悪魔の闇へとようこそ 7
とりあえず父さんを元に戻してキューティクルの考えを思考してみてもまるで答えが出ないし、だが同時に不気味さを感じざる終えないのだが、あの悪魔がアフターケアをしたとは思えず、それはジュリやケビンやジャック・アールグレイにも同じような不安感がドンドン昇ってくると、体の前身で感じるキューティクルの悪意が通り過ぎ、俺達は咄嗟に部屋をでた。
正確には俺とジュリとケビンとジャック・アールグレイ、エアロード、シャインフレア、ヴァルーチェ、ダークアルスターがである。
竜とその竜と契約を結んでいる人間が同時に感じた途方もないほどの悪意、走っていると廊下に一人の肥満男性がぶっ倒れており、俺は側に近づいていくと話しかけてみる。
その男性は先ほど師匠を購入した人間で、顎下をそっと触れて脈を測っていると心臓は完全に止まっているのがわかり、ヴァルーチェが側に近づいてきた。
「駄目ですね。魂と言ってもいい部分…本質が抜かれています」
「何をしようとしているんだ?」
「分かりませんが…先ほどからこの建物の中にいる多くの人の魂にアクセスしているのが分かりますた。それも…犯罪者達ばかり」
このオークションを開いた理由、これがジャック・アールグレイならなんとなく分かる話なのだが、キューティクルなら訳が分からないという話をした。
しかし、ここに来てなんとなくではあるがどうしてキューティクルがこのオークションを開いたのかが分かった気がした。
「犯罪者を集めていたのかもしれない。キーは出品すれば高額な参加費用を払わなくても良いという点だ」
そう言って俺達は再び走り出して悪意の中心にいるキューティクルへと、途中でケビンと合流して俺の推測を説明した。
「あんな高額な値段を支払ってオークションに参加して、その上オークションで商品を買うなんてあまり合理的でも、現実的でも無いだろ?」
「そうですね。私でも異能が宿った商品を売り飛ばしますね」
「でも、それを認めさせるには相当高額な商品が必要だし、たとえそんな高額なお金を支払ってやって来た人間が真っ当な人間な訳がない。というと…」
そこまで離したところでジャック・アールグレイとジュリが話に入り込んできた。
『ああ。犯罪思考を持った犯罪者をこの場所に集める事が出来る条件をそろえる。恐らくだがアックス・ガーランドの記憶を消した事と繋がるのだろう』
『だからこそ犯罪者達の魂を奪い、同時に商品として売り出された人の心に意図的にトラウマを植え付けてそれを育て、それを奪う行為を繰り返していたんだと思うよ。このオークションはそういう側面があった』
だから師匠を拷問してトラウマを育て、それを最後に奪うことが目的、よく考えてみればこんな場所に連れてこられる商品の人間が犯罪思考の人間とはあまり思えない。
そういう人間にはトラウマや心に粉々に傷つけてその際に生じる『何か』を奪う事だったのだろうが、そんなことをしてキューティクルはどうしたいのかがまるで検討が付かないが、死体が山積みになっていくこの現状を放置なんて出来ない。
そういう思いでドアを開いて中へと入っていくと、オークション会場と言うだけあり二階までの吹き抜けになっている大きな会場、壇上の上にキューティクルが台の上に座り込む。
東側のドアから俺達が、反対側のドアからジャック・アールグレイを戦闘にジュリとレクターとシャインフレアが姿を現し、そんな俺達の上空で大きな真っ黒なモヤモヤが集まっている。
「あらあら…結構早かったわね。でも見て…綺麗。人の悪意に塗り固まった魂、あそこまで育てるのにずいぶん時間がかかった」
「何をしているんだ? お前が何がしたい? あの人のアフターケアをしたかった訳じゃ無いだろ?」
「勿論心が折れて廃人化した人間なんて死ぬほど興味が無い。私は悪魔…命の悪意によって育つ存在よ。私にとって魂と悪意はただの食事よ」
悪魔は魂を求めるとは言うが、彼女の場合は悪意すらも食事の対象なのだ。
「こんな性格でも私は反省したのよ。あんた達に負けた研究都市の一件で、カールより強いは言っても…あの女の場合成長しようとしないから私より弱いだけだし。でもね…ただの人間に負けたというのが耐えられないのよね」
「知るかよ! そんなことで俺達の大切な者を傷つけて楽しんでいたのか?」
「私の大切な人間じゃ無いぞ」
「ジャック・アールグレイは覗くけど…でも、お前はそんなことするために彼女達にあの二人を紹介したのか?」
キューティクルはその口元を上へとつり上げ、目元は細く何処までも馬鹿にしたような目をしながら、それでも決して高らかに笑う事も無く、それでも…他の誰よりも人を見下した顔をしながら立ち上がる。
大きな口を開いて何かを吸い込むように…空気を吸い込んでいくと黒い靄が素早く彼女の中へと入っていき、俺とジャック・アールグレイとケビンが走り出す。
阻止しなければという想い、同時に部屋の中に父さんと師匠と海が入ってくる。
しかし、一歩遅くキューティクルは熱風のよう風と、黒いオーラと言ってもいい何かを纏いながらその身を包んでいく。
俺達を襲うその『何か』から身を守りながら俺達はただ見守ることしか出来なかった。
その中からボーイッシュでどこかまだ幼い感じがしていた悪魔がモデル体型の美女へと変貌する。
といっても決して胸が大きいとかがいやらしさがあるわけじゃ無い、バッチリくびれたクビレ、さほど大きくも無い普通の胸元、足や腕も細くファッションモデルと言われたら納得しそうな体型。
長かった髪はバッサリ切り裂いたショートカットのボブ、服も黒を基本としつつ脇を見せつけたような露出度の高い服を着こなした美女。
「さてさて……この悪魔キューティクルがどれだけパワーアップ出来たか確認させて貰おうかしら?」
まさしく悪魔の笑顔。
悪魔の闇といってもいい成り立ち、彼女は右手の平を上にしながら伸ばし、指を折りたたみ広げながら「こっちに来なさい」とジェスチャーを俺達に送ってくる。
「悪魔の闇へとようこそ…」
彼女は足下から黒いヘドロのようなモノを広げていき、俺達はそのヘドロから身を離すために走って離れていく。
何か嫌な予感がした。
「道化の協奏曲……」
そう言って彼女は背中から緑と赤で色分けされたピエロの上半身を呼び出し、そのピエロは両手の指からピアノ線を延ばしその先から各フロアにいたであろう遺体だけを集めてくる。
「フフフ…最高の気分。最高の戦いをしましょう。さあ…道化師達よ…踊りなさい」
俺達の周りを囲みながら現れる遺体達、魂だけを切り抜かれ、生きていない死体を操っているのは間違いなくあのピエロ。
俺達全員は素早く武装し始め、キューティクルは指を弾いて音を鳴らすと黒いヘドロがまるで沸騰したお湯のようにグツグツと音を鳴らし、それが大きく波打ちながらヘドロの巨人の上半身を作り出して俺とジャック・アールグレイとケビン目掛けて右手を振り下ろす。
それが合図であるかのように遺体が一斉に襲いかかっていき、俺は巨人からの攻撃を素早くジャンプで回避し巨人の右腕を切り裂いてみるが、あっという間にくっついてしまうのでは意味が無い。
ケビンがキューティクル目掛けて光線を十発浴びせてみるが、キューティクルはそれを遺体達で防いでしまう。
「もっと…戦えるでしょ? まだまだ体の感触を確かめている最中よ」
黒いヘドロが口からまるで嘔吐物を吐き出すかのように大量のヘドロのような気持ち悪いモノを俺達目掛けて飛ばす。
俺達は跳躍して回避し、そのヘドロを切り裂いて改めて睨み合う。
あの悪魔と…。