反撃の時 2
京都大阪方面で起きたおおよその出来事、その全てをアンヌとギルフォードから話を聞いた俺達は父さん達と合流したのち、アメリカの国防長官の話を詳しく聞くことに。
国防長官の話を要約すればこういうことらしい。
副大統領やノックス達が違和感ある行動を取ったと考えるのならそれはクライシス事件の時だろうと、しかし、この時点ではまだ何も知らなかったらしのだ。
それが違和感という形で現れたのは海洋同盟の事件の時で、大統領が海洋同盟にいた時期ノックスがアメリカ再建計画という国家プロジェクトの中で各地を移動していることを国防長官は違和感として捉えた。
海洋同盟事件の後になんとか大統領に直訴したが、証拠のない状態では訴えることが出来ない。
ノックス達は上手く動き続け証拠を残さないように動いていた。
それの行動が結果からすればキュキュとアンテルという双子の姉妹の行動へと繋がったのだろう。
そして、ノックスが何者かと一緒に行動している姿を目撃したという噂を聞いたのが研究都市の一件。
あの時ノックスが大会に参加したのは不死の軍団という組織と接触するためではと後になって疑いがかかると、その唯一と言ってもいい証拠が消えた。
そして、ある道具が国防長官の下に届き、敵の作戦を欺くという目的もあり影ながらの活動に徹したのだという。
俺達は国防長官の話を聞き大統領が未だに余談の許さぬ状態であること、一部のニューヨーク住民が副大統領が大統領を撃つ瞬間を見た者がいたことなどの証言とその際に取られた写真を見せた。
「副大統領にクーデターを起こせるだけの度胸があるとは思えない。恐らくだがノックスに唆されているのだろう。元々欲深い男ではあるが、同時に危機管理能力も高い男だったからな。逃げる避けるは得意分野のはずだ。今もホワイトハウスで隠れているんだろう。最悪ノックス達が捕まっても『脅迫された』と言って逃げるつもりか、それとも国外逃亡の手段があるんだろうな」
「実は国外逃亡の手段の手段についてはこちらで心当たりがあるんだ」
父さんはそう言うと大きな画面に西暦世界の地図を表示させ、中国とロシア方面から艦隊らしきマークがアメリカへと向かっているのが分かる。
どうやら父さん達が見つけ出した副大統領の当てというのは中国とロシアらしい。
「中国とロシアはクライシス事件の直前から連絡が取れない状態が続いている。我々異世界連盟はこの両国こそが『不死の軍団』の本拠地が存在するのではと推定している」
「なるほど…今回の会談はその辺りを話し合う予定だったと言う事か…」
国防長官の中で納得のいく話だったようで、父さん達と話し合いを続けている姿を後ろから聞いてみる。
その辺の細かい事情は父さん達に任せるしかない。
すると俺は一旦部屋から出て行きアンヌが入っていった部屋の中へと入っていく。
部屋の中心ではカプセルの中に入ってグッタリしているレクトアイム、どうやら精神面がやられているらしく回復させるのに数日はかかると言われたのだ。
因みにダルサロッサは直ぐに回復して居たので、事前に備えをしていた者は大丈夫なようだ。
「お話を終わったのでしょうか?」
「まだ続いているけど…難しい話になってきたからな。さっきは助かったよ…あのままじゃどっちかが死んでいた」
「いいえ。もっと早く駆けつけられたら良かったのですが…」
アンヌが弄っている熊のストラップが二つ、それが意味することを俺は先ほど聞いた。
皆が苦しんでいる。
誰だって苦しいし、誰だってちゃんと向き合えるわけじゃない。
「ソラさんこそ大丈夫ですか?」
「大丈夫だって言ったら嘘になるな…でも何時までもウジウジしたり、足を止めていたらそれこそ師匠に怒られそうだしな。目の前に救う人が沢山居るのに足を止めるなって」
「私も同じです。美咲に怒られそうだし…美咲は私の思い出の中にいます。今はそれだけで十分です」
十分じゃないことは顔を見れば分かるが、強がっている彼女を慰める手段は存在しない。
今は部屋の中から出ていき、俺は隣の部屋から賑やかな声を聞いた。
一体何事かと思えば竜達が集まって遊んでいるように思える。
エアロードはスマフォを弄っているし、ブライトとアカシは仲良く話しているし、シャドウバイヤは興味なさそうに欠伸を放ち、ヒーリングベルはスマフォを見ながら怪しい微笑みを浮かべている。
ここに居ないのは治療を受けているレクトアイムとギルフォードと一緒に行動している炎竜ダルサロッサ、行方が分からなくなっている光竜シャインフレアと闇竜ダークアレスターのみである。
勿論他にも沢山の竜が世界中にいるが、俺が知る限り竜達の旅団に所属している竜はこれぐらいである。
そのほぼ全員が人間の話が難しいからという理由で遊んでいるように思える。
「あ。ソラだ。お話終わった?」
「まあ……何をしていたんだ?」
「? 暇だから遊んでた。さっきまで皆で武器や防具になるってどんな気持ちなのか聞いていたところ」
ダルサロッサの地雷原を容赦無く踏み抜くその度胸はある意味尊敬するが、そんな質問に恐らくストレスを抱えていたのだろう相手は先ほどからスマフォを見て怪しい微笑みを浮かべているヒーリングベル。
因みに何をしているのかと思ったが、どうやらネット上で人間関係が荒れて炎上しているのを見て楽しんでいるらしい。
物凄い質が悪い。
「どうしましたか? 何故私を見てそこまでドン引きするのですか?」
「いや…それって趣味?」
「ええ。人間関係や荒れて滅茶苦茶になって行くのが楽しいのです。別段私が荒らしているわけじゃないのでお構いなく」
「まあ…自分で荒らしている訳じゃないなら別に突っ込むところもないから良いけど…」
にしても趣味が悪いだろうと思っているとエアロードは先ほどから誰と話をしているんだと覗き込む。
今度は機竜と話をしているのが分かるのだが、なんで機竜と話をしているのかさっぱり分からない。
「なんで機竜とも会話をしているんだ? いざとなればテレパシーがあるだろうに…」
「? 機竜が人間が良くして居るチャットというのをしてみたいと。楽しそうで、いつも一人でいるし、たまにくる人間も敬意と畏怖を持っているから寂しいから偶にで良いからチャットで話したいと…」
エアロードとヒーリングベル以外が涙を誘う話で、正直次逢うときに機竜を直視できそうにない。
確かに都市丸まるが機竜の体というあの異常な大きさと、その僕竜と同じ意味で永遠に生きる存在であるが故に中々対等に扱われない。
かくいう俺も魔導協会に所属している身で、組織上最上位に位置し、魔導大国の国家元首である機竜に対してため口で話なんて出来ない。
「何というか…次逢ったら俺…直視できない」
「僕も…なんか可哀想…」
俺とブライトは可哀想に思えて成らない機竜を哀れみ、アカシはどうすれば良いのだろうとアワアワしている。
「気にしないことです。こうして適当に話をしていればそのうち飽きます」
「ヒーリングベルだけは平常運転なんだな。別に良いけどさ…。ストレスは発散できたのか?」
「何の話ですか? 別に私はそこで道具化の話をしていても別にストレスなんて感じて居ませんが?」
「あ、はい。そうですね」
滅茶苦茶ストレスだったようで目がまるで笑っていないし、何より喋っている言葉一つ一つに「ストレス」という言葉が入っていそうな気がする。
「因みにブライトは兜が良いと言って、アカシは鎧が良いらしいですよ」
何が良いのかまるで分からないが…、そもそもあの二人はそういう能力は通用しないはずだ。
他人事だからこそのだと信じたい。




