嵐を超えていけ 3
用意された戦闘用の飛空挺を目の前に俺達は完全に足を止めてしまい、同時にその特殊な飛空挺をマジマジと見つめながら周囲からその飛空挺を確認する。
全身はヒールの靴のような形をしているように見え、前方のとんがっている部分には上にコックピットが見えるし、真下には銃火器のような武装がそっと見えるのだが、それ以外にも上と左右にも同じような銃火器(こっちは外で出て使用するようになっている)がハッキリと確認するのだ。
しかし、俺達の飛空挺とは本来箱形をしており、左右に多少なり羽が生えているのだが、この飛空挺には羽が見えない。
その代わりに左右にジェットエンジンのようなエンジンと真後ろにスラスターらしい噴出口が見えた。
何というか…あまり飛空挺に見えないのだが、これは本当に飛空挺なのだろうかと疑問に思う。
下手をすれば父さんが何か嫌がらせをして居るのか、それとも俺達が知らない新型の飛空挺でも用意したのかとずっと考えてみる。
レクターがはしゃぎ回りながら飛空挺の周りをグルグルと回って確認し、俺とジュリと海は速やかに近くの整備士に聞いてみた…すると整備士は飛空挺の最終チェックをしながら笑顔で答えてくれた。
「この飛空挺は最新型の飛空挺で、現在異世界連盟に加盟予定の国々が今後の最新型のモデル機として開発された最新式の飛空挺なんです。浮遊機関も最新式が採用されていますが、推力用のエンジンは西暦世界の最新式が選ばれました。高速に動き回る上に多少厳しい嵐の中ですらも真っ直ぐに雨風の影響を受けることなく移動が可能です。搭載している武装も高出力の熱線…ああ、わかりやすく言えばビームですね。それと魔導で強化された機関銃も搭載しています。実はこの飛空挺まだちゃんとしたテストをしていない完全試作機なんですよ。念の為にデータ上ではテストをしているのですが、ちゃんとした軌道はこれが初めてなんです」
それは飛空挺としては大丈夫なのだろうか?
「どうしてこれを私たちが? 下手をすれば壊しかねないですよ」
ジュリは俺達を見ないようにして居るが、それはきっと話すのに集中しているからだと信じたい。
「でも、これって一般の飛空挺と操縦方法が違うんじゃ?」
「いえいえ。操縦方法の基礎的な部分は一般的な戦闘用の飛空挺と全く同じで、強いて言うなら一部のシステムが簡易化されているか基本一般的な戦闘用飛空挺より扱いやすいかと…装甲は厚くないのであまり攻撃を受けているとあっという間に破損するので気をつけてください」
「はぁ? 待ってください。さっきの話だと操縦するのは?」
海が不思議そうな顔をして俺の方を見てみるが、一体何が不思議なのか分からない。
「俺だけど? 小型飛空挺の操縦免許だったら持っているし、戦闘用の飛空挺は小型免許でいけるはずだし」
まあ…操縦してみないことにはなんとも言えない。
ここでじっとして居ると体が冷めてしまうだろうし、さっさと中に入って寒さをしのぎたいという気持ちが存在する。
中への出入り口へと案内され、階段を上りながら中へと入っていこうとしたらエアロードが素早く中へと入っていく。
今度はそれに続けとブライトが中から出ていき、中を探検していく。
俺はまずコックピットへと入っていき、操縦席に座って操縦システムに手で触れて確認してみる。
確かに一般的な戦闘用飛空挺と全く同じシステムで動かしているようだ。
あくまでも全体の性能を向上させただけと捉えれば良いようだ。
操縦システムを確認している俺の後ろからレクターが座席にタックルを決めながら襲いかかってきたが、流石最新式の操縦席である全くダメージがなかった。
「ちょっと待って! 無免許運転!?」
「失礼な奴だな。お前と違って免許を持っている」
「いつの間に?」
「先月。師匠に取っておいた方が良いと言われて受験を手伝って貰ったんだ。実際に父さんからシミュレーション機に乗せて貰ったしな。操縦は出来るさ」
どうやら最後の調整が終わったようで、俺は操縦桿を握りしめながらまずは飛空挺を浮上させるが、その後ろでエアロードとレクターが神に祈るようにブライトに祈っている。
あまりにも失礼な言動なのだが、この際一切を無視してから十分な高度まで飛空挺を上昇させてから俺は早速出発させる。
操縦席の後ろ側に右側面に備え付けられたオペレーター席に座るジュリがレーダーセンサーのチェックをしており、俺は予め教えて貰った避難民を乗せた飛空挺を回避するようになるべくロッキー山脈に近づいていきながらロッキー山脈の側面を南下していく。
まずはあまり速度を出さないように気を使いながら、移動していくとどうやらレクターとエアロードは慣れたらしく俺の近くまで近づいてくる。
「何だ…意外と安全運転じゃん。でもなんでロッキー山脈に近づいていくの?」
「避難民の乗っている飛空挺は普通の航空ようの飛空挺だから嵐に近づきすぎると操縦不能になるからロッキー山脈から遠ざかるように移動するんだ。これだけ近づけば衝突事故を起こさないで済むだろ?」
「ああ。でもさいつの間に免許を取ったわけ?」
「お前さ。軍方面の必須項目である飛空挺の基礎理論受けていたよな?」
飛空挺の基礎理論をキチンと受けてシミュレーションマシンで訓練すればちゃんと合格できるようになっているし、一般生徒は高校一年生になれば普通に受験出来るようになるはずなのだ。
実際俺と全く同じ時期に受けていた同級生を何人か確認した。
「? そう言えば…寝てたかも。あれちゃんと授業に出席してテストである程度の点数さえとれれば基本大丈夫だし」
「そう言えば寝ていましたね。お前。あれで良くテストである程度の点数がとれるな」
「フフン。やるときはやるんだよ」
普段からキチンとして居て欲しいと思うのだが、残念な事に俺の願いは中々通用しないのでもう諦めている。
レクターと話しているとブライトが俺の隣までやって来てコックピットから見える景色に目を輝かせていた。
「何も面白い景色なんて見えないだろ?」
「そんな事無いよ。どんな風景も楽しいもん。うわ…少しずつ向こうの街が近づいていくよ…!」
「おお。こうして飛空挺の操縦席に来る事ってあまりないよな…」
飛空挺の操縦席の窓は頑丈に出来ており、一般的な飛行機と呼ばれるような乗り物より大きく頑丈に出来ている。
その為か風景が本当によく見えるし、操縦していてもつい見蕩れそうになってしまう。
「しかし、変わった飛空挺だよな。形も然る事ながらよくこれで飛んでいるよなって思うよ。全体的に丸みを帯びている曲線のデザインって斬新だよ」
「確かに…見たことないよ。でも、これって早く動くためのデザインなんじゃない? 丸みを帯びていた方が風の抵抗とかあまり受けないってイメージあるけど?」
「それって科学的根拠がちゃんとあるわけじゃ…と言えないのか?」
「でしょ? まあ俺も詳しい訳じゃないけどさ」
だよなと思いながら俺は操縦していると俺のエコーロケーションに真上から何かがやってくると感じ取り、俺は操縦桿を強めに横に振って回避運動を取る。
すると真上からやってきたのはミサイルで、俺はそのミサイルをギリギリで回避したのは良いが、今度はロッキー山脈の谷間から一機の小型の戦闘機が出てきてバックを取られてしまう。
「レクターは上の銃火器を、海はジュリの反対側の席で他の銃火器システムを頼む。ジュリはあの戦闘機を調べてくれ。エアロードはブライトを頼む」
「ホイホイ…じゃあ向こうに行くぞ」
「はぁ~い!」
突然のように始まった空中戦に俺は全神経を研ぎ澄ませる。




