嵐を超えていけ 6
アンヌはダルサロッサとヒーリングベルの会話を聞いてきてクスクスと笑ってしまっていた。
するとヒーリングベルが笑顔でアンヌの方に顔を向ける。
「その笑顔ですよ。何時までも考え込んで難しい顔をして居るぐらいなら死んだ彼女に笑顔を向けて上げなさい。そうすれば彼女も安心するでしょ? ほら見なさい白虎なんて既に考えていないような顔をしていますよ」
そう言われてアンヌはそっと白虎の方へと顔を向けると、そこには白虎が大きな欠伸をしながらくつろいでいた。
何時までも悲しそうな顔をしていたのでは確かに美咲に怒られると気持ちを切り替え、ヒーリングベルに「ありがとうございます」とお礼を言う。
「フン。その慈悲深そうな奴は毒舌家でもあるからな。サラッと毒舌を吐くから気をつけておけ」
「貴方のように学習能力の無い人に対して毒を吐いているのです。その毒は甘んじて受け入れて次に生かしなさい」
「なんで私がお前の毒を受け入れなくてはいけないんだ?」
「所であそこに無造作に置かれている鉄の板が貴方の体ですよ」
「私の体が!? もっと丁重に扱えよ! 何でそんなただの道具のように…!」
「? 何故ただの鉄の板を丁重に扱わなくてはいけないのですか? 心底不思議です。あそこにあるのはただの鉄の板ですよ」
「違う! お前にとってただの鉄の板かもしれないが…私にとっては大切な…」
「鉄の板ですね。間違いありません」
「言うな! お前は本当に何がしたいんだ!?」
アンヌが微笑んでいると白虎が立ち上がり五月蠅そうな顔をダルサロッサの方へと向け、ダルサロッサを咥えてどこかへと持ち去っていく。
アンヌは一体何処に持って行くのだろうかと思っていると充電器ごとダルサロッサの入ったスマフォを段ボールの中へと持って行く。
「や、止めろ! このエネルギー生命体が! 私を封印でもするつもりか?」
「あなたはただの段ボールで封印されるのですか? おかしな存在ですね。そんな存在がエネルギー生命体に突っ込むのですか…おかしな世の中ですね」
「五月蠅いわ! 私が自分の意思でスマフォに入っているわけじゃ無い! コラ! 私をこれ以上段ボールの中に入れるな!」
そのまま白虎は段ボールの蓋を閉めて遠くへと歩いて行き再び眠る体勢を作る。
よっぽど五月蠅かったのだろうとアンヌは思い、ここは白虎の意思に従うことにしヒーリングベルもスマフォを弄り始めたのでレインに対して苦しみを少しでも和らげられるようにと思い治療の力を使う。
すると部屋の中に影竜シャドウバイヤが現れた。
「どうやら強引に突破するみたいだな…? さっきまでダルサロッサの声が聞こえていたが…」
「そこの段ボールの中です。そこの虎さんが閉じ込めたんです。あまりにも五月蠅かったので。段ボールで封印されるちっぽけな存在に成り下がったのですよ」
シャドウバイヤは翼を羽ばたかせて段ボールを開けて中を確認すると、スマフォの中で「シクシク」と泣いているダルサロッサを発見し黙って蓋を閉じた。
その状態を突っ込まない事とし、今度はスマフォを弄っているヒーリングベルの方へと体を向ける。
竜がスマフォを嗜んでいるという姿に違和感をバリバリに感じるわけだが、シャドウバイヤは心の中で「きっと突っ込んだら負けだな」と感じた。
「そのスマフォイリーナが買ってくれたのか?」
「いいえ。ソラに頼んだら買ってくれましたよ…近くにエアロードが居てほしがっていたので彼も持っているはずですが…」
「? 何も聞いていないが?」
「そもそも人間文化に触れてみたと思っていたのです。簡単に分かることができるこのデバイスは人間文化や社会を知る良い道具でしょう。これからの世の中竜もスマフォを持っている時代なのです」
「そうか…まあ突っ込まんが。しかし…その何だ? そのスマフォの背中と言えば良いのか…後ろに貼り付けているゴチャゴチャしたものは…」
「? デコっているのです。可愛いでしょ?」
シャドウバイヤとしてはそれが可愛いのかどうかがイマイチ判断できなかったが、アンヌが近づいていって「可愛いですね」と言っているので可愛いのだろうと思うことにした。
前にソラが「スマフォ買うか?」と言われて一旦断った事を思い出す。
今思えばその前にヒーリングベルとエアロードに買ってあげたのだろうと分かった。
「スマフォというのは面白いのか? 私には良く分からんが…」
そう言いながら失礼と思いながらヒーリングベルのスマフォを覗き込むと、そこにはエアロードとのチャットのやりとりが記されており、向こう側からレクターと海がおかしな全身を覆うまるでスマートな宇宙服のような物を着ており、それを笑い焦げているのが分かったが、問題はその前のチャットでエアロードがシャドウバイヤが元に戻った事を残念がっている会話だった。
「あの野郎。人の不幸を笑って…」
「良いではありませんか…まあ、ソラを元気付けようとして居るようですし…」
シャドウバイヤ自信先ほど聞いた話だったのでなんとなくは知っているが、エアロードなりに少し心配していたが、エアロードが元気付けようとして居るのなら心配はしないことにした。
それとは別に後でシバクと決めたが。
するとエアロードにくっついている見慣れない…聖竜に似た竜が映っており、そこにはエアロードのスマフォに興味津々な感じでカメラのレンズにくっついているのが分かった。
「こいつは誰だ?」
「聖竜の子で名を『ブライト』と言うらしいですよ。前任の引きこもりの親とは違うアウトドア派のようですね。ソラと行動を共にして居るようですよ」
話を端から聞いていたアンヌは今後ソラに頼る事になるという現状に心を痛めていたが、それをヒーリングベルが「気にしてはいけませんよ」と忠告を発する。
「立ち止まって考え込んでいても何も変わりませんよ。受け入れて前に進む。これが大切なのです。ソラも前に進もうとしてる」
「そうですね……私も信じます」
『前方に大きな鳥を発見! 恐らく朱雀かと思われます!』
艦内に響き渡る放送に素早く反応したのは白虎、それに続いてアンヌが立ち上がり部屋から出て行き、それに続けとヒーリングベルもスマフォを空間に収納し、シャドウバイヤと共に部屋から出て行った。
甲板フロアまで出て行くと強い雨風に吹き飛ばされそうになるが、これでも飛空挺のフィールドバリアで軽減されている方である。
アンヌ達は濃い嵐の向こう側にハッキリと見える大きな鳥類を発見した。
それこそ大きな孔雀と言っても良いほどの鳥、翼を羽ばたかせて周囲に鳴き声を発しているのがハッキリと分かった。
「朱雀! 聞いてください! 私は貴方の敵ではありません!」
アンヌが声を発して朱雀に言葉を届けようとするが、朱雀は聞く耳を持たないように更に嵐を強くしていく。
アンヌは小さく「どうして…」と呟くと、ようやく白虎が口を開いた。
「怒りで我を忘れているようだ」
喋ったことに驚くヒーリングベルとシャドウバイヤ、アンヌは全く気にしていないようで「どういう意味ですか?」と訪ね返す。
「美咲が殺された事で怒りを爆発させて我を忘れているんだろう。人間という種を…生きている者を殺し尽くしたいんだろうな…」
「このまま荒らしを続けているといずれはそうなります。 ハワイ諸島の人達は間違い無く死んでしまう」
アンヌはどうにかして朱雀を落ち着かせようと考えるが、シャドウバイヤは遠くを見て「どうやら考える時間は無いぞ」と指摘する。
全員の目がシャドウバイヤと同じ方向を向くと大きな飛空挺が反対側から現れた。
メメントモリとカールも全く同じ事を考えたのだろう。
今朱雀を巡る戦いが起ころうとしていた。




