エピローグ:偉大な背中を追いかけて
ガイノス帝国と大統領派のアメリカ軍を中心として通称異世界連合軍が先ほど発足し、代表者を誰にするかという事でサクトさんの推薦で何故か父さんがその代表者という事になり、関係者一同は終始心配な顔持ちでその発表を聞いていた。
何でサクトさんがしないのかと聞いてみると、その理由は父さんの横顔を見ればなんとなく分かってしまう。
いつになく真剣な顔と動き、どうやら真面目に作戦も練っているようだし今のところツッコミどころがない。
「あんなに真剣なアベル君は見たことないわ。相当ガーランド君が亡くなった事が堪えたようね。それも私が着任すれば面白くなって人がそれなりにいるからね。女がっていつも言われるし」
「…気にしすぎだと思いますけど」
実際俺達は全く気にしていないわけだし、しかし、現状においては少しでも心配の種を排除しておきたいのだろう。
サクトさんはどこか辛そうにしながら微笑んだ。
「それにね…私だって女よ。戦場で友人が戦死して普通に指揮が出来る気がしないの。こんなのでもね結構堪えているのよ。あの子はアベル君と同様に長い付き合いだったし。あっ…ごめんねソラ君の前で言うことじゃないわ」
そう言って立ち去るその姿はどこか俺以上に辛くもの悲しい後ろ姿で、俺は声をかけることは出来そうになかった。
すると後ろからジュリが話しかけてきて俺に一枚のジャケットを渡してくれる。
それがなんなのかと思っているとガイノス帝国軍のジャケット、白と青を色合いの制服に両肩には左肩に『重撃』の金色ワッペン、右肩に『竜撃』の金色ワッペンが付いており、ジュリは「少し休憩してね」と言ってそのまま走り去っていく。
今のところ俺はこの制服を着る勇気がどうしてもわいてこない。
俺はそのままの足取りでゆっくりと師匠の遺体を保存してある安置室の中へと入っていく。
冷凍保存箱の中に入れられた師匠、俺は近くに椅子に座ってずっと考え込んでしまう。
十六年前の北野近郊都市襲撃事件から既に今回の事件が始まっており、その過程で沢山の人が死んでしまった。
その全てが…その過程が全てがあの時不死皇帝の目の前で『異能殺し』という存在を認めさせるための作戦。
そして、ここから始まる戦いで全ての異世界の未来が決まる。
人は不死皇帝の支配を受けて自由と幸せを捨てて平和を手に入れるのか、それとも自由と幸せを手に入れるのか。
そんな事のために師匠は死んだのか?
そう思うと申し訳無い気持ちで一杯になる。
「違うよ」
そんな透き通るような少年の声が聞こえてきて、俺は驚きながら出入り口を見つめると地面から少し上に飛んでいる聖竜の子、小さく俺の腕の中で抱えることの出来る大きさの子供。
なんとか力一杯羽ばたいて俺の膝の上へと降り立つと少し疲れたのか息切れをしていた。
そして、笑顔を向けてもう一度「違うよ」と言葉を発す。
「アックス・ガーランドさんの犠牲は予想外だった。それこそ研究都市の後で発覚したことだもん。ううん。海洋同盟の時にソラ君が弟子入りしたときにまるで運命のように定まった事。でもね。だからお父さんは覆すことが出来るって思っていたよ。その方法は分からないけど…でもね。お父さん言ってたもん。ソラの心のままに進み、沢山の人達を守って生きていけばこの戦いの果てにソラは笑える未来が手に入るって。多分三十九人さんの見た未来にも繋がると思う」
聖竜の子は笑顔を俺に向かって真っ直ぐに向け、俺はその笑顔ですらまぶしく感じる。
「未来は皆で手に入れるんだよ。手に入れよ。僕たちと一緒に輝ける未来を」
「…手に入れられるかな? 俺に」
「出来るもん! その代わり僕に色んな所に連れて行って欲しいの。見てみたい。お父さんもそうしなさいって」
「…分かった」
「じゃあ。僕に名前を付けて」
そう言えば先ほどから聖竜の子とばかり呼んでいた。
「………光輝…じゃ日本人みたいだし。シャインを入れると光竜と一緒になるしな。ブライト…」
「? どういう意味?」
「輝くって意味だ。眩しいまでの輝く心をこれからも貫いて欲しい」
聖竜の子…ブライトは笑顔を俺に向けてクルクルと回り始め、うれしそうにしている。
するとある服に気がついてそれを両手で広げてみると、中からガイノス帝国軍のジャケットを取り出す。
「これソラの? でも結構大きいよ。まるでコートみたい」
「? そんな事無いだろ。ジュリが見繕った服なんだ」
そう言いながら着てみると確かに大きすぎるようでまるで小さなコートのような大きさ、それが意味することがイマイチ分からずジュリが制服のサイズを間違えたのかもしれない。
するとブライトは俺の腰回りをゴソゴソし始め、中に顔を突っ込んでいる。
「この服。アックス・ガーランドさんの名前が書いてあるよ」
驚き俺は急いで制服を脱いで中を見てみると確かに中に師匠の名前が書いてあり、ジュリは師匠の制服を持ち出して勝手にワッペンを付けたと言う事になる。
しかし、ジュリが制服を間違えたと言うことはまあ性格上ないだろうし、となるとこの制服を選んだ意味が分からない。
「ねえ。さっきのソラの姿お父さんの記憶の中に残っていたアックス・ガーランドさんの姿と似てね。少し背が低いけど」
「少し背が低いは余計だ。似てたか?」
「うん。もう一度着てみてよ」
そう言われてしまうと俺は拒否する事は出来そうになかった。
ブライトに言われたとおり着てみてもう一度感想を求めるとブライドはそんな俺の服の中へと入っていく。
「へへ。僕の指定席。ここならソラの見ている風景がよく見える。アックス・ガーランドさんみたいにソラの元で色んな所を見せてね」
俺はもう一度師匠を見てみる。
ジュリがこの制服に込めた想い、これを着ていると師匠が常に一緒にいるみたいな気持ちになってしまった。
勿論そんな事は気のせいなのだが、それでもこれがあれば少しだけだが勇気がわいてくるような気がした。
「ソラ。外行こう。僕早く外を見てみたい」
「良いけど…外嵐だぞ」
先ほどから外は大嵐になっており、俺達が滞在しているサンフランシスコの中心街でも嵐のせいもあり全く人がいない。
軍もロッキー山脈を挟む形で軍を駐留させているらしいが、この嵐で視界が悪い上にグランドキャニオンなどの国立公園では激しい戦闘もあり中々進軍が進まない結果となっている。
「見たい。嵐だって見てみたいよ!」
そう言うのであれば俺は否定する理由がないが、この嵐ではきっと外に出れば服が濡れるなんてレベルではないだろう。
さてどうしたモノかと思いながら俺は外に出てみると丁度お仕事を手伝っていたジュリと鉢合わせになった。
「あ。着てくれたんだ」
「ああ。ありがとう。結構大きいけど」
「フフ。いつかソラ君がその服の人みたいに沢山の人を守れるように、その時ガーランドさんが何時だって側にいるって証明。あら。聖竜の子供も連れて行くんだ」
「僕ブライトって言うんだよ!」
「そうなの? 良い名前ね。ソラ君を宜しくね」
「うん!」
ジュリがそんな想いを込めていたとは知らなかったが、その気持ちを真っ直ぐに受け止めて見よう。
まだ完全には心を切り替えられないが。
「そうだ。外に出るんだが何か雨よけがあるか?」
「? その制服と士官学校指定の服があれば最低限の雨除けは十分だよ。強いて言うなら目を守るためにゴーグルとか?」
「ゴーグル? 付けてみたい!!」
大興奮のブライトにゴーグルを与えてやると、これまたいつの間にか姿を現したエアロードと一緒に外に出てみた。
「ジュリ。アカシのこと宜しく。疲れ切って寝ているみたいだし」
「うん。三人とも気をつけてね」
俺は建物を背に歩き出す。
見ていてください…師匠。




