大乱の始まり 2
遠くからまるで観察するように見ていると、そこから這い出てくるように姿を現したのはジェイドこと不死皇帝だった。
メメントモリは思考の中で「いつの間に」と思いながらそっちの方を見ていると、ジェイドは実に楽しそうにしているのを見ていたメメントモリ、心の存在しないメメントモリからすれば何が楽しいのか全く分からなかった。
ジェイドはクスクスと笑いながら事の成り行きを見守っていたら、メメントモリは時計を確認しているともうすぐ六時になろうとしていた。
「朱雀が一向に現れないと思えば不死皇帝が現れるし、かと思えば朱雀がハワイ諸島一帯に現れるし…何なんだ? 誰一人計画通りに動こうとしないな」
「相も変わらず神経質な奴だ。朱雀は一旦忘れろ。何せカールが白虎の回収に失敗してしまってな。でもボウガンはしっかりこなしているようだぞ。ほれ…直現れるさ」
「フン。で? こっちは素直に始めてしまえばいいのか?」
「ああ。とりあえずこのニューヨークの事件を初めてしまおう。正直心底…死ぬほど興味が存在しないのだが、それでも…始めないと進めないからな。まあ…死ねないんだが」
「不死者…だしな」
二人で会話していると姿を表したのはボウガンがボロボロの服を着て洗われ、尻餅付きながら一旦落ち着き改めてニューヨークに存在しているヘドロの固まりを見つけて驚く。
「何だ? あれ…キモ」
「進化したキューティクルの奴の能力だ。あれでも自分の能力を探っている最中なんだろ」
「え? あのキューティクル(笑)に進化する余地が存在していたのか? そっちが驚きだが…どんな姿に変化したんだ?」
「大人になっていたな…まあ…興味ないが…? ボウガンは何処に?」
「様子を見に行ってくると言って瞬間移動で移動していったぞ…」
「不死力の無駄遣いを良くもまあ…さてさて…そろそろこっちも動くで良いんだな?」
「ああ。お前達は二人は動いて貰うぞ。ボウガンは見届け役だ。私は異世界会議場の屋上で事の成り行きを見守らせて貰う」
「…カールは? どうしたんだ? まさかあの罵倒激弱天使がやられるとは思わないが?」
「落ち込んでいるよ。負けて…作戦を失敗させて…物凄く落ち込んでいる。復活まで時間がかかるだろうな。面白そうだから黙っているつもりだが。まあ…良いお灸には成るだろうな」
「ふうん。なあ…落ち着いてくれるならそれで私は十分だ。そろそろ動かせて貰う」
そう言ってメメントモリは姿を消し、ジェイドは微笑みながらタバコに火を付けた。
俺がケビンの進路を作るために走り回ってキューティクルの方へと風の刃で切りつけようとすると、途端物凄い衝撃がやって来て転がりながらもなんとか受け身を取る。
そして目の前に現れたのはボウガン、ボロボロの服を着て現れたボウガンはまるでウキウキしたような目つきで後ろにいたキューティクルを見て膝を折り絶望してしまう。
「な、何故だ…成長したと聞いたから…見に来たのに…お前……何で貧乳なんだ!」
「死ねば良いのに…あんた……本気で死ねば良いのに。そんなことをしにわざわざここまできたの?」
大きなため息を吐き出しながら立ち上がり、フラフラしながらソラの方をジッと見つめ、ボウガンは準備運動をし始めると、改めてキューティクルは雷を作り出し始める。
「で? 何をしにきたわけ?」
「そろそろ作戦準備が整うからお前がいつまで遊んでいるつもりなのかと思ってな。これでも本計画の見届け役だ」
「作戦? まだ…あら! もう六時…ならそろそろ私も動かなくちゃね。もう少し遊ばせて頂戴」
ボウガンは「勝手にしろ」と言いながら俺に向かって走ってきて右拳を叩き付けてくるのを俺は緑星剣の腹の部分で受け止め両足に力を込めていき、キューティクルは雷の攻撃を空間中に響かせ、ケビンはその攻撃の全てを回避してキューティクルへと突っ込んでいく。
背中にしがみついているシャインフレアは光の球体を作り出して雷の攻撃を受け止めていき、ケビンは光線攻撃を何十発も打ち付けていった。
「異能殺しの剣を探せ」
「は? 何の話だ?」
「このアメリカの地での戦いが終わったら異能殺しの剣を探し出せ。その剣はヨーロッパの現在ドイツと呼ばれている場所にあるはずだ。それが唯一…この世界で不死皇帝を殺す方法を持つ…お前が所有するのにふさわしい剣。お前が使うことで性能を最大まで引き出すことが出来るだろう」
そんなことを言いにこの男は姿を現したのか、いや…そんなことより俺はどうしても聞きたいことがある。
「お前は管理者なのか?」
「……クク。その答えはノーコメントだ。だが…これだけは言えるな…私はお前の敵ではある」
「なら…ここで殺す!」
ボウガンは目を強く開き小さく「やってみろ!」と叫んで俺の腹を蹴り飛ばす。
俺は後方に吹っ飛びながら空中で受け身を取って、空気を足場にしつつ制止してボウガンを睨み付けるが、ボウガンは素早く右蹴りを俺の顔面目掛けて叩き付けようとするが、俺はそれをしゃがみ込んで回避して緑星剣を強めに叩き付けようとする。
しかし、ボウガンは俺からの攻撃を右拳だけで軌道を逸らし、俺達は至近距離で睨み付ける。
「少しは本気で戦えそうだな…少しは成長したのか?」
「だったらどうしたんだ? お前は何がしたい? お前はどうしてこんなことをするんだ?」
「今回の計画を聞きたいのか? それとも全く別の話が聞きたいのか…」
あくまでとぼけるボウガンに鎧越しに頭突きを繰り出そうとするが、ボウガンはその攻撃を同じ頭突きで受け止める。
実は頭突きに頭突きで返すのは良い受け止め方で、攻撃に全く同じ攻撃で返すというのは咄嗟に繰り出す反撃方法としては有効だ。
ボウガンは額から血を流しながら口を大きく開けて八重歯を見せつけるかと思えば、俺の顔面をかみ砕こうとしてくる。
俺は腰を一旦引いて緑星剣で受け止めるが、緑星剣がギシギシと音を出し始め、俺は緑星剣が壊れるのではと嫌な予感が脳裏をよぎるが、そんな予感こそ緑星剣に良くない印象を与えるだろうと意識を切り替えた。
ボウガンの腹に蹴りをお見舞いしようとするが、ボウガンはそれを耐えきって両足で踏ん張りながら俺の体を吹っ飛ばす。
ケビンとキューティクルの戦いは一旦終わりへと向かおうとしており、キューティクルは空中にヘドロの塊を作り出し、それから電流に一撃を乱れ打ちしていき、その乱れ打ちを全て回避しながら突っ込んでいくケビン。
皆からのサポートを受けるケビン、それを見て俺自身も気合いを入れて両足を空中で踏ん張りながらもう一度駆けだしていく。
ボウガンは影で作り出した攻撃を俺は走りながら回避していき、ボウガンは遙か後方にジャンプ一本で飛んでいき、俺はそれに向けて走る軌道を急遽変更する。
ケビンが駆けてくるのをキューティクルは至近距離で黒い雷を作り出してそれを放とうとするが、ケビンは雷の速度より圧倒的な速度でそれを紙一重で回避し、脳をフル稼働させてハンドガンを同じように至近距離で構える。
後方にジャンプしたボウガンを追い、風の刃を次々とボウガンの退路を塞ぐように飛ばしていき、退路を完全に塞がった所でボウガンに向かって切りつける為に俺は体中から力を引き出していくと、体の内側から電流が体中を走っていく。
ほぼ同時に俺とケビンはそれぞれボウガンとキューティクルへと大技を繰り出したが、二人は最後にニタリと笑いながら姿を完全に消し、周囲のヘドロが無くなったと思ったとき、ニューヨークのハーレム地区で大きな爆発音が響いていた。