反撃の時 6
地下全三階という低さだが、その分横の広さがあるらしく再びアンヌ達の目の前に現れたのは真っ直ぐな廊下。
ここを進んでいきながら左右の壁をジッと眺めるアカシ、海もその壁を見ながらそっと触れると指先に埃がたまるのが分かった。
溜まり具合を考えてもこの施設そのものはずっと手が入っていないことが良く分かる。
しかし、装置の設置状況などを考えてもここ数ヶ月は人の手が入っていなければならないという計算にある。
地下一階には人の手が入った痕跡がないと判断し、施設そのものに開かない扉や様々な物資を運んだ昔の痕跡だけが残っていると考え、ジュリが通信機越しに導き出した結論はここは昔戦時中にでも使われていた何らかの実験施設ではという話だった。
『こんな山の中を飛行機で行き来するとは思えませんから、多分地下三階にでも線路が走っているか、地下を歩いて行けるような場所があるんだと思いますよ』
「こんな人の付かない場所だからこその実験ですか…これも皆さんが言っていたエプスタイン財団とやらが関わっているのでしょうか?」
アンヌ自身も聞いたアメリカの闇と一身に担い続けてきた財団、それがここで何かの実験をして居てもおかしくないが、建物の建築レベルから考えても第二次という古さはないと海は思った。
第二次世界大戦時代ならこんな設備ができるとは思えないから、そこまでの極端な古さはないとすればここ二十か三十年内に起きた戦争時に使われた施設だと判断した。
「二、三十年内に作られた建物ですね。さっきの広い場所と良い何かの実験用の施設というよりは何か物資を隠していたんじゃないでしょうか? 核廃棄物とか…」
海の言葉を聞きながら扉を開けるレクターだったが、ドア自体が錆びているのか動かすのも一苦労で、なんとか開いてみると中には大小様々な鉄製のコンテナが山積みになっていた。
海の予測通りここは何かを隠していた場所であると判断できた。
「このコンテナって開けない方が良いの?」
「良いんじゃないですか? やめておいた方が良いと思いますけど。警報でも鳴ってまた乱戦になったら面倒ですし…」
「そうですね。ここは黙って下に降りた方が良いかもしれません。この部屋の角に下に降りる為の貨物用のエレベーターがあるみたいですし」
アカシが「あそこ!」と指さす方向に大きなコンテナを運ぶためのエレベーターがあることに気がつき、全員で移動してみるのだが案の定電源が入っていないことに気がつき、まずは電力を回すことを優先に考える事に。
『電力自体はこの部屋にも来ていますから、単純にエレベーターの方まで行っていないだけだと思います。この部屋に出入り口以外にドアがありませんか?』
ジュリに言われたとおり壁際を歩いて移動してみると、片手で開くタイプのドアを発見し中に入ってみると様々な装置がピコピコと動いている。
中に入っていく三人だが全部英語で書かれていた瞬時に把握するのは少しばかり難しかったが、海が翻訳して機材を動かし始めると部屋中が明るく照らされ、様々な機材が動き始める。
「多分ですけどこれで上手くいったと思いますよ」
「流石だな。レクターはどうして来たんだ?」
「シャドウバイヤが酷いことを言う!? 戦力だよ!」
「なら外にいれば良いのにな。私は索敵班、アカシは防衛要員、アンヌは侵入班のリーダー、海はいざとなったときに装置を動かすことが出来る…お前はどうして来たんだ?」
「だから戦闘要員だって!」
「ソラでも良いだろうに…お前が外で暴れていた方が為になるだろう…」
「シャドウバイヤの暴言が止まない! 誰か止めて!」
アンヌと海とアカシは黙ってその場から去って行き、全員から無視されたレクターは少し心が傷つきながらも歩き出す。
海がエレベーターを動かしてみると、下の方からエレベーターが上がってくる音が聞こえてきたのだが、シャドウバイヤの表情が少し曇る。
「エレベーターに何か乗っている。生き物じゃないが…これは機械か?」
全員がエレベーターから一旦距離を置き、物陰からエレベーターが上がってくるのを待っているとエレベーターに人型サイズのコンテナが入っているだけだと安心して全員でエレベーターへと入っていく。
海がボタンを押してエレベーターで三階へと降りていくのだが、アカシとアンヌが人型サイズのコンテナに興味を抱いていた。
「何でしょう…これ?」
「何かな? 何かな? 何か入っているのかな?」
アカシが今にでも中を開けようとしようとするのをシャドウバイヤが静止し、レクターがコンテナを弄り始めるのに気がつけなかった。
すると、レクターがコンテナの装置を動かしてしまい扉がゆっくりと開いていくがわかり、全員が一旦距離を取ると中から小さな小箱が現れる。
アカシやレクターが拍子抜けした顔をし、アンヌが代表してその中からその小さな小箱を取り出して小箱を開けてみると、中から小さなルビーのような宝石が付いたリングが姿を現した。
「誰かのプレゼント…ならこんなコンテナに入れてこんな場所まで持ってきませんよね? なら…」
「ああ。この宝石に見えるリングは何か危険な物な可能性があると言うことだ…しまっていた方が良い…? 上から何か来る!?」
機械が近づいてくる音が確かに聞こえてきて、それが真上からやって来ているのだと思って身構えているとエレベーターが大きく揺れる。
全員が何かにしがみ付き、驚いていると側面の壁が大きくへしゃげて穴が開き、その穴からかぎ爪のような鋭い『何か』が顔を覗かせた。
それも片方に三つで左右で合計六個存在し、全員が戦闘態勢を整えると、エレベーターの出入り口から機械のアイカメラがジッと全員を捕らえるのだが、その中でもアンヌが持っていたリングをターゲットにしている。
「この施設の迎撃システムでしょうか? それとも全く関係ない…」
『いいえ。恐らくですが迎撃システム。それもコンテナが開閉されたと判断された場合起動するようになっているんだと思います。レクター君がコンテナを開けたからやって来たと判断出来ます』
全員の非難の目がレクターへと向き、レクターがその目から全力で逃げる。
その目が真っ赤に光り、エレベーターが二階を通り過ぎたところで真っ赤なレーザーを照射するとアンヌはしゃがみ込み、アカシは必死でシールドを作るのだが、そのシールドで屈折したレーザーはエレベーターの外壁をいとも容易く破壊していく。
アカシの悲鳴に似た声が響き、アンヌはそのレーザーを熱線攻撃を押し返していく。
ぶつかり合うレーザーとレーザーが火花を散らすのだが、エレベーターを掴んでいる機械は大きくエレベーターを揺らすことでアンヌのレーザー攻撃を妨害する。
何度も揺れるためにスタートダッシュが未だ出来ない海、レクターは握りこぶしを作って天井目掛けて右拳を打ち付けて打撃攻撃を繰り出すが、予想以上の堅さを誇る機械に邪魔される。
『この機械の装甲強度を考えてみても恐らくですがこの機械が搬入されたのはここ最近の事で、その目的はそのリングだと思います。と考えればこのリングは『呪術』か『魔導』で作られた物である可能性があります』
「渡さない方が良いと言うことでしょうか?」
アンヌはリングをポケットの中へと入れ、改めて敵の攻撃を防ごうとしたのだが、エレベーターが大きく揺れると一気に落下していく。
何が起きているのかまるで分からないまま機械と共にアンヌ達は三階へと落ちていき、大きな衝撃音と共にエレベーターは三階へと到着した。




