反撃の時 4
ウルベクト家御用達の飛空挺の前に立ち尽くすとブライトが気になっていたことを尋ねてきた。
と言うのもこの飛空挺には名前がないのかと言うことである。
残念な事に無いと答えるとブライトとアカシが「可哀想だ」と訴えてきたのだが、と言われてもこの飛空挺に名前を付けるなんて面倒極まりないと訴えるとブライトとアカシが話合い始めた。
すると今度はスマフォを弄るのを止めたエアロードが話に入っていくので俺が首を掴んで引っ込ませ、シャドウバイヤやヒーリングベルなど現状集まっている竜(レクトアイム以外)が話合い始め、エアロードが目で訴えてきたので離してやる。
竜達が集まって話し合う姿を遠目に見ながら俺は結局の所でギルフォードとダルサロッサの交渉はどうなったのかとギルフォードに聞いてみると、どうやら頑固断ったらしい。
それでダルサロッサが残念そうにしているのか、因みにブライトとアカシは帰ったら購入すると約束しているのでそれを聞けば再び『スマフォ欲』が再発することだけは防げないだろう。
まあ、俺には関係の無い話だが。
そう言えば気になっていたことを竜達に聞くため、俺達人間側のメンバーが集まった段階で聞いてみることにした。
因みにアンヌの付き人のガルスはアンヌを俺達に任せて父さん達の手伝いをすると言って離れていった。
「天竜ジャルトってどんな竜なんだ? 会った事が無いんだけど…」
ブライトとアカシ以外が表情を曇らせ、物凄く話をしたくないと顔を歪ませているのは一体何故なのだろう。
すると、エアロードが代表して話し始める。
「何というか…こういう機会が無ければ絶対に助けに生きたくない奴というか…助けられたことに感謝を絶対にしない奴というか…もう勝手に野垂れ死ねば良いのにと思うだけというか…生きているだけで面倒ごとを持ってくる奴というか…」
一体どんな竜なのだろうと逆に気になるのだが、一体どの辺に生息しているのかと聞いてみると『オゾン層』に生息し、オゾン層の修復能力を持っている反面、辺り一帯の天候を操る術を持っているのだそうだ。
その代わり基本的に天竜以外が生きることが出来ないような強烈な嵐を発しており、普通に生活している分では関わる事が絶対に無い竜なのだそうだ。
その天竜は基本的に人間だけでなく竜達の生息にも関わろうとせず、時折天竜ジャルトのテリトリーに入ると襲われることがあるのだとか。
そんな竜をどうやってアメリカは捕まえたのかと不思議になったが、竜達曰く別に難しくないらしい。
天竜は一定の周回ルートがあり、この世界でもそれは変わらないのだそうだ。
だからアメリカの領空に入った時点で罠を張っていれば自然と捕まえること自体は出来る。
要するに備えの問題なのだそうだ。
「要するに近づいていけば襲われると分かっていれば捕まえること自体は難しくないって事か…」
「その通りです。それにたとえ助けたとしても天竜ジャルトが命に感謝する事は絶対にありません。星の空を巡る存在。それが天竜ジャルト。それ以上も、それ以下も存在しないのです」
「なんか…ヒーリングベルの言い方を見ると凄い存在に見えるけど…」
「別に凄くないぞソラ。要するにこの世界で『死竜』とは別ベクトルだが、役割のある存在だというだけだ。最も私たち竜は死竜を『竜』というカテゴリーにはして居ないがな。あれは……狭間の存在だからだ」
何故ジュリの方をジッと見るのかまるで分からなかったが、シャドウバイヤはそういうと言う事は死竜だけは別と言うだけで、天竜ジャルトはあくまでも竜のカテゴリーという事なのだろう。
「気難しいわけじゃないんだよな? 単純に自分の役割以上に興味が無いってだけか?」
「その通り。何度か捕まったことがあるんだが…そのたびに助けられても何も言わないで去って行くんだ。だから報酬なんかを期待しない方が良い」
エアロードがそういうのだが、俺達竜と一緒に過してきた人間からすればそもそも竜達に報酬なんて期待していないのだが。
彼らに報酬を貰った記憶が無いというのがギルフォードやアンヌすらも巻き込んだ全会一致の意見なのだが、それをブライトがハッキリと告げた。
「そもそも僕たち竜がソラ達に報酬を与えた事があった? 基本迷惑をかけることの方が多いって記憶しているんだけど」
アカシ以外の竜が全員目を逸らす。
道具に成って敵に回る、基本戦わない、むしろ足を引っ張る。
確かに基本的に迷惑をかけられたという記憶しか存在しない竜一行、強いて言うなら契約者としての力が俺達に取っての恩恵なのだが。
「私は何もしていませんよ」
「海竜はそっちが問題だと思う。大変なときですら何もしないし…」
ブライトが「決めた!」と叫ぶので俺は「何が?」と訪ねると「飛空挺の名前」と言うのでそう言えばそんな話だったと思い出した。
「ブリゲード号!」
「なんでブリゲードなんだ?」
「だって…」
そこから先の言葉に俺はほころんでしまった。
「僕たちは『竜達の旅団』だもん! その拠点だからブリゲード号! 格好いいよ!」
ウルベクト家御用達の飛空挺の名前は満を持して『ブリゲード号』という名前になり、俺達は目的地まで素早く移動することに。
嵐のど真ん中を突っ込んでいき、目的地周辺へと辿り着くとまずは俺とギルフォードが施設上空から侵入するために甲板から降りていく。
「獄炎! 怨炎!」
「竜撃。焔の型。焔の舞」
俺達が同時に放った攻撃は地面に着弾した途端大きな爆発を起こし、俺達二人は上手く着地する。
すると建物の中から次々と自立型の迎撃機が姿を現し、俺達二人はあっという間に囲まれるが、まるで負ける気がしない。
「このまま敵勢力を施設から遠ざける…出来るよな? ギルフォード」
「当然だ。ダルサロッサ…戦うのなら全部片付いた後でスマフォを買ってやる」
「やるぞ! 見ていろその獄炎は私が考案した攻撃方法だ。そもそも我々竜には異能殺しに似た力をそれぞれが持っているんだ!」
「え? そうなの?」
「エアロード。まさかとは思うけど…今まで知らなかったとか言わないよな?」
俺からツッコミに腰回りにまとわりついて戦力にならないエアロードがそっぽを向き、ブライトがそんなエアロードを可哀想な人みたいな目で見つめる。
とりあえず戦わなくてはいけないのだ、エアロードにもそろそろ本気で戦って貰おう。
「ソラ…睨むな! そんな目で見られたら戦わないと行けないみたいな雰囲気になってしまうだろうが!」
「戦えって思って見ているんだからそれを感じ取れて。ブライトに先輩としての威厳を見せようとは思わないのか?」
「思わない! 全く思わない! 自由に! それ大事!」
何だろう…何を言っても無駄な気がしてならないが…とりあえず俺は戦わせるため襲いかかろうとしている自動迎撃機に向かってエアロードを投げる。
エアロードが悲鳴を上げながら突っ込んでいくのを合図に、ダルサロッサは走り出して迎撃機の胴体に噛みついて獄炎を上げてから燃やし尽くす。
俺とギルフォードは二手に分かれながらまずは迎撃機を施設から遠ざける。
その隙にアンヌとレクターと海が施設に侵入して破壊する。
エアロードが迎撃機を真っ二つにしたのち俺の方へととんぼ返りの要領で戻ってくるのを俺は尻尾を掴む事で回避しそのまま再び投げる。
そして俺の方はブライトに当たりそうな攻撃を緑星剣で弾きながらそのまま迎撃機の一機を真っ二つにする。
「何をするんだ! 死んだらどうする!?」
「お前がそう簡単に死ぬわけ無いだろ…」
俺は確信しているんだ。どうせお前の事だからいざとなったら死んだフリでもして助かろうとすると。




