞かされて同じく安堵の息を漏らし、二人でソラの部屋の前を通りかかった時、中からレクターの悲鳴に近い声を聞いて部屋のドアに手をかけるジュリ。
ドアノブはあっさりと回り、ジュリとアンヌはゆっくりとドアを開けてみると、半裸でロープでグルグルに拘束されているレクターと、拘束しているソラという謎の構図。
それを楽しげに見ている竜達とグリフォン、ドン引きのアンヌと「あらあら」と比較的慣れているジュリ。
「ど、どうして慣れているんですか?」
「この二人と一緒に行動しているとそのうち慣れますよ。どうせレクターがソラ君を怒らせるような事をしたんだと思いますよ」
竜達は声をそろえて「大正解」と答えてくれるのだが、アンヌとしてはまるで納得できない状況。
詳しく聞きたいと何が起きたのかとソラに聞くと、さも当然のように答えてくれた。
「レクターがシャワー室から出てきたら体中ずぶ濡れではしゃぎ回るからロープで拘束してバスタオルを活用して乾かした所だ。暴れ回ったら面倒だから更にロープで拘束しようかと」
「もう暴れないから解いて!」
「信用成らないに決っているだろ。お前にどれだけの前科があると思っているんだ?」
「沢山! 数え切れないほどに!」
「分かっているじゃ無いか! 外に旅行に出かければ旅行先のトラブルを持ってくる! 練習中に訓練用の施設を破壊して逃げるし…」
「だって! だって!」
本能のままに生きているお前と一緒に過して早三年だとソラから聞かされて、そんな出来事を三年も繰り返したと思うと涙が止まらないアンヌ。
ジュリは比較的慣れたという顔をしながら部屋の中へと入っていく。
「グリフォンが居なくなったと思ったらこんな場所に…」
「気がついたら俺の後を付いてきていて……治療の為に部屋にいなくちゃいけないのなら連れて行くか?」
「大丈夫だよ。グリフォンはそこまで重症じゃ無いし…それと…実は他にもいくつかキメラ達が見つかって…嵐が続いていたから隠れていたんだと思うんだけど…それも先ほど保護してって話が」
「……飼い主や生きていける場所が見つかると良いですけど…私たち人間の身勝手な考えで生み出されて好き放題されて死ぬなんて…」
アンヌの憂いに思うところが無いわけじゃ無いソラ達、自然のままに生み出された訳でもなく、何か理由があって生み出されたわけじゃ無い。
人間のしょうもない理由で生み出されて、必要ないのならそのまま捨てられる実験体としての命。
それを救いたいという事もソラからすれば身勝手な願いなのかもしれないと思うのだが、同時にその身勝手さを持って命を救えるのも人間の良いところなのだと思っていた。
「その身勝手さで命だって救えるんだから意外と身勝手さだって悪くないと思わないか?」
「え? どういう意味ですか?」
「だからさ…人を救いたいという気持ちや、この人に生きて欲しいという願いもまた身勝手なものだ。だってその人が本当にそう願っているのかなんて分からないだろ? それでも手を差しのばして助けられるのも身勝手な考え故だ」
救いたい、命を助けたい、見知らぬ人間に手を伸ばしその人を助ける事も…死んでいく命を哀れむことでも人の持つ身勝手さ故。
ソラの説く言葉を身をもって知っているアンヌ、多くの人を救う聖女という役割を持って生きてきて、その反面人々を滅ぼす禍根という忌名も持つアンヌ。
その両側面に共通しているのは人間の身勝手さ。
研究都市の人間達は神という魔導兵器を作るためにアンヌという存在を作り出し、結果彼女は破壊と再生という両側面を手に入れた。
でも、その両側面を超えたモノをくれたのはたった一人の親友だった。
「付き合いは時間じゃ無いし…時間を超えた付き合いこそが本当に人間の本質じゃ無いかな? だって…こうして竜と人間が一緒にいてさ…身勝手な人間の考えて生み出されたグリフォンがここで楽しそうにしている。これだって決して時間を積み重ねた訳じゃ無い。短い時間だからこそ出来ることだってあるさ。時間を気にするなよ…身勝手なことを気にするな。それを埋めることが出来るのは時間や身勝手さを超えた絆だ」
ソラの言葉にアンヌは心の中で「勝てないな…」と思ってしまう。
ソラが人を引きつける魅力の一つだと思う一方で、そんなソラが慕っていたガーランドとちゃんと話してみたかったと思ってしまう。
「全部が終わったらちゃんとお墓参りさせてくださいね」
ソラはその言葉の意味を最初は計りかね唖然としていたが、その言葉の意味を知って微かに微笑みながら「勿論」と答えた。
ジュリはそんな二人を見ながら自分の影を見つめる。
影の何居る死竜は何を思うのだろうか?
「で? 二人は何か話があって部屋に入ってきたんじゃ無いのか? 報告とか」
「そうだ! 作戦はどうなっているの?」
「そ、それが…かなり難航しているみたいで、正直次の発射までに破壊するのは不可能に近いんじゃ無いかって…」
アンヌの言葉に合わせてジュリがタブレットを操作し始め、タブレットの画面に超電磁砲の威力の簡単な計算方法と交換作業のおおよその時刻が書かれている。
「予想としては二十四時間が交換に掛かる時間で、現在一時間も経過していないのですが、それでもあと二十三時間後には次の発射が来ると予想しています」
「父さん達が作戦を立てているさなかなら俺達が何か出来ることはなさそうだけど、いざとなったら俺達だけでも破壊するために動くべきだな」
ソラ達だけでも動くという想いと同時に次に発射されれば防ぐにはまたソラの力を借りるしか無い。
しかし、あんな防ぎ方が何度も何度も出来るとアンヌとジュリも思っていない。
かと言って守護竜であるアカシはまだ幼く防ぐには適していないし、他の竜では防ぐにも威力が高すぎてまるで話にならない。
「海はどうしたんだ?」
「休憩室で寝ているそうですよ。ソラも寝たらどうですか?」
「と言われてもな……今寝たら当分起きれそうに無いんだよな…」
グリフォンがソラの頬に向かって頬ずりし始め、ブライトはそんなグリフォンの背中で楽しそうにしている。
正直に言えばここに居る全員は直ぐにでも寝るべきだろうし…何よりもソラは自分の部屋から竜達に出て行って欲しいと思っていた。
何故彼らはここを根城にするのか?
ソラの部屋に完全に居着く竜達、ある者はベットの上でくつろいでおり、ある者はスマフォを操作して暇つぶしをしており、ある者は完全に寝ている。
「どうして皆さんここに集まっているんですか?」
アンヌの疑問に全員は「なんとなく?」と答えてくれるのだが、ソラは全く納得して居ない。
すると地面に寝っ転がっているレクターが見上げながら提案する。
「だったら飯食って寝ない? まずは夕食でしょ! その後仮眠を取る。とりあえず明日の夕方までは大丈夫なんだし…何か非常事態があったら起こしに来るでしょ」
レクターの体勢を見ながらジュリとアンヌがそっと距離を取り、ソラが見下ろしながらその提案に考え込む。
体を常に動かし続けていた彼らも皆お腹が減っていることに違いは無い。
良い提案だと皆が出て行く中、レクターは叫んだ。
「このロープを解いて! 俺もお腹減っているのに! 何のいじめなの!?」
ソラが戻ってくるのに時間が掛かってしまうレクターだった。




