海洋同盟へ… 3
烈火の英雄であるギルフォード事ギルは飛空艇から流れる風を体全身で受け、真っ赤な髪をが流れる風で大きく揺れていく。
ギルはフォードから言われた事を多少形反省していた。
だが、そもそもギルがあそこまで必死になった理由の半分は、星屑の英雄であるソラの存在である。
「あの目は俺と同じ失う苦しみを知っている目だ。なのにどうしてお前はそんなに前を向いて歩ける」
ソラと戦う一回一回の戦闘を思い出す。
ソラはギルに告げた「生きるって難しいんだぞ」と、その言葉はギルの妹が最後の瞬間に告げた言葉である。
「あの言葉を吐ける人間がいるなんて………」
『お兄ちゃん………生きるって難しいね……』
ギルの両腕に抱かれながら、頭から血を流し続ける妹を不安な眼差しで見つめるギル、妹が絞り出すその声を最後まで言い放ちながら息絶えた。
温もりが少しずつ消えていくのがギルにはよく分かり、体を強く揺すりその兄の声に答えない。
ソラに告げられた言葉と妹の言葉をほぼ同時に思い出し、歯ぎしりをする思いを抱き、同時に心の奥から沸き上がる感情に名前を付けられない。
ギルとて分かっている。
こんなことをしても妹は帰ってこないし、自分の気持ちにケリだって付けられないのだと、それでも自分が自分である為にはこうするしかなかった。
「皆から期待されていたんだけどなぁ………」
父親からも、母親からも、島のみんなも全員が期待してくれた。
英雄という言葉に必要以上の重み、それを楽しんでいたのは間違いない。
周囲から迫ってくるプレッシャーと、その身に宿す大きな力に何度も心躍っていき、父や母が自慢げにしていることが何より嬉しかった。
妹がいつだって兄の自慢話を期待して話に来るのがどうしようもなく楽しかった。
あの日までは。
家に帰る時間を楽しみにしていた。
十六の大島から小島へと移動するには大橋を使う事出来ないので船を使うしかない。
一番端の第十六島の港から船に乗ろうという想いで駆け足になっていくのだが、港前で多くの人だかりが出来ておりその人だかりを嗅ぎ分けるように向かった先には、ドラファルト島から火の手が昇っていく姿があった。
絞り出される悲鳴に似た声を張り上げ、島に行こうと必死になっていた。
その頃を思い出し、歯ぎしりさせながら自分の行いを後悔していた。
あの事件の後にフォードと出会いあの事件を外相が引き起こした事件であり、裏で政府が関わっていたと知ったのはその後の事である。
外相が引き起こした事件であり、政府がドラファルト島に面倒に感じて情報統制をしていることも。
「あの国は間違っているんだ。お前だってそれを知ればお前だって………」
『生きるって難しいんだぞ』
ギルはなんとなく分かっている。
ソラは海洋同盟の現状を知っても意見を変えないのだろうことは、ソラは帝国の内情に、日本の内情を知ってなお多くの人を救いたいという意思を変えることは無い。
俺は疲れ切った表情をしながらも自分の部屋へと帰っていくのだが、ドアに手を掛けて自分のベットにダイブする。
お風呂は明日の朝に入ればいいだろう。
朝方アクア・レインでサッとシャワーを浴びてきたので必要性を感じない。
「疲れたぁ………何か肉体的な疲れというより、精神的な疲れの方が大きいんだよなぁ」
「なら早めに就寝すればよかろう」
エアロードの如何にもな意見に口を尖らせて返す。
「今何時か知っているか?知らないなら時計を見ろ。まだ七時だぞ」
時刻は夕方の七時、外はまだ多少は夕方の名残を残しており寝るには早すぎるし、かといって布団の中に入れば間違いなく一発睡眠である。
「なら我慢すればよかろう?」
「やること無いんだよぁ………仕方ないからエアロードの尻尾を触って時間潰そう」
「な!? やめ!」
俺は尻尾をブラシで優しく撫でてやり、その度エアロードは全身に喜びを表現し、小刻みに震えながら必死に「や、やめ………やめてぇ」と喜んでいる。
俺は遠目で外を眺めながらひたすらエアロードの尻尾を撫でてやる。
部屋のドアが『コンコン』というノック音を聞こえてくるので、「どうぞ」と返すとドアがゆっくりと開きジュリが部屋の中に入ってきた。
「エアロードと遊んでいたの?楽しそうだね」
「まあな。さっきから喜びを全身で表現しているんだ」
エアロードは痙攣に近い震えと涎を垂らしながらまるで感じているような表現を見せている。
ちなみに一緒に部屋に入ってきたシャドウバイヤは「うわぁ……」とドン引き状態。
それも分からないまでも無い。
竜の一部は尻尾をブラシみたいなもので撫でられると感じてしまうらしく、非常に嫌がる。
最もそんなことをする竜も中々いないので、基本的に知らない竜も多い。
エアロードとシャドウバイヤも奈美から触られるまで知らなかった。
初めて触られたシャドウバイヤは再起不能の精神的な肉体的なダメージを受け、エアロードはそれ以来ずっと避けていることである。
なので、エアロードは初めて感じるとう感覚を得ている。
「分かるぞ………」
シャドウバイヤは憐れむように、まるで慈悲を見えるような目でエアロードを見ている。
勿論エアロードにそんな言葉なんて届きはしないし、たとえ届いていたとしても言いたいことは一つ「早く止めてくれ」の一言。
しかし、シャドウバイヤは止めない。
何故なら止めたら自分の所に来るというのが分かっているからである。
「じゃあシャドウバイヤは私がしてあげるね」
「へ?いや…私は」
ジュリは優しく素早く尻尾を掴んでブラシで優しく撫でようと近づいていく。
シャドウバイヤはもう諦めていた。
心に覚悟を決め、目を強く瞑って感じる感覚を拒否するべく精神力を最大値まで高める。
しかし、シャドウバイヤはさほど感じなかったのか、表情はいたって呆気にとられるような顔をしている。
「気持ちいい………そうか、やっとわかったぞ。お前達兄妹が異常というだけで、普通は気持ちいいのだな」
なんだろう。ムッとしてしまった。
だから俺はエアロードの尻尾を撫でる力を速度を更に高め、エアロードは尻尾から迫りくる感覚にいよいよ悲鳴を上げ始める。
その悲鳴の上げ方は襲われる女性そのものである。
その度に俺は胸の奥にスッキリする感覚を得ていく。
「出来る事ならジュリよ。尻尾の裏側もしてもらえないか?」
「こっち?この辺がいいの?」
「ああ………その辺が最高だ」
シャドウバイヤは最高の気持ちよさを全身で現し、対照的なエアロードは悲鳴を上げながらヨガっている。
「そういえばジュリは話があるんじゃなかったのか?だから俺の部屋に来たんだろ?」
俺はただ単純にエアロードにストレスをぶつけているだけだし、時間をもてあましていただけだから好きなだけ聞いてくれていいんだけど。
「そうだ。実はソラ君に聞いておきたいことがあるの。魔導機の事についてなんだけど?今いい?私と奈美ちゃんの魔導機の事について」
「魔導機の事はジュリが一番よく知っているだろ?学年一位の実力者を差し置いて俺が出来る事なんてないと思うけど?」
「魔導機の事というか……戦闘時の種類なの。私もいい加減戦えるようになりたいから………お願いできない?戦いの実技試験だったらソラ君が上でしょ?」
まあ、そういう事なら俺は構わない。
俺はエアロードの尻尾から手を離した。




