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竜達の旅団≪ドラゴンズ・ブリゲード≫~最強の師弟が歩く英雄譚~  作者: 中一明
シーサイド・ファイヤー《下》
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影なる者 3

 イリーナとモノレールに乗る事になった切っ掛けは、彼女が俺の妹である奈美を捜していたのだが、俺が奈美の居場所を知らないからだ。

 俺が「奈美の居場所は知らない」とだけ告げるとイリーナは「そうですか」と若干落ち込み気味で、俺は「良かったら俺の仕事を手伝ってくれないか?」とだけ頼み込んだ。


 勿論俺としてはイリーナを俺の仕事にとは思ったが、見た所イリーナは一人で行動しており、服装も周囲に溶け込む為にと少々地味な服を選んでいる。

 綺麗な金髪も帽子に隠れており、サングラスで目元も隠している。

 着込んでいる服もスカートではなく短パンであり、上には地味なデザインのTシャツとチェック柄の半そでの上着のみ。


「良くあの大男がイリーナの単独行動を許したな」


 たしかあのヴァースという男は少々過保護な気がしたし、そういえばヒーリングベルも居ないみたいだし。

 なんて思っていたが、イリーナは舌だけを出して可愛らしい表情をしながら恐ろしい一言を出した。


「本当はパーティーに参加するようにって言われていたんですけど、ヒーリングベルに頼んで呪術をかけて抜け出しました」

「君は恐ろしい事を考えるな。まあ、そこまでして出てきたのに奈美に会えなくて残念だったな」

「そうですね。私急いで出てきたから携帯も置いてきちゃったし」


 彼女は胸ポケットやズボンのポケットを探る仕草を見せる。

 そういえば鞄だって持っていないし、下手をすると財布も持っていないのではないのか?


「財布はどうしたんだ?」

「最低限はありますよ。と言ってもモノレールで数駅分ぐらいですけど」

「よくそれで奈美を探し出そうと思ったな。行き当たりばったりにもほどがあるだろ」


 イリーナは気まずそうに顔を背けるが、残念ながら顔を背けた所で現実はまるで変わらない。


「携帯も持ってない、お金も足りない、よくそれで出てこれたな。どれだけ必死だったんだ?」

「だって……ヴァースったら呪術にかかっているはずなのに嫌に勘が良いから」


 必死なんだな。

 好きな女が勝手に出ていこうとしているのが、それを野生の勘で回避しようとしているという。なんと恐ろしい話である。


「それでモノレールでどこに向かうんですか?行き先は?」

「取り敢えず第十六島に向かおうかと、そこからドラファルト島を見ることが出来るらしいしな」


 まずはドラファルト島を見ようと決めたのはやはりジェノバ博士の言葉がどうしても頭に残っていたからだ。

 一年以上前に起きたドラファルト島の悲劇。

 その悲劇を知る事、そして魔王の伝説と太陽の英雄譚を知る事から始める。


「そういえば太陽の英雄譚ってこの海洋同盟で聞いたことあるか?」


 駅のホーム前で一旦足を止めてイリーナに語り掛ける。


「ありますよ。でもそれを見るならモノレールに乗らない方が良いかも………丁度モノレール乗り場前の広場から歩いて五分の距離に太陽の英雄譚を描いた壁画があるんですよ」


 そう言われて案内された壁画。

 十六の太陽に囲まれた少年と、少年と対峙する魔王と思われる黒い人影。


『千年前。十六の大きな島々とそれ以外の孤島郡ではそれぞれの遥か昔から嵐に見舞われてきた。

 人々は海竜に願いこの地の平穏と引き換えに海竜に供え物を捧げるようになった。

 大陸では魔王と名乗る者が人と竜を騙して回っており、多くの『魔導』と『呪術』を奪っていた。

 いずれ魔王はあらゆる異能をその身に宿す異形のモノとなり、それでもなおかの魔王は高みを目指していた。

 海竜と光竜。

 二人の竜は一人の少年に『漣の槍』と『太陽の力』を与えかの魔王を封印する力を与えた。

 魔王十六の太陽の力と漣の槍により封印される。

 これ太陽の英雄譚なり』


 そう描かれた壁画。

 俺には気になる点が二つ。

 壁画に描かれている絵の魔王は男性とも女性ともとれる複雑な絵である事、もう一つが魔王を指す一人称に『男性』でもなく『女性』でもなく『者』という性別不明で描かれている点だ。


「この壁画はここでしか見れないのか?」

「いいえ、各島に一つずつあったはずですけど、でも各島ごとにデザインが少し違うって聞きましたよ。でも共通なのは太陽の英雄は『少年』って書いてある点ですかね」

「じゃあ、魔王は性別不明って事か?」

「そうですね。中には女性とか男性とか描かれ方は不明です。確か十六島は女性だったはずですよ」


 やはり性別がはっきりしていないのか、まあ魔王云々より俺は太陽の鏡の力に興味があっただけだし……魔王については置いておこうか。


「まあ魔王については置いておこうか………先に十六島に向かうべきか、太陽の英雄の参考資料を探るべきかで悩むな」

「ソラさん。確か反政府組織を倒すために来たんですよね?」

「反政府組織を追うにもどこにいるのかも、どう追えばいいのかも分からない様な人間負いようも無いよ。それにイリーナを勝手に連れまわすのも……って思うしな」


 俺がシニカルに笑って見せるとイリーナは何故か顔を真っ赤に染め上げ、俺の方から体ごと背を向けてしまう。

 俺が「どうかした?」と聞いてもイリーナは小声で「なんでもないです」とだけ言って何も言わない。何やら声が震えているような気もするし………。


「じゃ、じゃあソラさんは今から大将の英雄譚を捜すんですか?」

「そうなるな。かといって一つ一つの島を巡って太陽の英雄譚を見て回っていたら日が暮れるどころか何日掛かるのか分からないしなぁ……」

「だったら第三島にある美術館に行きませんか?そこの美術館には太陽の英雄に関する資料があるって昨日聞いたんです。本当は奈美ちゃんと一緒に行けば楽しいかなって」

「助かるよ。イリーナが一緒にいてくれて助かった」


 俺は無意識にイリーナの頭を優しく撫でてやると、イリーナの顔がそれこそ真っ赤な凧のように赤く染め上げられる。


「も、もう!どうしてそんな風なことが出来るんですか!?」

「ええ!? なんで俺が怒られてるんだ?」


 ただ頭を撫でただけなのに………それ以外の事は何もしていないのに………どうして?

 俺を置いてモノレール乗り場まで移動しようとするイリーナの後ろを必死で追いかける。

 何故怒っているのか俺にはどうしても理解できなかった。



 各島ごとに名前があったそうだが、今ではすっかり失われてしまったそうだ。実際モノレール乗り場から降りるためのエスカレーターには『ようこそ第三島へ』と書かれている。


「この第三島は歴史の街とも言われていてこの海洋同盟の歴史が描かれているらしいですよ」

「へぇ…でも街並みはあまり変化が無いような気がするな」


 しいて言うならビルではなく少し古い感じの色とりどりの壁と屋根の高い建物が続いている。

 取り敢えず第三島に降りると左右に伸びる海岸線沿いの道に出た。


「で?美術館はどの辺に行けばいいんだ?」

「確か第一島に近い場所にあると聞きましたから多分右の道を進んだ先ですね」


 どうやらイリーナは機嫌を直してくれたらしいのでそれで良しにするとして、俺達は二人で右側の道へと進んで行く。

 結構車が通っており、街並みもどちらかと言えばヨーロッパに近い感じだろうか?


「ヨーロッパってこんな感じの街並みだってイメージあるけどな」

「ああそうかもしれませんね。私言ったこと無いですけどソラさんは行った事は?」

「俺も無い。というより『袴着家』は別段旅行をするような家柄じゃないしな。海外旅行どころか国内旅行だってまともに出かけたこと無いよ」


 俺とイリーナは歩いて三十分の所にある美術館へと歩き出した。


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