ゴーストからの挑戦状 13
メトロポリタン美術館に入ってすぐに中の豪華さに圧倒されており、ジュリは一つ一つの美術品をマジマジと見つめて物凄く詳しく調べているのだが、これは帝都に美術館が無いからという理由な気がする。
そう言う事なら海洋同盟の時に一緒にまわっていればよかったと思ってしまった。
本当に楽しそうに回っている姿を見るとジュリは美術品を見て回る事は楽しい事だったのだろう。
昔奈美や母さんと近くの小さな美術展を見て回った時は途中で奈美がぐずったことは思い出して苦笑してしまう。
母さんもあまり真面目に見ているイメージが無かったので俺達家族は多分美術という観点にあまり興味が無いのだろうが、ジュリはきっと違うのだろう。
もしかしたらという想像が脳裏を過り素直に聞いてみた。
「もしかしてジュリって絵とか描くのか?」
「う~ん…趣味程度かな? ちゃんとは描いてないよ」
「今度見せて欲しい。俺は美術的な才能がまるで存在しないからさ」
「そうなの? それはそれで見せて欲しいけど…因みにどの程度?」
「棒人間レベル?」
ジュリからすればそれは苦手というレベルではないのだろうが、実際俺は小学校の時に絵を描くという授業で教師から「逆に才能」と称された俺達兄妹の才能を舐めないで欲しい。
もう…棒人間を書かせた俺達に任せて欲しいと言ってもいい。
「それは誇れないよ。もう……ジュリちゃんの通っている女学院には美術の授業があるはずだけど…どうしているの?」
「さてな。何か方法を使って誤魔化しているんじゃないのか? あいつそう言うずる賢い事だけは才能があるからな」
「そう言う言い方……でも今度聞いてみようかな。意外と絵の勉強を真面目にしていたらどうする」
「素直に…ショック」
「そんな本気でショックを受けないでもいいのに。今からでも勉強すればいいじゃない」
「嫌だよ。絵の勉強なんて将来なんの役に立つんだ? その道に進むわけでもあるまいし」
「でもガーランドさんって絵を描くよね? 確か趣味で書き溜めていた分を個展を出して欲しいってしつこく言われて困っているって聞いたけど」
「え? 裏切られた!? 師匠は絵を描かないって信じていたのに」
そんな個展を開くほどにうまいって事なのか? 信じられない…このメトロポリタン美術館で異世界絵画展覧会で出品されていない限り信じないぞ。
パンフレットを握りしめながら悔しさがこみあげてくる。
父さんだって知らないはずだ…師匠が絵を嗜んでいるなんて。
「確か子供から嫌われていて夫婦でいる事が多くて自然と一人で出来る趣味がはかどったらしいけど」
「悲しすぎて涙が出てくる! そんな理由で上手くなったって悲しすぎるだろ」
「でも…この異世界絵画展覧会の会場にあるみたいだよガーランドさんの絵」
パンフレットをマジマジと真剣に見ていると確かにそんな感じで書かれているのだが、信じたくないというのが俺の心でもある。
まあ順番に見ていけば最終的に行き着くはずだ。
その時に師匠の絵を見てみよう。
「アベルさんは絵を描かないの?」
「書くと思う? 部屋を掃除しない…食器類は片づけない…部屋に入ったら下着姿でうろうろしているだけ。そんな人が絵を描くと? 絶対にない。あの人が絵を描く姿を見たことが無い」
「ていうかアベルさんって趣味あるの?」
「酷い事を言いますね。あるよ……筋トレ。鍛えるのがあの人の趣味だし。鍛える為だけに地下を掘ったというレベルだからな」
ウルベクト家はそもそも地下が存在しないのだが、あの人が住むにあたって掘ったという行動力の高さである。
そう言えば師匠の家も地下があるんだよな…あれも掘ったのかな?
「どうだろうね。元々なのかな? ガーランドさんの家は文字通り一家が代々で使っている家のはずだし。リフォームはどこかでしているかもしれないけど…ていうかソラ君はガーランドさんの家に行ったことあるんだ」
「まあな。師匠に鍛えてもらっている時に何度も足を通ったことがある。四階建ての豪華な庭付きの広い家。正直あのレベルになると……引く!」
「豪華すぎて引くって感じなのかな? 私は遠目に何度か見たことがあるけどそうでもなかったよ。ソラ君の家だって相当広いよね?」
「広いけど南区って基本家が密集しているから庭付きの家は作れないんだよな。あの人の家は庭までもが豪華すぎるんだよ。庭でサッカーや野球ができるんじゃないかってレベルだからさ」
あの人の家は他の金持ちの家に比べても広すぎるのだ。
次のコーナーへとすんなり移動していきその際に話の話題を変えてみた。
「家といえば…俺ジュリの家に行ったこと無いだけど。良くウチに泊まりに来るけどさ…両親は何も言わないのか?」
ジュリはよく俺の家まで遊びに来るし、お泊りすることもまた多いのだ。
必然と俺はジュリの両親の事を良く知らないのだ。何度か出稼ぎという言葉を聞いたことがあるし、家自体は俺と同じく南区の旧市街地にあると知ってはいるが…。
「そこまで貧乏なわけじゃないんだけど…両親の仕事柄家に居ないことが多いから。レクター君と違って家に居ることが珍しい感じかな。まあ、昔は結構心配されていたけど、ソラ君の家に行くようになってから心配されることは少なくなったかな」
「まあ…軍の大将クラスの人が住んでいる家だし。それに立地条件もいいしな」
俺の家は立地条件が非常によく、目の前に帝城があるせいか結構治安が良く問題が起きることが全くない。
「そうだね。帝城前って結構土地代も結構高いんだよね。確かあの家って戦争中の功績と北の近郊都市襲撃事件で家を無くしたからって皇帝陛下がくれたんだっけ?」
「らしいよ。俺も詳しい聞いたわけじゃないけど。何せ父さんからすれば苦しい時代のエピソードだし」
だからと言って折角もらった家をゴミ屋敷にするのは本気でやめて欲しいけれど、俺や母さんが掃除しないと本気でゴミ屋敷にしてしまうのだし。
そもそも初めて家に入った時玄関を開けた瞬間に漂ってくる異臭と山のように積み重なっているゴミを前にして俺は悲鳴を上げてしまった。
「そう言えばそうだったね。私もその時直ぐ隣にいたからよく覚えてる。すごかったもんね。部屋中にゴミを積み重ねて寝泊りしているんだもん。業者やガーランドさんやサクトさんなんかも頼んで一緒に片づけたんだっけ?」
「本気で大変だったよね。ソラ君卒倒しそうだったし。でも…あの荒れ位は大切な人を失った反動って事もあるんじゃないかな?」
それはあると思う。
大切な人を失って生きていて、何度も何度も生きることを苦しいと感じていただろう。
生きることが辛いと感じていたからこそ、師匠やサクトさんは父さんに幸せで会って欲しいと思っているのかもしれない。
「奈美も片づけるのが嫌う所があるから単純に本人の才能という事だけだと思うけどな。海が掃除が上手で良かったよな。海も今どこで何しているんだろうな? 作戦前にゆっくり休んでいた方が良いと思うけど」
海は真面目過ぎるきらいがある。
サクトさん辺りと一緒に仕事をしているかもしれないし、下手をすれば父さんの監視をしているかもしれない。
「海君の良い所だけど…そう言う意味ではレクター君とは真逆だよね? よくガーランドさんやアベルさんやサクトさんの比較対象としてソラ君は上げられるよね。ソラ君はガーランドさん、レクター君はアベルさん、海君はサクトさんって比較されるよね?」
「それって比較されたくないって俺達が訴えたいという気持ちを組んでくれないのかね?」
きっとされないのだろうと分かり切っていた。




