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竜達の旅団≪ドラゴンズ・ブリゲード≫~最強の師弟が歩く英雄譚~  作者: 中一明
シーサイド・ファイヤー≪上≫
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太陽のはじまり 1

 俺はどうしようもなくレクターの事が気になってしまったのだが、それよりも疲れ果てて足腰に力が入らないのも事実。

 尻餅をつきそうな気持に鞭を打ち、大きく息を吐き出して竜の欠片を解除する。

 鎧が手足から順に解除されていき、最後にマントと頭部のマスクが姿を消す事で完全に解除する。

 周囲身を見回していると視界に入ってくるのは燃えて黒くくすんだ柱、斬撃の影響が壁に切り傷を付けている。


 疲れ切ったレクターが父さんに連れられて第一指令室へと入ってくのを目だけで確認し、大きな安堵の息を漏らす。


「サクトは無事か?」

「ええ、大丈夫よ。足を負傷してしまったけど。下の階はどうかしら?」

「大丈夫だ。客人は無事だろうな?そっちが重要だぞ」

「ケビンさんも足を負傷しているようだけど、命に別状は全くないわ。外相も………聞いての通り無事よ」


 それは戦闘の最中からでもよく分かるほどのキーキー声、正直耳にタコが出来るのではないかというほど音量。

 元気一杯すぎて困るぐらいなのだが………。


「それと………下でレクターがボウガンという敵の幹部クラスを鹵獲した。先ほど上層部からの指示で海洋同盟へ連れていくことになった」

「どういう意図かしら?外相の方は連れていかないのに、ボウガンっていう男だけは連れていくって」

「理由は二つ。外相を引き渡さない代わりに『あの男』を連れていく事で取引をするため、もう一つはボウガンが脱獄の達人だからというのが理由だ」


 脱獄の達人?

 あの男そんな異名を持っているのか、見かけの大柄な体系からはあまり想像できないけど………へぇ。

 対面で尻餅ついたレクターも同様に感心したような、それでいて無知を曝け出すような表情をしている。


「ふ~ん。で?その情報はどこから入ってきたのかしら?」

「ガーランドから先ほど連絡が入っただけだ。私はずっと前からそう思っていた」

「あ~はいはい。そうねよぇ」


 サクトさんが慣れた態度をとっているようだし、この人は父さんの見栄っ張りを良く知っているのだろう。

 俺の隣までやってきた父さんが俺の肩に右手を置きながら声を掛ける。


「よくやったな。少し休みなさい」


 そこまで言われて俺はようやく肩の荷を下ろしてその場に尻餅をつく。

 しかし、父さんがサクトさんに近づく前に俺の方へと首だけを向きなおし、オールバックの男が言っていた言葉と全く同じ言葉を口にする。


「そう言えばソラ。何故ラウンズを使わない?使えんわけじゃないだろ?前にオーフェンスの家では普通に使っていたはずだ」

「そう言えばさっきの戦いでもまるで使わなかったわね。あの騎士人形があればあなたはもっと早くに事態を収束出来たのではなくて?」


 二人に尋ねられると俺としては無視するわけにはいかない。

 俺としてはあまりしたい話じゃないのだが。


「ラウンズは俺の同級生だった三十九人の魂の欠片で完成されている。それは逆を言えば三十九人はラウンズという騎士人形という形で収まっているだけだ。彼女達はあの東京決戦を収めるための力として俺に託してくれた。自らの命すらかえりみずに」


 彼女達、堆虎達はそうやって命を落とした。

 俺はそんな彼女たちの想いを無視できない。


「だけど………今回のように俺が勝手に首を突っ込んだ事件に堆虎達を巻き込みたいとは思わないんだ。それに………俺達四十人がそろって初めて星屑の英雄なんだ。今の俺が星屑の英雄なのかどうしても悩んでしまう」

「そんな事………あなたが悩む事?あなたはある意味世界を救った英雄でしょ?」

「だが同時にただの士官学生でもある。星屑………要するに星の集まりのような物だ。背中のマントを見れば分かるが、ソラはあくまでも剣だ」


 そう俺はあくまでもみんなを守る剣であって星ではない。


「この場合星屑の英雄は堆虎達の事を指しているんじゃないかって思うと………どうしてもな」

「フム。お前としてはそこで悩んでいるというわけか?」

「うん。日常生活のようにくだらない事なら大して何とも思わなかったんだけど。今みたいに命懸けの戦いを想うとどうしても」


 父さんは口元に手を当ててふと悩むそぶりを見せる。


「ソラ……お前もしかして三十九人の夢を見ているんじゃないのか?それを見てしまったからお前の中でラウンズを使う時に心にブレーキがかかったんじゃないのか?」


 悪夢を最近時折見ているのは事実だが、同時に俺はその悪夢を覚えていないのも事実ではある。


「覚えていないんだ。悪夢を最近時折見るようになったのは事実なんだけど。俺はその悪夢の正体がよく分からないんだ」


「貴様達はいつまで私をこの部屋に拘束しているつもりなんだ!!」


 うるさい声が俺の話の遮断してくれる。

 俺としてはこれ以上話したい事でもなかったし、話が遮断されるのなら十分だ。

 そう思っていた時の事である。

 俺が片づけたはずの緑星剣が俺の右手に握られていた。


「いつの間に?」


 こういう事はあまりある事じゃないが、剣先は確かに外相の方へと向いているのが分かる。

 そして、剣先が大きな竜の顎に変貌していくのをみて俺は素早く理解した。


 あらゆる異能を奪い、あらゆる異能を破壊する竜の欠片が持つ能力の1つ。

 そして、ある意味一番の問題のある能力だ。

 この能力半分は自動で展開されているので、意識しない時に発動していることがある。

 初めて使った時は周囲の魔導機をとにかく飲み込もうとしていた。


「父さん!サクトさん!竜の顎(ドラゴン・アギト)が発動してるんだ!何かに反応しているみたいで」

「全員魔導機を直ぐにそばから外せ!」


 レクターを始めとして多くの人々が魔導機を外す中、竜の顎はまるでその魔導機に興味を示さないようにゆっくりと外相のいる第一指令室へと近づいていく。

 するとタイミングが悪い事、外相は無理矢理拘束を抜け出して姿を現した。


「貴様達はいつまで私をこの場所に捕まえているんだ!私は………!? なんなんだその大きな竜は」


 外相の方へとゆっくりと近づいていき、大きな口を開いて今にも外相を食べようとしている。


「父さん!狙いは外相だ!何か持ってるぞ!あの男」

「おい!貴様は何を持っている?異能のレベルの何かを持っているな」

「し、知らんぞ!私は知らん!」

「早く出しなさい!アベル君!竜の軌道を逸らせないかしら?」

「無理だ!これ以上近づけば私の異能にも反応しかねない。それよりあの外相が持っている『何か』を奪え!サクト!」


 サクトが足を引きずりながら外相へと近づいていくのだが、外相は逃げようと必死になっている。

 何人かが外相を抑え体に入っている何かをまさぐり始める。


「は、離せ!その手鏡だけは駄目だ!それは」


 竜の動きが少しだけ変更され、確実にその手鏡目掛けて突き進み始める。


「早くその手鏡を竜に与えてくれ!もう限界だ!今にでも襲い掛かろうとしているんだ!俺でも抑えられない」


 いい加減竜が外相を噛み砕こうとしているのを抑えられない。

 サクトさんが外相の上に重なり、懐をにある手鏡をすばやく奪い竜の口目掛けて投げつけると、竜は大きな口を開いて手鏡を一口で食べてしまう。

 そのまま大人しくなった竜は一本の緑星剣へと戻っていく。


「な、何をしている!あの手鏡は『太陽の英雄』の手がかりだったんだぞ!なのに!」


 太陽の英雄。

 その言葉を俺は知っている。

 ジェノバ博士が言っていた千年前に魔王を封印した英雄。


「そうか………反政府組織があんたを狙っていたのは、アンタが太陽の英雄の情報を集めていたためか。あの大学に訪れたもう一つの理由は太陽の英雄を調べる事」


 外相は気まずそうに顔をそむけた。


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