亡霊と呼ばれた者 8
結局で師匠が俺達に何をさせたいのか…それはこの学生通しの問題を学生通しの内乱という形で収める。
そうすれば一般人にもマスコミにも表向きには学生間の問題ごととして解決できるし、何より本校生徒が分校生徒を捕まえれば本校に増築する際の最もらしい良い訳。
ジュリが教えてくれたことだが、元々本校の増築は少々無理があったらしく、反対意見が強かったらしいのだが、これで本校生徒が問題行動を解決した場合はそれらしい理由に成る。
それに…その増築の理由の中には誰かさんが良く問題を起こすためや、来年以降から本校生徒を増やすって計画があるらしい…留学生とかも増やしたいって聞いた。
「本校関係者と軍関係者からすればこの事態を速やかにかつ簡潔に解決したいという願いと、それが出来る人間にどうやって頼むのかという事もあったという事だね」
ジュリの言う通りでこの事態を簡潔に解決できて、それを了承してくれる人間なんて俺しかいない。
だからこそ師匠を現場に呼んで俺を呼ぶ口実作りをするというわけだ。
「内乱という形で解決することで色々と都合のいい内容に変えてしまいたいという事さ」
俺達は地下デパートへと入っていき、学校の真下近くまで近づいたところで俺達は迷子になってしまった。
ここまで迷子になる要素何て存在しなかったはずなのに、曲がりくねっているわけでもなく、だからと言って人が…と思った所で俺はふと思う。
第三分校の地下には人が一人もいない。
「人払い? でも…どうやって」
間違いなく人払いがされていると確信しつつ、俺は迷うことなく学校の真下へと繋がる場所の出入り口へのドアが目の前に、しかし、その鉄のドアには見慣れないお札のような物が張りつけられていた。
それを剥がしておこうと思い手を伸ばし手を伸ばしてみるのだが、そのお札に触れる瞬間にドアが突然開いて真っ黒な影のようなモノが俺に向かって襲い掛かっていく。
「!? 誰だ? お前が学生達を唆したのか!?」
『オマエハダレダ? ナゼココニクルコトガデキル?』
真っ黒な『何か』は俺に対して確かな敵意を感じて、どうやらこのお札を剥がして欲しくないようだ。
だとしたら無理矢理でも剥がしてしまいたくなるのが俺なのだが…。
「お前が誰なのかという事を聞いても答えてくれないんだな…」
『………ジャマヲスルナ。スレバ…コロス』
「……そこを退いてもらうぞ! お前が狂わせてしまったこの事件を俺が真正面から打ち砕く」
黒い『何か』が黒い物体を無数の腕を複製して襲い掛かってきて、俺はそれを右側に回避しながら緑星剣を召喚しつつ縦に真っ二つに切り裂く。
切り裂かれた黒い何かは地面にぶつかってグチャという音を立てて広がっていき、大きな黒い水溜りが出来上がるとその水溜りから黒い死神のような姿を形作り始める。
俺は死神の胴体を真っ二つに切り裂こうとするのだが、黒い何かは体を自分で真っ二つにして回避してそのまま俺に向かって襲い掛かってくるのを俺はバックステップで回避しつつ緑星剣に風を纏わせる。
『竜撃。風の型。風見鶏』
正面に横薙ぎの一撃を叩き込み、死神の形が完全に風の一撃で粉砕されてしまい、俺はそのまま再びドアへと向き合う。
正直ドアから溢れ出る黒い何か俺に向かって襲い掛かってくるのを俺は一旦バックステップで距離を取り、天井が存在するこの地下デパートだからこそ使える上下左右に縦横無尽に駆けまわる技。
『竜撃。風の型。花鳥風月』
右側から空間全体に駆け回っていき黒い何かを切り裂きながら一気に突き進んでいき、風の刃を緑星剣に纏わせて突撃すると同時にドアごとぶち壊す。
大きな衝撃音が地下デパート中に広がったと思われるが、俺の耳には人払いの術式が破壊された音が聞こえてきた。
結論から言えば俺の行動は決して無駄ではなかったのだが、その音に引き寄せられるようにジュリとレクターが姿を現した。
目の前に粉砕されたドアと怒りを全身に現したのではと思われるのかもしれないが、俺からすればそれどころではない。
「何があったの? 私達が迷子になっている間に…」
「人除けの術式があったんだ。襲われたけどな…今回の事件…誰かの手が加わっている。あの術式は問う考えても普通じゃない。一学生ができることじゃない」
「? 良く分からないんだけど。俺達が迷子になったのはその人除けの所為? ソラだけまっすぐにたどり着けたの?」
俺は黙って頷きながらドアをゆっくりと開いて目の前に薄暗い階段がちゃんとあると少しだけ安心する。
階段を登る過程で先ほどの戦闘の話をちゃんとして起き、あっという間に学校の出入り口までたどり着いた。
「それでさ……結局俺達はどうすればいいの?」
レクターの疑問に俺は素直にまっすぐに答えた。
「ひたすら暴れればいい。そしてそのまま制圧する」
俺の声と同時に目の前にあるドアがレクターの右拳によって吹っ飛んでいき、そのドアが学校の玄関への直接的なダメージとなる。
玄関口に集まっていたのではと思われるほどに生徒が密集しており、衝撃とドアが粉砕されたという現象に皆の視線が集まっていきレクターは「ハロー」と元気よく挨拶を決めるのだが、この状況でボケることができるってすごいと思う。
全員の敵意を瞳に燃やし、俺個人としてはそのままレクターが巻き込まれればいいのに。
「皆さんを捕まえに来ました! 大人しくしてください」
「空気読め。少しで良いから空気を読んでくれ」
どう考えてもこの人達が大人しく投降するつもりが無いと分かって欲しいし、何より異質な空気なんだって理解を求める。
やはり先ほどの異形の存在が何か学校中に仕掛けているのか、それともそんな彼らの学校側への不満がああいう異形の存在をこの地に呼び出したのか。
「その制服…本校の生徒か…バカにしやがって!」
俺達に対して敵意は増していくだけなのだが、そんな中俺は彼等の影から真っ黒な『何か』が彼等の感情を高めていくような気がしてならない。
異形の存在とこの際呼びこととするが、やはりこの異形の存在は何か明確な意思を感じる。
「やっぱり……あの異形の存在には明確な意思を感じるが、でも同時にその異形の存在には俺達を明確に意識しているわけじゃないのか」
「どういう事? ソラ君には何か見えているって事?」
「ああ。影に何か黒い……『悪意』のような感情がまるで姿を形作ったような存在が見える」
悪意がまるで存在しない存在を形作っているような。
まるで『闇』という言葉をそのまま形作っているような存在が俺にははっきりと感じてしまう。
見えてしまうわけじゃない。
ただやるべきことはまるで変わっていない。
彼等を制圧するだけ。
「俺はジュリを守りながら周りにいる人を制圧するから、レクターは全体を素早く制圧しろ」
「了解」
そう言って爆発するような速度で駆け出していき玄関の人間を全てきっちり無視して駆け出していくのだが、俺からすれば多少なり玄関の敵を倒して欲しかった。
玄関の敵が俺の周りに密集しており、その全てが俺に向かって敵意を向けているのだろうが、やはり何か異形の存在が全員を操っているような気がする。
「ジュリ…」
「大丈夫。後方から援護するね」
ジュリがスマフォ型の魔導機を取り出し、俺は緑星剣を召喚して改めて剣先を構えるのだが、そんな時全員の足元から真っ黒な影が笑っているような姿を俺に見せた。
その笑顔は明らかに悪意を現している。
声にしたら間違いなく高らかという言葉が似あうような笑顔だった。