海洋同盟へ… 4
ソラは持ってきていたノートパソコンを開き、ジュリが持っている携帯型の魔導機をUSBケーブルによく似たケーブルを繋げ、パソコンの起動を待つ間にジュリが魔導機をどうしたいのかを聞いておくことをした。
「で?ジュリは魔導機をどうしたいんだ?今までは最低限の戦闘用に作られた『風』系譜の術式と『治療』系譜の術式だけだろ?レクターやかつての俺みたいに『肉体強化』系譜の術式を入れたいとかじゃないよな?」
「うん。正直に言えば私も戦いたいけど、どうやっても私の戦闘技術じゃ戦えないし………、だから『風』系譜を最大まで充実させたいのと、『雷』系譜の術式を充実させたいの」
「う~ん。『風』系譜はともかく『雷』系の術式はな……」
「駄目?私魔導機の操作は得意でも術式の組み上げは苦手で……」
魔導機の『操作』と『術式の組み立て』は全く違うジャンルの才能で、ジュリは術式の操作は大の得意。その才能は最難関の『治療』の術式を難なく操作できるぐらいだ。
しかし、術式の組み立ては全く違うジャンルの才能、それ故に術式の組み立てだけは苦手にしている。
魔導機の術というのも基本はイメージで術式が構築されているが、魔導機はイメージを術式という構築、その術式を魔導機に記録させる。あとは割り振られた番号を記録させるだけでいい。
問題は『イメージ』だ。
要するに想像が必要なんだ。
『術式は自由である』
そんな格言があるぐらい術式は自由で、中にはあえて危険性を全部排除した術式も存在するぐらいだ。
レクターもそうだし、ジュリもそうなのだが魔導機の術式の構築が苦手にしている。
想像力が乏しいというわけでは無いのだろうが、術式としてのレベルまで高められない。
想像し、それを術式として魔導機に記録させるまでが出来ない。
だからこういう時は俺が担当することが多いのも事実。
「『雷』系譜か……あれは扱い方を間違えたら危険なんだよなぁ……それこそ市販の記録媒体を購入した方が安全だと思うけど?」
「魔導機の術式の構築はソラ君の方が上だって分かるよ。魔導機の扱い方ならだれにも負けない自信があるの。お願い」
「でも、なんで『雷』系譜を入れたいんだ?今まで『風』系譜だけしか入れてなかっただろ?」
「『雷』系譜は相手を気絶させやすいでしょ?やろうとすれば安全に相手を制圧できるかなって」
ああ……そういう考え方か。
まあ、確かにやりようによっては出来るけど………実際危険というのは事実なので俺としてはあまりお勧めしない。
「まあいいけど。こういう術式が良いかって希望はあるか?例えば落雷みたいな形か、雷を走らせるのがいいのか」
「走らせるタイプが良いかなって。『風』系譜は窒息系と直接攻撃系も入れて欲しいの」
またらしくないなぁ………分かりやすいぐらい何かあったようだ。
「何かあったのか?焦りみたいな感じを受けるんだが?」
ジュリは両手を胸のあたりでもじもじさせながら俯いて見せ、俺はジュリの顔を覗き込む。
「実は奈美ちゃんに術式の構築のしかたとか、術の使い方を教えてあげたんだけど。術の使い方はともかく、奈美ちゃん……構築の仕方を少しだけ教えただけでドンドン術式を考え始めちゃって」
「焦った?らしくないなぁ………」
らしくないというのは本心で、こんな事で焦るとは思わなかったが、その後に続いた言葉に俺は言葉を失った。
「だって。私は直接戦えないし、術式の構築もできない。役立たずでいたくないの。私も何か役に立ちたい。そこにいるだけの人間では痛くないから。遠距離攻撃手段だけでも私は充実させたい」
今までジュリが戦いに参加することは無かった。
彼女は戦うタイプの人間じゃないから、後ろで俺達の戦いを見ているだけ。
奈美が今構築で才能を見せ始めた。
このままいけば彼女は優秀な技術者になれるだろう。
「分かった。ジュリが使えそうな『風』系譜と『雷』系譜の術式をいくつか構築して記録しておくよ。フィルダーごとに分けておくから。あとでキチンとみておいてくれよ?」
俺は素早くキーボード操作をしながら俺が想像してみた術式をドンドン書き込んでいく、注文通り『風』系譜と『雷』系譜を複数個入れてみる。
戦うのならそれ以外にも使えそうな術式を入れてみよと、キーボード操作を一旦やめた思考を切り替える。
「時間かかりそう?」
「そうだな。何か時間を潰していてくれないか?一時間ほどで完成させるから」
ジュリは「分かった」と言いながらベットに腰掛けて、シャドウバイヤの尻尾にブラシをかけ始める。
ちなみに反対側ではエアロードが尻尾を触れさせないようにと努力し、同時に未だ体を動かせない様で口から涎を垂らしながら悶えている。
しかし、ジュリが扱えそうな遠距離攻撃に適した術式。
術式の属性は多く。
『火』『水』『風』『雷』『氷』『土』の六属性とそれ以外の『爆発』『振動』『治療』等々多くが存在し、特に六属性以外は上位属性として認定されているぐらいだ。
ジュリは使えない属性は恐らくないはずなので、どんな構築術式も使いこなすだろう。
となると上位属性を構築無いように入れていくべきだろうという思考に至ると、俺はある珍しい属性を思い出した。
ノリノリで構築術式を書き込んでいく。
一時間もすれば術式をニ十個ほど書き込むことが出来た。
あとは書き込んだ術式を実際に使うだけなのだが、こればかりはこの飛空艇内で使うわけにもいかないし。
「できた?私も見せてもらってもいい?」
「ああ、感想が欲しいな」
上から『風』系譜が始まり、次に『雷』系譜の術式続いていくのだが、最後に俺が組んだジュリへのプレゼントが書き込まれている。
「これって………『幻』系譜の術式?」
「ああ、目を使った幻術や声を使用した幻術など三つほど書き込んでおいた。一番唖然なのは声何だけど。ジュリには一番簡単だと思う術式は一番下だ」
「建物や場に幻術を掛ける?」
「正確には場にかける事でその場にいる人間全員に術をかけられたような錯覚を与える。幻術を上手く活用した遠距離幻術。ジュリは魔導機の仕組み位はきちんと知っているよな?」
「ええ魔導機に搭載している魔石から生じる粒子が周囲に付着して操作する。この粒子の特徴は時間経過で消滅する点で、高熱や低温で消滅しない。だったよね?」
「そうだ。じゃあ幻術はどうやってしているんだと思う?」
「え?肉体に付着した粒子を使って精神に干渉する?」
「正確には粒子を微量な電流に変える事で精神に影響を与える。この幻術の特徴は電流を浴びせあられるなら別に肉体に付着しないで良いという点だ」
「そうか、別に肉体に付着していなくてもいいんだ。ソラ君よく思いつくよね」
「この術式の構築に一番重要なのは想像力と粒子の特徴をよく知る事。だから……」
俺は後で奈美の部屋に行っておかなけらばならない用事が出来たという意味で告げた。
「ルールも知らずに術式を作りまくっていたら使った際に危ない目に合う。だから俺はこれから奈美の部屋に行かなくてはいけないんだ」
遠い目をしながらジュリに語り掛ける。




