運命の交差点ーギルフォードー 2
メメは機材を真っ赤なスポーツカーに乗せている間にギルフォードの元へと一旦向かい、合流すると細かい事情を説明すると、ギルフォードもついて行くと言い出し、事後処理を一旦軍に任せて二人は八代教授の元へと急いで向かうと、スポーツカーに腰掛けながら缶のブラックコーヒーを飲んでいる八代を発見した。
近づいてくる二人をジロジロと見つめ、思考回路で現状を整理しつつ八代が導き出した答え。
「二人は付き合っているのかな? 仲良きことは良い事さ」
「「違います。勝手に邪推しないでください」」
「おや? そうなのかい? てっきり付き合っているのかと……ここで愛の告白でもしてくれれば私のやる気のボルテージが上昇するんだがね」
缶コーヒーをゴミ箱へと捨てて車へと乗り込む。
「そんな事でやる気のボルテージを上昇させないでください。八代教授の元に行けば国防長官の居場所がわかるんですよね?」
「ええ。と言っても時間が少しかかりそうだけどね。何せ国防長官の連絡先を記載している手帳何て何年前の話なんだが……」
「それもどうなんだろうな…一国の国防長官の連絡先を雑に扱うというのも」
「いやね。私が知り合った時はまだ国防長官じゃなかったしね…、それに要件の為だけに現れて用事が終わったらさようならっていうあの人の冷たい一面はどうにもなれないよ…ほら私コミュ障だからさ」
ギルフォードとメメは同時に「そうは思えないけど」と思ったがあえて口に出さない。
八代は二人は後部座席へと誘導し、二人は車の後部座席に座るのを確認すると八代は一気にアクセルを踏み切り、当然速度を上げたスポーツカーに翻弄される形でギルフォードとメメは悲鳴を上げそうになる。
道路交通法を完全に無視しているのではと思われるほどの速度、曲がるときにドリフトを決めていたりと警察が近くにいたら間違いなく免停は確実だろうことは間違いない。
しかし、指摘する気持ちもわいてこない二人、実際悲鳴を上げないように堪えるだけで必死。
都市高速へと昇っていく過程すら全く速度を緩めない八代、後ろから警察がやってくるのではと常にハラハラしてしまう。
しかし、そんな二人と違い八代本人は全くそんな事を考えておらず、物凄いノリノリで運転を続けていた。
ようやくの想いで慣れてきたギルフォードが口を開いた。
「いつもこんな感じで運転しているのか? 良く捕まらないな!」
「警察ごと気に捕まる私じゃないよ。それにゆっくり走っていたら勿体無いだろ? 時間は有限なんだよ…有効に使わないと」
「言いたいことは分かるが、だからって自殺必死の殺人ドリフトをきめられる人間の気持ちになってくれ!」
「大げさだね。そうやって国防長官殿みたいなことを」
「そんな偉い立場の人間を載せてアンタは殺人ドリフトを決めたのか? あんたは人でなしだ!!」
「大げさだよ。時折「吐きそう」と訴えるだけさ…」
「そ、その……私もそろそろ…」
「止めろ! 車を今直ぐ止めるんだ! メメが吐きそうになっているぞ!」
「これはスポーツカーだよ? 直ぐには止まれないさ。窓のから顔をだして吐いて」
ギルフォードが急いで車の窓を開けてメメの顔を突き出したタイミングと吐いたタイミングは完全に同時だった。
「これ以上は持たない! 都市高速から降りて何処かに止めてくれないか?」
「あと一時間だよ? 待てないかい?」
「無理だ! ハッキリと言うが一時間も走っていたら間違いなく死ぬ」
矢代は仕方ないねぇと言いながら都市高速から降りて近くのパーキングに一旦止める。
メメは一旦車から降りていきベンチまで移動して深呼吸をしながら息を整え、その間にギルフォードはコンビニへと向かって水を購入して戻る。
「しかし、こんな運転の仕方をしてよく捕まらないよな……逮捕された事本当にないんだよな?」
「無い無い…いつも逃げ切るからね」
「それもどうなんだろうな…しかし、ここから一時間も運転していたらメメが持たないからもう少しだけゆっくりにしてくれないか?」
八代は仕方ないと言って法的速度を維持した状態で運転すると途端にメメは安心したような表情を造る。
法的速度を維持している事を確認してホッと撫で下ろしてからギルフォードは気になったことを聞いてみた。
「そう言えばどういう経緯で国防長官に出会ったんだ?」
「……私は昔っから異世界という存在に心ときめいていたの…それは大学の時に異世界に関する論文を書こうって決意するぐらいにね。でも当時のゼミの教授から全力で止められたけどね」
皮肉る様な顔を造りながらもそう語る八代、それを聞いていてギルフォードは正直に言ってあまり良いイメージを抱けなかった
むしろそれを止めた教授の気持ちを理解していしまった。
まだ異世界という言葉が本当に存在すると立証されていない様な、架空の理論でしかない存在をまるで当たり前のように語る姿はきっと頭のおかしい人間だろう。
「元々私が異国大学の教授職を受けたのも、異世界という存在をもっと知りたいと思ったからだしね。元々研究内容が違うって咎められて当時の大学を辞めさせられたけど後悔はしていないよ」
「でもどうして異世界に? 異世界から来た人間が言うのもどうかと思うが…こんなジャンル知らないで済むならその方が幸せじゃないか?」
ギルフォードの言葉はきっとソラを思い出しての事、それは決して幸せな方では無いとギルフォードはそう思ってしまう。
異世界を挟んで交流をしたソラは結果多くの人を失って英雄と呼ばれるようになる。
「そうかもしれないね。でもね。私は異世界に持つ可能性に魅入られたんだ。人の思考が許す限り広がる無限の世界、それは誰も知らない世界がどこかに存在していて、そこは人の思考や想像すら超えた世界が絶対にどこかにある。自分で作るのでは想像できない、創造することすらできない様な世界…それこそ夢のような世界がどこかにある…」
きっとそれは夢物語でしかない。
異世界に憧れる現状にある者はこの世界から脱して、自分の知らないことが溢れている世界に行ってみたいという願い、それはきっと誰に抱けることではないし…何より夢を追う事はきっと簡単じゃない。
ああなりたい。
こうなりたい。
子供の頃は無限の夢を見て人は育ち、成長する過程で現実を知っていき、そしていつの日か人は妥協した生き方をする。
これで良いんだと、諦めようと、上に行く事を辞めてそこそこの幸せを追い求め、何も出来ないことを『普通の事』ととらえて生きる。
それでも八代は夢を追い続ける事を選び、夢を決してあきらめないと決めた。
だからこそ八代は自分のやりたいことに全力を向ける。
「頭がおかしいと思うだろ? でもね…本気なんだよ。私はいつか見てみたいんだ…死ぬまで絶対にあきらめない。一つでも知らない世界を見つけていく」
車が目指す先は異国大学なのだが、きっと八代が見ている瞳の先は無限に広がる世界。
無数の世界が広がり、その無数の世界を一つでも多く知りたいと願う一人の人間。
「まあ少しばかり頭のおかしい願いだとおもうけどな」
「そう思うかい? ソラ・ウルベクト君からそう言われてしまったんだよ。でもね。あの子は笑いはしなかったんだ。きっと…夢を抱くことは恥ずかしい事じゃないってあの子は知っている空なんだろうね」
それもそうなのだとギルフォードはなんとなく知っている。
ソラ・ウルベクトもまた人に癒えない夢を抱いて生きていて、そう言う意味ではきっと八代に同情しているのかもしれない。
夢という言葉にギルフォードはどうしても納得できないものを感じていた。
今だ夢という言葉と向き合えていない人間こそギルフォードだったから。