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竜達の旅団≪ドラゴンズ・ブリゲード≫~最強の師弟が歩く英雄譚~  作者: 中一明
ニューヨーク・アップヒーヴァル《上》
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ゴーストは何処へ向かう 7

 ゴーストが立ち上がり周囲に広がる半透明のドーム状の『何か』を見守っていると、それがゴーストをここから逃がさない為の装置であるとはっきりと判断できた。

 そこまでされてゴーストは彼らがここまでの展開を読み切り、その為に対策を練っていたとハッキリと理解できた。

 自分の存在を理解し、その為にいくつも作戦を練って準備を繰り返してきた証拠こそ今ここにある。

 こうして追い詰められているのは間違いない。

 ガーランド達はサクト達を生け贄に選んででもゴースト討伐を優先した。


 ガーランド達がこっそりと導き出した答えがゴーストを倒せば自称治安維持組織を壊滅させることがほぼほぼ出来る。


 飛空挺を襲撃してきた際にゴーストが回収した時も、ハーレムで襲撃を仕掛けてきた時に同じように回収した時もなんとなくソラ自身が感じていた。

 ゴーストはおそらくこの組織を乗っ取り、暴走を繰り返している。

 間違いなくゴーストはもう依頼主なんてどうでもよくなっているのだ。

 かつて戦争中に暴走を繰り返して戦場をめちゃくちゃにしたように、ゴーストは間違いなく暴走を繰り返そうとしているのだろう。

 ゴーストにとって依頼主なんてあくまでも行動を起こすためにトリガーに過ぎず、生きていないゴーストにとって依頼で得られるモノは何も無い。

 行動原理があくまでも『殺したい』という単純な感情なので、逆に言えば依頼で得られる『金』や『名声』なんてモノはまるで役に立つことが無い。

 ガーランドやヴァルーチェが言うにはゴーストが生きる上で必要なモノは『憑依体』であり、この憑依体が無ければ生きることが出来ない。


 しかし、この憑依出来る存在も人間以外でも『生きている』という条件すら揃えばどんな生き物でもいいらしい。


 無の住人とは生物に寄生し、寄生した体を各にして粒子を生成する。

 その粒子こそがゴーストの正体であり、その粒子を完全に失えばゴーストは『消滅』という現象を迎えてしまう。

 粒子は『何か』に寄生させたり、付着させなければ徐々に消滅していくらしく、だから普段から無の住人は『何かに寄生している』とヴァルーチェがハッキリと告げていた。

 同時に憑依していない無の住人は『見えない』らしく、列車の中でソラが見えなかったのは憑依していなかったという事になる。

 そこまで聞いたところでソラとジュリは一つの結論を導き出したのだ。


 駅に人払いをしたのはゴーストでは無くガーランドで、ガーランドはいつからかゴーストが近づいてきているとハッキリとわかりきっていた。

 だから人払いをして憑依できる素体である人間を遠ざけ、列車の中に隔離しつつアベルとサクトを次の駅近くへ用意していた。


 そう・・・あの時ガーランドはゴーストが近づいているとハッキリとわかり、被害を拡大させないように努めた。

 その結果こそがあの戦いの正体である。



 ゴーストのにらみと言ってもいい殺意を前に二人はまるで怯む様子は見せず、むしろ剣を握りしめていつでも戦えるようにしていた。

 周囲にいる人々は今にも始まる戦いにある者はワクワクを抑えきれず、ある者は不安に表情をゆがませている。

 先に動いたのはゴーストであり、両腕に装備している鎖分銅を同時に飛ばして攻撃し、それをソラとガーランドはしゃがみ込んで回避する。

 地面に剣を突き刺してアスファルトを持ち上げて斬撃に変えてしまうソラ、ガーランドは走って近づいていきゴーストへと斬りかかっていくが、ゴーストは高周波ブレードで攻撃を受け止めると削られているような音と火花がまき散らされ、足下から土で出来上がった攻撃がゴーストに襲いかかっていく。


 盛り上がった土の攻撃をゴーストはバックステップで回避し、右側に回り込む形で走り出すガーランドに機関銃を向け、反対がからは盛り上がったアスファルトを利用して鎖分銅で攻撃を向ける。

 しかし、それを先にソラが阻止し、その隙に近づいていくが、ゴーストは腰から手榴弾をガーランドの足下へと投げつける。

 ガーランドはそれを軽く打ち上げ一旦後ろに下がった。


「矛盾を受け入れることが当たり前だと思うな。どんな人間も矛盾を受け入れることが出来るわけじゃ無い」


 出来上がった間、ゴーストは二人にハッキリとそう告げるが二人の意見がそんなことで変わるわけじゃ無い。

 ソラもガーランドも矛盾を受け入れて、苦しみを共有してくれる仲間や愛おしい人と出会い一緒に進んで生きたからこそこうして戦うことが出来る。

 一人でずっと生きてきたゴーストにとっては受け入れられない状況でもある。


「一人で生きてきたお前には理解できないかもしれないけれど・・・普通人間は一人では絶対に生きていけない。それはお前だって同じなんだ。お前もまた一人では生きていけない。お前は誰かに寄生・・・憑依していないと絶対に生きていけない」


 ソラの言う言葉こそが真実であり、ゴーストはきっとそんな言葉すら受け入れないのだろう。

 彼には絶対に引くことが出来ない、絶対に超えてはいけない意見がある。

 それこそが「矛盾は受け入れない」であり、彼は死を与えることで、死を自分の周りに配置することで「矛盾は受け入れられない」という事を証明する。


「人は一人では生きられない。でも、人は一人で生きているような錯覚を得てしまう。生きることだって他の命を奪いながら出ないと生きられない。命は常に何かに影響を与えながら生きている。その影響は常に『矛盾』という言葉と無縁ではいられない」

「いい加減な事を・・・・・・君たちは強い。だから矛盾を受け入れることが出来るんだ。一般的な人間が皆強いわけじゃ無い・・・!」


 それは二人をよく知らないからこその意見であり、それを頷くことは出来ない。


 ソラも・・・ガーランドも寂しいとき、一人で何も出来なくなったときに手を伸ばしたのは親友だったし、辛いときに癒やしてくれたのは愛しい人だった。

 ソラはレクターが手を伸ばし、ガーランドはアベルが手を伸ばした。

 ソラはジュリが居たから辛いときでも立ち向かうことが出来、ガーランドは奥さんが居たからこそ同じように立ち向かうことが出来た。


「「俺達は強くない。誰かに支えられながら前を進んでいくことが出来る」」


 レクターが、ジュリが、アベルが、サクトが、海が・・・皆が居たからこうして戦うことが出来る。

 前を向いて生きていくことは辛い事だってあるが、それでも誰かが引っ張ってくれたから二人はここまで歩いて行くことが出来た。


 そう・・・メメントモリが告げた『絶対の絶望』を抗う事が出来る『絶対の希望』とは、そもそも『英雄』とはそういうことなのだ。


『誰かに引っ張られ、誰かと一緒に隣り合わせで生きていく。力を合わせ、痛みを癒やし合い、常に支えあう事が希望を作り、その希望が絶望を打ち破る手段でもある』


「お前は奪われたことに躓き、目の前に襲いかかってきた絶望に飲み込まれてお前自身が絶望を振りまく存在になった」


 ソラはそうつぶやく。


「お前は忘れてしまっただけだ。無の住人は『希望』が『絶望』に変わるときに『生』が『死』へと変換されるとき、複数の命が『異能』によって奪われたときに『一人』の人間を核として粒子に変換して完成させる」


 ガーランドはハッキリとそう告げてしまう。

 その言葉に何を抱き、叫びだしそうになるゴーストは一歩前に踏み出した。


「・・・生きることは辛い事だ。私は君達に幸せを与えているんだ! 死から解放されることが一番の幸せなんだ!」

「「違う。生きる上で幸せを見つけ出すことが幸せなんだ」」


 受け止めるモノが違う者達は幸せを問い続ける。


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