運命の交差点ーギルフォードー 1
会社前の広場ではギルフォードと吸血鬼モドキの戦いが激しさを増しており、建物の中からでもわかるほどの大きな爆炎が上っており、メメは相手の首筋にクナイを突き刺して、太陽光の指す場所まで引きずり出して燃やし尽くす。
建物に残っている吸血鬼モドキは太陽光を克服できなかった吸血鬼モドキで、外にいる吸血鬼モドキはそれを克服できた分だけ戦闘能力が高いが、その分再生能力にラグがある。
そこまで判明した二人は手分けしてかかることにした。
ギルフォードが外で派手に暴れ回り戦力の高い吸血鬼モドキを引きつけ、残りの吸血鬼モドキをメメが太陽光のある場所まで引きずり出す。
メメはクナイを吸血鬼モドキの脳天に突き刺し、それをワイヤーで引っ張り太陽光の元まで連れていく。
吸血鬼モドキが燃え上がるときは全身から一気に燃え上がり、一瞬という速度で吸血鬼モドキの姿は完全に消えてしまう。
「知性は人間以下。あくまでもボウガンの命令通りに動くだけの人形ですね。吸血鬼をギリギリまで再現しているというだけで、根本的な部分は全くの別という事ですか」
メメが推測を告げていると廊下の端の方から女性の声が聞えてきた。
「それでおおよそ当たっているでしょうね。しかし、何か持っているのかしら? ここの会社に用事があるって思って尋ねればこのありさまだもの…」
真っ黒の箱を片手にスーツの上に白衣を着ている日本人女性、メメからすれば危なっかしい状況この上ないが、どういう訳か吸血鬼は彼女に近づこうとしない。
「やあ。私八代という名の大学の教授でね。ある理由からここに来ているんだよ。君はここの……会社員じゃなさそうだね」
女性は苦笑いを浮かべながらメメへと近づいて行く、メメからすればこの状況で無傷でここまでこれたという状況が常軌を逸しているが、その答えは彼女の持っている箱にあるのだと推測した。
「ああ、この箱かい? ある人から研究を頼まれてね、少しばかり実験してみたくなったんだけど……まさかこんな形で役立つとは思わなかったよ」
「ここは危険です! 直ぐにここから離れてください」
「そうしたいんだけどね。外の奴らには通用しないらしくて…やはりちゃんと理解していないというのは痛手だね。お嬢さんはかなりの手練れと見た。あとで護衛料だったら払うから守ってくれないかな?」
とぼけたような態度を見せる八代に聞こえるように大きなため息を吐き出し、メメはクナイを新しい吸血鬼モドキに向けて放って太陽光で燃やし尽くす。
「分かりました。でも、危ないといったら逃げてください」
「分かってる。分かってる。しかし……これはどういう事かな? 皆化け物になっているね…」
八代からすれば会社に来たら皆化け物に変貌しているという事態、驚くのも無理はない話。
「昨日電話をしている限りでは普通に見えたけど…もしかして元々そう言う会社だったのかな? それとも…誰かが一晩で変えてしまったのかな?」
一晩で出来る人間なら心当たりが一人しかない。
ボウガンが一人でこれだけの事態を引き起こしたのだろうと予想し、八代はメメの忠告をちゃんと聞いているのか分からない足取りである部屋の中へと入っていった。
今すぐにでも追いかけたい気持ちだが、太陽光から出れば途端に襲い掛かってくることは明白、ましてや相手はかみついただけで吸血鬼モドキにする力を持っている可能性すらある。
メメからすればかすり傷でも負いたくない。
「どうやら彼等が化け物にされたのは最近…それも二三時間以内だね。ここに争った跡がある。その後の付き具合と近くに落ちている書類の日付から考えても間違いない。ここで吸血鬼モドキにされてしまった人間はここで備品のチェックしていたみたいだね」
「そこから出ないでくださいね! 絶対に」
「はぁ~い」
本当に聞いているのか、全く聞いていないのか分からない気の抜いたような返事を聞いてため息の1つでも吐き出したくなるメメ、最後の一体太陽光に引きずり込んで大きく息を吐き出す。
するとドアがゆっくりと開いて中から八代が感心したような声を漏らしながら現れた。
「大したものだね。外にいる化け物もあっという間に駆逐されたみたいだね……大したものだ。ある意味私はついていたのかな?」
「それよりどうしてここに用事が? あなたは何者ですか?」
「ああ……異国大学って知っているかい? ほら…大阪湾に作られた人工島」
「ええ、名前ぐらいは」
「そこの大学の教授。ここに預けてあるある道具を取りに来たらこの有様さ。できればそこまで守ってくれるとありがたい」
メメはため息を吐きながら「良いですよ」と承諾して目的の倉庫まで歩いて行く。
矢代の言う通り外も殆ど駆逐し、軍用ヘリがやってきて事後処理を行っている。
「さてさて…これは私も事情聴取というやつをされてしまうのかな? 出来ればこのままストレートに大学まで帰りたいんだけどね…何せこの箱を調べて欲しいとアメリカの国防長官殿から任されているから」
八代が呟いた言葉に驚いて八代の肩を強めに掴んでから揺さぶりながら「今なんと?」と尋ねると、八代は目をパチクリさせ驚きながら先ほどと同じセリフを繰り返す。
「では…ここに国防長官がいらっしゃっていると? 今回の異世界交流会には来ないと…」
「ああ、私もそう聞いていたんだが国内で奇妙な動きがあったらしくそれでここまで来ているらしいんだ」
「奇妙な動き…米軍の不法侵入…もしかして狙いは国防長官? その国防長官はどこに?」
「さあ? でも今日行う予定だった会談は予定を移すって言っていたから本来の予定地とは別にいるはずだけど…あれで勘はよく当たる人だからね」
国防長官がどこにいるのかそれは八代でもはっきりとは分からない。
「では、彼に直接話は出来ますか?」
「う~ん。連絡先は知っているけど…手元には無いんだよ。携帯には親族以外に連絡先を入れないのが私の主義でね。仕事や友人関係は手帳に書いてあるんだ。だから大学まで帰らないと分からないよ」
こうしている間も米軍は確実に動いており、国防長官は会談を行う為に準備を進めているのは間違いない。
メメは八代に「急いで回収しましょう」と彼女を促して倉庫の出入り口までやってきた。
「あなたはいつ頃国防長官と話をしたんですか?」
「昨日寿司屋で食べていたら急に話しかけてきたんだよ。その時にこの黒い箱を調べて欲しいって頼まれてね。面倒ごとに巻き込まれたと思ったものだよ。それでなくてもソラ・ウルベクト君からの依頼もあったのに…」
ここでその名を聞くことになるとは思わなかったメメ、驚きで再び目を開いてしまうが、今はそこまで気にしている場合じゃないと意識を切り替えて倉庫のドアを二人がかりであける。
すると埃っぽい室内空気が二人を襲い掛かり、せき込みながら中へと入っていくと薄暗い室内を明るく照らす為に二人はまず電源を探し始める。
「どうしてこんな場所に入れておくのかしら? いつでも出せるようにって頼んでおいたのに……」
「そもそも何を探しに?」
「この黒い箱の詳細をしらべる為に機器かしらね。室内が狭くなってきたし、最近こっちに移しておいたの。まさかまた使う事になるなんて…」
ブツクサ文句を言いながら電源を探し出してメメ、倉庫の中が一気に明るくなっていき倉庫中に広がるコンテナや段ボールなどの箱類が目の前一杯に広がり、荷物に挟まる形で存在している廊下を歩いて探す八代。
するとようやくの思いで見つけ出した荷物を八代は引きずりながら取り出し、両手で持てる大きさの段ボールを抱えながら二人は大学へと向かって動き始めた。