探し人はいずこに 2
ジュリは胸に秘めた想いを抱きながらベットの上で少しだけ考え事をしていたのだが、時刻は八時を迎えようとしているにも関わらず、ベットから這い出る事が出来ないでいた。
昨日ホテルに帰ってきてから寝付くまで、ジュリはずっとソラと一緒にいたのだが、その際のソラの天然の行動がどうしても忘れられずにいる。
ホテルの出入り口から入っていき自分の部屋へと戻る過程でソラはまるで口説き落とすがごとくの優しさを見せ、ジュリは今更そんなことを止めて欲しいとは言えなかったりする。
その原因を辿っていけば元々は夜中に戦ったゴーストが原因だったりするし、そのとき覗き込んだ記憶に影響を受けてきたのは間違いないが、顔が真っ赤になるぐらいに恥ずかしい事を言われたことは一種のトラウマになりかねない勢いだった。
ソラが天然で恥ずかし事をずっと言い続ける時は決まって必ず精神的に、そして微妙に辛い事が遭ったときであるが、同時にだから止めづらいという事もある。
本当に辛い事が起きたときはそもそも立ち直れないほどの俯いているのでよく分かるが、逆を言えばこの程度の辛さはあっという間に治ってしまうので良しとするが、ジュリの方の精神的なダメージは直ぐには回復できそうに無い。
すると隣で眠っていた海竜ヴァルーチェが起き上がり、ウミヘビのような体を起こして周囲を見回す。
そして顔を真っ赤にしてベットの中で悶えているジュリを見てため息を吐き出し、そっと近づいていく。
「いつまで悶えているつもり? あの時ハッキリと「止めて」と言えば良かったのに…端から聞いている私でも恥ずかしい台詞の数々。よくもまああれだけ恥ずかし言葉を吐き出せると思ったものです」
「仕方ないよ。ソラ君は多少の辛い事があるとああなるもん。研究都市の時や海洋同盟の事件があった時もああなっていたし…覚悟していたもん」
「あなたは付き合いが良いですね。まあ勝手にしたら良いでしょう。それよりいつまでそのような体制を続けているつもりですか?」
そう言われてしまうとジュリとしては起き上がらざるおえないのでゆっくりと起き上がり、ヴァルーチェを抱えて洗面所へとやって来て洗顔をしながら昨日の戦いを思い出す。
「ゴースト……ソラ君から聞いた話だと彼は世界の犠牲者だったんだよね。ソラ君の言葉が届いていると良いな」
「犠牲者…ですか。まあ…強力な力を宿すと何かの犠牲者なのでしょうね。興味が無いと言えば嘘になるでしょうけれどね…。ソラが受け止めたのならあなたがウダウダしているのは筋違いでは?」
「どうしてヴァルーチェはいつも一言余計なの? 大体海洋同盟の時だって、研究都市の時だって一緒に戦ってくれないし…」
「私は基本的に戦闘型では無いのですよ。あなたと同じくね。記憶の操作と認識を弄るのが得意分野です。まあ…回復なども出来なくは無いですがね」
「じゃあ教えてよ! いつもはぐらかすばかりで…」
「…はぁ。仕方ありませんね」
といいながら飛んで洗面所から去って行き、その後を追いかけていくジュリは部屋に戻っていきベットに腰掛けてみると、スマフォが鳴り響く。
画面を見るとそこにはケビンの名前が映っており通話ボタンを押して電話に出てみると出てきたのは男性の声だった。
「初めましてというべきなのかな? アメリカ合衆国大統領です。君がジュリエッタという女性でよろしいですか? すまないね。ケビンは今どうしても外せない用事があってね。申し訳無いけれど私と少し話をしないかい? そうだね…そのホテルの一階にあるレストランで少し話そうか…?」
「…それはケビンさんが忙しい理由や、この後に行われる会談に関わる事でしょうか?」
「そうとも言えるし…そうとも言えない。単純に私の勘というものかな」
「それならソラ君が一番では? ケビンさんのスマフォに電話番号が記載してありましたよね?」
「ああ。だが君の方が良いと思ったんだ。駄目かな?」
ジュリは少しだけ考えて了承し、急いで着替えて階段を降りていき一階のレストランへと入っていく。
するとSPの護衛を従えている大統領、かつてソラが海洋同盟の時に話をしたと聞いた人物。
笑顔を向けてくるがたいの良いスーツ姿の男性に深々と頭を下げるジュリ、大統領はSPを下がらせてジュリを席に座るように促す。
「さて…いきなりで済まないが本題に入ろうと思う。実はここ数ヶ月ウチの副大統領がこそこそ動いていると大統領補佐官から報告を受けているんだ。本人に聞いていてもはぐらかされるだけ」
「私副大統領さんの事を少しだけ聞いたことがありますけど、企むような事を考えつく人に思えませんけど…」
「ああ。多分だが何かを起こそうとするのなら恐らく裏に別の人物がいるのだろうが、怪しい人物をここ数日探ってもらっているのだが、残念なことに発見には至っていない。怪しい人物はいるのだが、ここぞという時に何者かに邪魔されるようでな。何でも帽子姿の人間…」
そう言って大統領はスマフォの画面をジュリに見せるとそこには帽子姿の少女の姿、その少女をジュリは知っていた。
研究都市の戦いにおいてソラ達と戦っていた人物。
「不死の軍団のメンバー…確か名前は『キューティクル』だったはずです。服装が変わっていますが間違いないと思います」
「そうか…やはり。不死の軍団と呼ばれている者達がこのアメリカで動いていると聞いていたからね」
「それってジャック・アールグレイですか?」
「ああ。私が頼んだんだ。副大統領の目を欺くためにはね。しかし、何を企んでいるのか・・・」
「私も分かりません。でも大統領は今日の異世界会談では無いかと思っているんですよね? でしたら副大統領を今からでも逮捕して!」
「駄目だ」
大統領は少々強めの声でそれを制止した。
「確実な証拠も無いままに身内を責めることは出来ない。あんな奴でも副大統領・・・何を狙っているのかはハッキリと分からないが、証拠が無い今動くことは出来ない」
「ですが! もし狙いがあなたの命なら・・・!」
「だからこそだよ。いくら彼でも街の人たちの命までは奪わないだろうし・・・」
「ですが共犯者はそうするかもしれません! 動いてからでは遅いと思います!」
「何を言われてもFBIも警察も軍も証拠もなしには動けないんだ。それにだからこそ君たちに相談している。会談が開始する前に出来ることなら共犯者を探し出して欲しい・・・確固たる証拠と一緒にな」
ジュリはその話を聞いて頷く事しか出来なかった。
ソラはアカシの相手をしているとドアをノックする音が聞こえてきた。
ドアをゆっくりと開けてみると深刻な顔をしているジュリがそこにおり、ソラは中へと招き入れてジュリが大統領から聞いたという話を詳しく聞いた。
「じゃあその共犯者が今度は異世界会談で何か動きを見せる可能性が高いと?」
「うん。多分だけどノックスっていう男じゃ無いかなって思うんだけど・・・この人はここ数ヶ月ずっと監視体制が続いているらしくて怪しい素振りは見せなかったらしいの」
「なら連絡を取り合っている人物がいるって事だな。その人物がいろんな方面の連絡を買って出ているという訳か・・・」
「可能性は高いと思う。その人を探って欲しいらしいの。ケビンさんは大統領周辺の警護で忙しいらしいし、ジャック・アールグレイはキューティクルの相手で必死らしいから。私たちに探って欲しいと」
ジュリは黙って頷きソラはそれを見て考え込むが、そんな話を聞いてソラが行動しないわけじゃ無い。
「分かった。どうせなら暇なレクターや海にも動いてもらおうか・・・」




