探し人はいずこに 1
十二月二十四日の朝八時気持ちのいい朝を迎えることが出来、ゆっくりと起き上がると右腕に何か重たい何かを感じてそっちへと視線を移した所で脳裏に嫌な予感がよぎるが、そんな予感とは裏腹に間抜け面をしているエアロードが口を大きく開けて眠っている。
何というか…こんな奴でも竜の一人であることは間違いないのだが、竜一の馬鹿と言われているお馬鹿な竜。
エアロードを起こそうと揺さぶってみるのだが、まるで起きる気配が存在しない。
この馬鹿竜め!
少しぐらい起きればいいのに…て言うか俺の隣で寝るのは良いとして何故俺の腕を枕にする?
揺さぶってみてもまるで起きる気配が無く、俺は何度も何度も揺さぶって起きないので尻尾を掴んで引っ張ることで無理矢理俺の腕から引き離そうとするのだが、それを再び戻してしまう。
起きているんじゃ無いのか?
「おい! 起きているんじゃないよな?」
まるで起きる気配の無いこの馬鹿竜は俺の腕に涎でも垂らすのではと心配になり強めに揺らす。
鬱陶しそうにしているエアロード、俺は尻尾を掴んで持ち上げてそのまま洗面所へと入っていく。
洗面台に水を為その中にエアロードを落とす。
「溺れるだろ! 何をするんだ!? 起きてそうそう溺死なんて勘弁だぞ!」
「なら起きろ! お前いつまで寝ているつもりなんだ? 何で俺のベットで寝ているんだ? お前用に作った布団があるだろ? わざわざ作ったんだぞ」
洗面台から這い出てくるエアロードが俺に向かって怒りを露わにし、俺はそんなエアロードに変わって洗面台で顔を洗い始める。
そもそもエアロードの為に俺は帝都から用意した布団を敷いて上げたはずだ。
なのにも関わらずこいつは俺のベットで寝ている。
「せっかく目の前に高級ホテルのベットがあるのに、何故わざわざ持ってきた古い布団で寝なければ行けないんだ?」
「お前は良い度胸をしているな。お前の為にわざわざ持ってきた布団に失礼だとは思わないのか?」
「いいや? 何故物に同情をしなくてはいけないんだ? そんな事よりフカフカのベットで寝たい!」
欲望に忠実とはきっとこのことを指すのだろうが、同時にその態度に苛立ちを覚えてしまう。
ずぶ濡れになった自分の体をタオルで拭くエアロード、俺は顔を洗って一旦洗面所から出て行くと俺の背中にエアロードがしがみついてくる。
背中が重たいので出来ることなら離れて欲しい、と願っていると俺のベットの近くの棚からアカシが姿を現した。
俺とエアロードの会話を何かうらやましそうな感じで見ている。
「多分だけどな。私やお前との会話が羨ましいのだろう。喋ることが出来ないとずっと不満げにしていたからな」
「そっか……いつか喋れるようになれれば良いんだが」
俺はアカシの頭を優しく人差し指で撫でてやり、アカシはどこか不満げにはしていたが途端に笑顔に変わり両手を強く振りながら何かを訴えてくる。
それが俺の肩に乗りたいというアピールであると直ぐにわかり俺の右肩に乗せてやり一旦落ち着くために再びベットへと腰を落とす。
新聞を取りに行くには一階へと降りるかルームサービスを呼ぶ必要があるが、そんな事で一々ルームサービスを呼びたくはないので、俺は部屋に備え付けられているテレビの電源を付けてニュースに目をこらす。
のだが、全部英語なのでまるで理解出来ない。
「分かっていたことであるけど…全部英語だな。仕方ないから少しチャンネルを変えるか」
「そう言えば今日限定で各国のニュースサイトがテレビで見られるようになっていると言っていなかったか?」
「そう言えば…帝都のニュースサイトを開いてみるか…」
そう言ってリモコンを操作して一個一個確認していき、五つ目でようやくガイノス帝国の有名なニュースサイトが現れてニュース記事をスクロールで確認していくと一つ目がついた記事が飛び込んできた。
それは昨日の夕方から夜中にかけて大統領が襲われたという記事で、その記事についている写真にはケビンが映っている。
「ケビン……ジャック・アールグレイは不死の軍団を相手にしているって話だったし…一言言ってくれれば協力するんだがな」
「ジャック・アールグレイを助けると? お前が?」
「ごめん。前言撤回する。ジャック・アールグレイ以外は助ける。あいつは助けない。最後にひどい目に遭いそうだし」
実際中学時代はずっとひどい目に遭ってきたし、それこそ中学時代はずっとあいつとの戦いの連続だった。
簡単には語れないほどの歴史であり、因縁の連続でもある。
お互いがお互いに天敵でもあるので、余計にそう思うのかもしれない。
実際この半年に渡る事件で共闘出来ているのが不思議なぐらいであり、今でも正直理解しがたい部分はある。
「ジャック・アールグレイ……昨日聞いた話では京都ではカールとボウガンが目撃されているし、俺達はメメントモリと戦っている。ということはジャック・アールグレイが相手にしていたのはあの時、ギルフォードと戦っていたキューティクルという女だな」
「ああ。あの悪魔の事だな。でも、それならどこかでニュースになっていそうなものだが」
言われてしまえばその通りだと思ってニュースサイトを探していると、アカシが俺の肩で騒ぎ出し必死に指を指す。
すると指の先にはワシントン郊外で起きたある事件が書かれており、そこには帽子をかぶった男子風が少女が写されているが、そこに移っている姿は研究都市で目撃したあの悪魔と瓜二つの顔立ちをしている。
「爆弾魔らしいな。襲われているのは無職や所属不明の人ばかりだが…多分ジャック・アールグレイの会社員なんだろうな」
「フム…何やら理由がありそうだな。日本の方では派手にしているって話だが? 何でも全部の竜が物…というか武器になったんだったか? ざまあだな!」
「お前ってそういう部分では素直だな。シャドウバイヤは自主的って話だったか、それにヒーリングベルも事前に対応していた話だから」
「どのみちダルサロッサは武器になってしまったのだろ? ざまあだ! 私のことを『馬鹿』だと罵り追って! あいつだって馬鹿なのに」
お前以上の馬鹿という奴はいないからだろうけれど、確かそう聞いたことがあるので否定できない。
そうなると日本は日本で結構やばい状況という話になってくる。
「しかし、こっちも十四時から開始される異世界会談で大忙しだしな。手伝うことは出来なさそうだな」
「それで? 話ではボウガンとカールという女は向こうにいるのか?」
「カールは分からないが、ボウガンは間違いなくいるらしい。もう既に動き始めているという噂がある」
カール……新聞記者だったか?
あの時彼女が接触してきたのもボウガンのバックアップという目的があった。
そして、そのときの話をレクターに話しても覚えていないそうだし、やはり相手の認識を歪ませる術のような物があったのだろう。
不死の軍団…多分そこまで大きな組織では無いのだろうが、そんな組織が多くの国を相手取ろうとしているのだ。
今回の一件も大統領自らが『不死の軍団』を話題にあげたのがきっかけで、今後の対策を持ちたいと言い出したのがきっかけだったはずなのだ。
今日のお昼には皇帝陛下もやってくるはずで、それに併せて師匠達も動くという話である。
「今日はお昼までは暇だからジュリと一緒にどこか近くを回ってみるか?」
「フム! 武器になってしまった竜達の分も楽しもうと思うぞ!」
「そんな事を言っているとお前も痛い目を見るから気をつけろよ」
しかし、残念なことにエアロードがひどい目に遭うことは無かった。