亡霊と呼ばれた者 10
飛行艇の中に感じる三週間前に感じた『悪意』を異形の存在として襲い掛かってきた奴と同じ気配をしたことを俺は師匠に報告しておこうと思い師匠の部屋へと歩いて行く過程で後ろからレクターが思いっきりと襲い掛かってこようとしていた。
俺はしゃがんで回避しつつ俺は無視を決行することにした。
因みにエアロードを俺の肩に居座りながら滑りこんでいくレクターを無表情で見送り、俺は師匠の部屋のドアを『コンコン』とノックを知るのだが、ドアの向こう側から反応がやってこない。
中をエコーロケーションで探ってみるのだがやはり無人であるとはっきりと判断できた。
さてはてこれは困ってしまった。
「ソラ! ガーランドさん達はジュリと海と一緒に下の階で食事をするって出かけたよ!」
「それを早く言うんだ! さあ! ソラよ! 夕食の時間だ!」
「なんでお前が反応するんだ? どうして元気なんだよ…まあいいか…」
レクターの言葉にどうしてエアロードが反応するのか本気で理解できなかったのだが、そんな事を理解するつもりもないからレクターを無視する形で下の階にある食堂へと移動する為歩き出す。
レクターが俺の周りをウロウロしているのが鬱陶しくてならないのだが、三人で階段を下りていき下の階へと辿り着いた時俺達はおかしいと気が付いてしまった。
そこは先ほどの階だったのだから。
階段を確かに降りてきたはずだし、今度はもう一度下へと降りてみても先ほどと同じ階層へと戻ってくるという不毛な連鎖が始まってしまう。
仕方がないという事になり、レクターを一旦置いて俺とエアロードだけが下の階へと降りてみてもやはり元の場所に戻ってくるし、レクターが同じことをしても戻ってくる。
「ねえ! 食堂へといけないんだけど! 腹減った!」
「それどころじゃ無いだろ…俺達が術にかかっているのか、それともこの階層にいる人間だけがこうなっているのか探りようが無いな」
「? 何で? エコーロケーションで探ればいいんじゃない?」
「それが…エコーロケーションで索敵をしているんだが……まるで底が見えないというか…先が見えないというか…まるで索敵が出来ない」
「フム。なるほど…まるで理解できないな!」
「以下同文!」
「お前達はもう黙っていろ! これ以上喋ると衝動的に拳が付きだす事になる」
まるで役に立たない戦力だと言わざるを得ない二人、俺は思考を一旦まとめてみるのだが、下に降りれば元に戻るという事は上に上がればどうなるのだろうかとレクターに試させてもやはり同じ場所に戻っていく。
今度は前に進んでみると、今度は先があるの用で行き止まりに辿り着くことができる。
「ねえ! 窓から外に出てみて下に降りれない?」
「やってみろ。下手をすればゲートを通過中に異次元の狭間に永遠に閉じ込められることになる。しかし、外から移動するというのはありだな…確かこのフロアは外から下の階に移動することができる場所があったはずだ」
俺達は外へと出ることができるデッキへと移動し、下の階へと降りようとしたとき俺は再びあの札を発見した。
前の時は人除けの術だったが、あれは周囲にいる人間にそれとなく術を掛けるのだが、どうやら今回の術は場に掛ける術式だったようだ。
「この階に術を掛けているようだが、これを破壊したらあの悪意がやってくるんだろうな…」
「? 何の話?」
「いや…こっちの話だ。それより戦闘態勢を整えていた方がいい」
と言ったのだが、何故かエアロードは俺の服の中へと隠れていくのは何故なんだ?
お前も戦えよというツッコミを入れてみても大して変化があるわけじゃないので止めておくとして、レクターの戦闘態勢が整ったタイミングで俺が札に触れるとやはりというべきか……黒い靄のような物がデッキの一部を覆い隠し、そんな黒い靄から口と目が姿を現した。
「…ゴーストなのか? お前なのか?」
「君は……確か…陸だ!」
「……わざとなんだな? ソラだ! ソラ・ウルベクトだ!」
「そうそう……そこそこの強さだったからよく覚えているよ。ふうん……やはり君は面白いね。僕が掛けていた術に辿り着くって。運かな?」
運なのかと言われれば運と言うしかないが、それを面と向かって言われると本気で腹が立つ。
「お前は……誰なんだ? なんなんだ?」
「僕は亡霊……ゴーストさ。今回はお仲間も一緒みたいだし……楽しませてよ」
「その前に…一回俺と逢っていないか? 第三分校で…」
黙り込むゴーストこそ答えのような気がしてならないが、後ろではレクターが除け者扱いされている事への怒りを俺達の方へと向けてくる。
「へえ…あの時居たんだ……ごめんね一々意識していないからさぁ」
「「だったら意識させてやるよ! 亡霊如きが偉そうにするなよ!」」
俺達の怒りを一々気にするような奴ではないが、亡霊が俺たちの前に立ち塞がろうとしている事に俺達は特に違和感など覚えていた無かった。
ガーランド達は食堂の席を確保しておき、ソラ達がやってくるのを待っていたのだが、呼びに行ったレクターも帰ってこないと少しだけ不安になってしまう。
ジュリが時計を確認してガーランドに話しかける。
「遅すぎませんか? 階段を上ってすぐのドアを叩くだけですよね?」
「…トラブルに巻き込まれたか? まさか…この一時間に満たない時間の中ですぐにトラブル何て…」
喋っていてドンドン自身が無くなっていくガーランドだったが、実際ソラやレクターは中等部時代から何かとトラブルに巻き込まれることが多いとガーランドでも把握している。
実際何度か呼ばれたことがあったと記憶していた。
「しかし、戦闘レベルのトラブルが起きているのなら音で分かるはずだろ? それにガーランド。お前のエコーロケーションで上の階ぐらいまでなら探せないか?」
「それが上に索敵を伸ばしてみてもまるで見るからない。まるで上の階がそのまま消滅しているかのように」
エコーロケーションで索敵が出来ていないというと少しだけ不安になってしまうのだが、その正体が全く理解できていないわけじゃない。
テーブルの上で待ちぼうけているアベルとてこの飛空艇に入った時、なんとなくのレベルだったのだがそれでも感じた「ゴースト」の気配。
「ゴーストの気配を感じないか? アベル」
「入った時は感じたが今は感じないな。感じないというよりは切れたという感じが強いかもな」
「いつ頃だ? 常に意識していたわけじゃないから分からなかったんだが?」
「う~ん。先ほどかな?」
そんな話を聞いていたジュリが三週間前の第三分校地下でソラが経験した出来事をそのまま素直に話してみると、二人の表情が少しばかり険しいものに変わった。
「ゴーストが十年前に同じような手段でガイノス帝国軍の陸軍を襲ったことがあったな。小隊を捉えて…」
「ああ……マズイな。ソラはほんの数時間前にゴーストから目をつけられているはずだ。レクターと一緒にゴーストの相手をしているのかもしれないな。アベルはここにいろ。ゴーストがここに現れる可能性もある。私は直接上に行ってみる」
そう言って食堂から出ていき階段を登ろうと足を一歩踏み出したところで階段の向こう側からゴーストの強烈な『悪意』を体全身から感じ取ってしまう。
この場所に辿り着くまではまるで感じ取ることができなかったのは間違いがない。
この上にゴーストはいて、何かを企んでいると言わざる終えない。
「何か違和感を感じるが……まあいい」
勇気をもって足を踏み出しゴーストの元へと歩き出していく。