影なる者 1
海洋同盟の地だろうと、ガイノス帝国の地だろうと、日本だろうとこのサンサンと照らす太陽の暑さだけはどうにもならない。
結局保冷剤の確保にも失敗し、暑い中我慢しながら空港の中を移動して行く。
空港のデザインなんて西暦世界だろうが、皇光歴の世界だろうが変わるものじゃない。
冬服を着ている為に余計に暑苦しく、正直上着ぐらいは脱ぎたいのだがこの制服上着を脱いだらタダのスーツ姿にし見えないし、実際制服の夏服で行くかどうかはギリギリまで考えていた。
礼節なんかを考えればやっぱり冬服の方が良いのではないかと考えた結果である。
まあ、真夏に暑苦しい恰好をしている人間に礼節もくそも無い気がするが。
「暑っ!」
「赤道直下に近いし………奈美ちゃんは大丈夫?」
「だ、大丈夫。すっごく暑いけど……お兄ちゃん大丈夫なの?」
「大丈夫だと思うか?今にも死にそうな暑さで気が参りそう」
脳みそが溶解してしまうのではないかと思わせてくれる暑さ、赤道直下なんて日本やガイノス帝国に住んでいたら行くことも無い場所。
良くも悪くもガイノス帝国は気温が低く夏でも長袖で過ごす人が多いのに、コッチはむしろ年がら年中半袖で過ごす人が多そう。
「父さんが怒られたショックから中々立ち直ってくれないからな。俺達で勝手に行動しよう。俺は首相に会いに行ってくるよ」
そう言って俺は自分の荷物をジュリに預けて政府が用意したリムジン型の車に乗り込んで国会ビルへと移動して行く。
流れるように街並みが変わっていき、特にこの第一島は政治的な場が多い。
大島なんて言っても人が生活するスペースは多いとは言えず、基本的にはビル群なので帝都との違いがあまりはっきりしない。
窓の外の風景の中に広い空間が見えてきた。
そのど真ん中に国会ビルが建っており、なんというか違和感はな正しい。
島のど真ん中に国会ビルというだけでもおかしい気がするし、別段この島は平坦なわけでも無いので、国会をたてれそうな場所なんてそれ以外にも多くある。
その上で少々高いこの場所に建てる意味はあるのだろうか。
国会前の広場を半周しながら国会ビル前玄関に車は止まり、同時に国会内までスーツ姿の男性に案内されるがままに連れていかれる。
なんというか、国会ビルの中に石造りの壁があるというのはいささかどうだろうか。
「この石造りの壁は元々この大島に存在していた塔の上から作られている名残です」
「という事はその塔の上からこのビルを建てたという事ですか?」
「そうです。ですのでこのビルの高さと党の高さはおおよそ同じです。塔の最上階が国家元首の部屋となっております」
国家元首と聞いて俺は頭の中で古臭いオッサンを想像してしまうのは、国家元首と聞いたらそういうイメージがあるからだろう。
石造りの壁の外側を右回りに歩いて回り、外が丸見えのエレベーターに二人で乗り込む。
ふとエレベーター内の天井に目がいく。
あれはカメラ?さすが国会ビルだな。セキュリティーが高い。
ドンドン高く昇っていくエレベーターの窓には第一島の島の端が辛うじて見えてくる。
結構な高さを誇るこの塔の最上階手前で止まるエレベーター、男性と一緒に歩いたドアはいかにもな古臭い木製のドア。
「この部屋の奥の廊下をまっすぐ進んでいください。その奥が国家元首の部屋となります」
木製のドアを開いてから身を引き、俺は木星のドアを潜りながら真っ赤なカーペットの上を歩き出す。
革靴の音がしないカーペットの上、同時に周囲が電気の明かりでしか照らされておらず正直心もとない。
歩いて一分もしない所に再び木製のドアが正面にやってくる。
俺は両開きのドアを両腕で開き、俺は室内へと入っていく。
大きな部屋石でできた枠が部屋中に備え付けられており、円形状に広がる部屋の出入り口の反対側に国家元首用の木製に見える豪華な装飾が付いているテーブルと椅子、更に周囲には枠の邪魔にならないように本棚が付いている。
その豪華な椅子に座っている四十代前後の女性こそが国家元首だろう。
灰色の女性用スーツに国家元首であることを現す海洋同盟の紋様が描かれた金製のボタン、すらりとした手足とそれ以上に印象的な目つき。
正直良い目つきとは言えないが、それでも国家元首としての貫禄が目つきから見える。
カールの掛かった髪型と相まって迫力がある。
「ようこそ最強国家であるガイノス帝国の英雄がやってきてくださるとは思いもしませんでした」
「こちらこそ海洋同盟の首相に面会させてもらえるなんて思いもしませんでした」
呼吸音が三つ?
俺と国家元首以外いないこの部屋で?この枠が呼吸音として感じているだけなのか?
「さてと私も少々忙しい身ではあるの。できれば早めに本題に入りたいのだけれど………いいかしら?」
俺に思考する隙を与えてくれないので黙っていることにした。
多分気のせいだろうし。
この部屋には目立つ用ぐらい大きな物と言えば国家元首の後ろにある大きな縦型の旗ぐらいだろう。
「我々の国では現在困った事態になっているのよ。というのも反政府組織が国内外に影響を持ち始めている。今までは国内だけで解決できていたんだけど。あなたが知っている通り国外での活動が目につくようになりました。これ以上国外に被害を出せば海洋同盟にとってもダメージになるの」
「実際もう被害が出て居ますもんね」
「これ以上の被害を出すわけにはいかないの。だからあなたにも解決してほしいというわけよ」
「要するに反政府組織の相手をしてほしいと?」
「ええ、それ以上の事も望まないし、してほしいとも思わないわ。あなたがこの国で動くうえで必要な事があるなら何でも言ってちょうだい。ただし………興味半分で覗き込もうとしないで欲しいわね」
忠告というよりは警告なんだろうな。
「分かりました。興味本心で覗いたりしませんよ」
「ならいいのよ。で?何か用意するものはあるかしら?」
「特に……出来るなら周囲に貴方の息のかかった人間を置かないでください。邪魔になる可能性が高いですから。あと出来るなら俺が立ち入る際に問題が起きないように証明書だけくだされば結構です」
国家元首は少しだけ顔を俯かせていたが、直ぐに顔を上げる。
「そう………下の階で証明書代わりになるカードを渡しておきます。あなたに私達は付きまとわない。約束するわ」
「もし俺の周りに付きまとえば無事では済まなくなる可能性が高いですよ………」
俺も念の為の警告代わりにと少しだけドスの聞いたような目で見つめるが、国家元首は大して表情の変化が見られない。しいて言うなら目がほんの少しだけピクリと動いた程度だった。
俺はこれ以上の会話の必要性を感じないと思い百八十度体を反転させて室内から出ていった。
俺が国会ビルを出る際に必要なカードキーだけを受け取り、同時に俺の後を付けて回る人間がいないかどうかだけを確認させるため、ラウンズを二体ほど常に俺の周りに散開させる。
隆介を中心に命令しているので俺は安心して国会ビルから出ることが出来る。
歩いて国会回りの広場を通り抜け、第一島から移動する為にモノレール乗り場まで歩いていると、空港への道と国会ビルへの道、第二島と第三島への道の交差点、モノレール乗り場へ入る際人混みに紛れている為誰かがぶつかってきた。
「す、すみません」
「こちらこそごめんなさい!」
俺は相手に謝ろうとして顔をそっちの方に向け、相手の女性も俺の方に向く瞬間俺達の視線は完全に一致した。
「イリーナ?」
「ソラさん?」
俺達は海洋同盟の地で再開を果たした。




