亡霊の存在証明 6
父さんが登場したことでより激しさを増すような戦闘をすることになるのではと思われるが、この人やレクターに大人しく戦闘してくれとは言えないのだが、まあ相手を上手いぐらいに追い詰めてくれたら幸いだ。
メメントモリが次では戦闘に参加してくるかもしれないと思うと父さんの参加は正直にありがたい。
牙撃の使い手にして撃の継承者の一人、帝国三将の末弟に位置する人間であり、同時に俺の父親でもある。
正確ではレクターに非常によく似ており、ムードメーカーでありトラブルメーカーでもあるというありがたさと厄介さを併せ持つ物凄くメンドクサイ人達である。
父さんがやる気があるのかどうかがネックであるが、この人は先ほどまで閉じ込められていたという事もあり物凄くやる気がるみたいなので良いとしよう。
師匠に連絡を取るべきだと思い俺がスマフォを取り出すと師匠とレクターが素早く強奪していく。
「何? 何で取るわけ?」
師匠とレクターは顔で「ダメダメ」と訴えかけてくるのだが、多分師匠やサクトさんに知られたくないという本心があるのだろう。
まあ…勝手に脱獄したり、仕事を押し付けて逃げたりしている人達だからバレたら酷い目にあるだろうな。
まあ、手遅れだとは思うが。
「分かったからスマフォを返せ」
俺は二人からスマフォを取り戻しポケットに入れようとしている姿を見て階段を探す為に歩き出すレクターと父さん、するとスマフォの画面にジュリの名前が現れた。
どうやらメッセージがやってきたらしく件名から『レクター君とアベルさんを知らない?』とあるので、素直に「ここにいるよ」と返す。
その間にバレないようにしているのだが、二人が階段を探している最中俺の携帯から着信が鳴り響き、その画面には『アックス・ガーランド』と書かれている。
俺と海は顔をしかめながらなるべくスマフォから距離を置き通話ボタンをタッチすると、スマフォから大音量の怒鳴り声が聞こえてきた。
「アベル! レクター! 貴様たちはどこにいるんだ!?」
「あ! 走って逃げた! 階段を探しに行った」
「お前達どこにいるんだ? アベルが牢獄をぶち破って逃げたと聞いて連絡しているんだぞ」
俺と海は素直に現状を説明すると通話の向こう側から物凄い溜めのあるため息が聞こえてくるが、どうやら諦めたらしい。
「まあいい。どうやらこれ以上我々が向かえばゴーストは逃げそうだな。アベルが居るのならそれ以上の戦力投入は溜めておいた方が良いな」
「だね。俺もそれは思っているところ。だからこっちは俺達に任せておいて欲しい。そっちはジュリと一緒に絵でも描いて待っていて欲しい」
「……無理はするなよ。ゴーストの正体を一つでも絞り出してきてくれると助かる」
俺と海は「了解」と言って通話を切り、物陰から俺達の様子を伺っていたレクターと父さん。
取り敢えず上の階を目指して歩き出すしかないと四人で階段を探し始め、なかなか見つからないまま歩く事十分。
「もう一階を探し回ったはずなんだが…見つからないな。階段が無いのかね?」
「エレベーターは動くみたいですし、そっちを使いましょう」
海と二人でエレベーターまで歩いて行き、その後ろから少しだけ距離を持ってついてくる父さんとレクター。
エレベーターに乗り込んで二階のボタンを押して上へと昇っていく。
「メメントモリ…私を魔物に変えたあいつだな!」
「その恨み言忘れていなかったんだね。あれに関しては師匠からものすごい殴られたんだっけ? 丁度そのシーンを見ていなかったんだけど」
「ガクガクブルブル」
「震えるほど!? アベルさん物凄い震えているんだけど…」
「まあ…分からないでもないですよ。師匠…父さんから地獄を見るほど殴られたらしいですし」
「らしいな。俺も断片的にしか記憶していないしな。まあ…基本あの人は強すぎて父さんにとってトラウマだから」
二階に到着しエレベーターのドアがゆっくりと開いて二階が広がっているはずなのだが、そこには草原が広がっていて四人で絶句していた。
おかしい。
もう…空間がねじ曲がっていると説明しなくてはこの現状に説明がつかない。
「エアロード。これも暴走の一環なのか?」
「恐らくは。このレベルというのは流石に誰にも心当たりが無いだろうな。普通こうなる前に消滅するから。もう空間そのものを捻じ曲げて自分の記憶をその場に召喚している者だな」
綺麗な草原と一本の木、木の周りには色とりどりの花が植えられている。
一本の木はオレンジ色の花が咲き誇っており、こっちの方にまで花弁が飛んでくる。
「見たことが無い木だな。少なくともガイノス帝国領では見たことが無いタイプの木だし、何よりこんな場所は知らないな」
「帝都前の草原でも?」
俺からの問いに父さんは黙って頷く。
まあ、分からないでもない。
そもそも帝都前の草原は戦場跡が遺跡のような物があっちこっちに残っているのでこんな感じで見晴らしのいい場所は存在しない。
「取り敢えず木の近くまで行ってみるか…」
呟きながらエレベーターから足を踏み出し歩き出すと、草原の感触が靴越しにちゃんと伝わってくる。
何だろうな……慣れたけどこの物理法則を軽く超えてくる現象。
困惑することすらなくなった中で困惑するとは…流石ゴーストとだけ言っておく。
木の目の前に立ちぐるりと回ってみるとあの廃墟の記憶の中にいた少女が気の影から現れ、俺達の方にニッコリと微笑みかけているが、その後ろに顔立ちが多少似ている少女より背の高い少年が現れた。
こっちもボロい服を着ているのだが、こっちもこっちで楽しそうに見えてくる。
「兄妹? だよね? こっちの少年がお兄ちゃんなのかな? ていうかゴースト?」
レクターの疑問にハッキリ答えられるわけがないし、だからと言って考えないというわけにもいかない。
でも、俺からすればこの少年がゴーストになるとは思いたくないが、そんな中父さんと海がある事に気が付いた。
「師匠。この二人俺達の方を見ています?」
「だな。これは……この風景を見ている人物を見ている。この風景は三人目がいるな。其の人物こそがゴーストだろう」
「なるほど…二人の言う通りだな。少女と少年………孤児なんだろうな」
立ち振る舞いや姿を見れば多分この二人は孤児なのかもしれないが、同時に先ほどの場面から時間が経過していると分かってしまう。
最もこの後の出来事なのか、その後の出来事なのかははっきりしないのだが。
「ゴースト居ないねぇ…逃げたのかな?」
レクターがキョロキョロと周囲を見回しながら探しているのだが、たしかに見える範囲ではゴーストらしい人物は存在しない。
と思っていると風景の中にメメントモリが現れ風景をどこか楽しんでいる。
「フム。綺麗な風景だな。私の故郷の世界は緑が存在しないからね。荒廃した世界さ。まあ仕方がない……機会によって支配された世界なわけだし」
「ゴーストはどこにいるんだ? お前の目的を考えればゴーストが逃げることを許容するとは思えない」
「そうだね…このフロアに居るよ。ちゃんと……ほら…真上に」
そう言われて真上を見ると真っ黒の球体みたいなものが黒い蜘蛛の糸みたいなもの見えない天井に張り巡らせている。
中から蜘蛛が現れると言われたら普通の人間なら悲鳴を上げるだろう光景。
「ここからは私も参加させた貰おう。何せ…そっちも飛び入り参加が増えたわけだからね」
「その前に一つだけ。お前は無の住人についてどのぐらい知っているんだ? 全てを知っているのか…それとも知らないのか?」
メメントモリは目を瞑るように俯き顔を俺達の方へと向けてはっきりと告げる。
「全部」




